(旧版)科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン 2006年版

 
 
CQ2 化学療法


CQ2-1 局所進行切除不能膵癌に対し,化学療法単独による治療は推奨されるか?

【エビデンス】
局所進行切除不能膵癌に対しては,フルオロウラシル(5-FU)を用いた化学放射線療法が標準治療と考える研究者が多い(表3)。しかし,ECOG1)(レベルII)のランダム化比較試験では5-FU化学放射線療法と5-FU化学療法の生存率に有意差がなく,切除不能膵癌に対する一次化学療法として位置づけられている塩酸ゲムシタビンは5-FUより優れた全身化学療法剤と考えられている2)(レベルI)。そこで,局所進行切除不能膵癌に対しても塩酸ゲムシタビン単剤による治療法が標準治療となり得るかどうかのエビデンスを検証した。
Burrisら3)(レベルII)により,進行膵癌の化学療法において,塩酸ゲムシタビンは従来の標準選択薬の5-FUとのランダム化比較試験で,奏効率は5.4%と低率であったが症状緩和効果が23.8%と有意に高率で,Time to progression,50%生存期間(5-FU;4.4 カ月vs. 塩酸ゲムシタビン;5.7カ月)が有意に優れていた。この報告をもとに塩酸ゲムシタビンが進行膵癌化学療法の標準薬と位置付けられた。しかし,この報告3)(レベルII)は全症例126例のうち局所進行例は33例(23%)のみであり,さらに,局所進行例と遠隔転移例との成績が区別して示されていない。米国のNCCN Clinical Practice Guidelineでは塩酸ゲムシタビンの推奨度を,PS良好な局所進行切除不能膵癌例に対してはカテゴリー2B(NCCNのコンセンサスは得られていない。否定的判断ではない)としている。Limaら4)(レベルII)は局所進行切除不能膵癌24症例に対し,塩酸ゲムシタビンによる化学療法の50%生存期間は11.7カ月であると報告し,従来報告されている化学放射線療法の50%生存期間は約10カ月前後であることより,遜色ない結果である。しかし,局所進行切除不能例において化学放射線療法と塩酸ゲムシタビンとのランダム化比較試験の報告はみられない。そのため,局所進行切除不能膵癌に対し塩酸ゲムシタビンによる化学療法を標準治療とするにはさらなるエビデンスの積み重ねが必要である。
以上より,局所進行切除不能膵癌に対して塩酸ゲムシタビン単剤による全身化学療法を標準治療法として推奨するだけの十分な根拠は乏しい。

 表3 局所進行膵癌に対するランダム化比較試験
報告者 報告年 放射線化学療法 放射線療法 化学療法 症例数 50%生存期間(月) P値
Moertel 1969 40Gy+5-FU
-
-
40Gy
-
-
32
32
10.4
6.3
< 0.05
GITSG 1985 40Gy+5-FU
60Gy+5-FU
-
-
-
60Gy
5-FU
5-FU
-
28
31
25
10.6
10.1
5.7
< 0.01
< 0.01
ECOG 1985 40Gy+5-FU
-
-
-
5-FU
5-FU
47
44
8.3
8.2
n.s.
GITSG 1988 54Gy+5-FU
-
-
-
SMF
SMF
22
21
10.5
8.0
0.02
 SMF:streptozotocin, mitomycin C, 5-FU
 n.s.:有意差なし


 

 
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