(旧版)科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン 2006年版
CQ1 診断法
CQ1-5 膵癌の病期診断(TNM 因子)に有効な検査法は何か?
【エビデンス】
EUSを主体とした膵癌のTNM診断に関する報告がいくつかあり,その中でprospectiveな報告が2編あった(表2)。1編はEUSとCTの比較1),もう1編はEUS,ヘリカルCT,MRI,血管造影の比較2)の報告である。前者は151例の連続した症例の中の81例の手術例を対象として,TN因子,血管浸潤,切除可能予測の正診率を比較したところ,全てEUSがCTを上回った1)と報告し(レベルIII),後者は62例の開腹例を対象として原発巣,局所進展,血管浸潤,遠隔転移,TNMステージ,切除可能予測の正診率を比較したところ,原発巣,局所進展,血管浸潤,遠隔転移,TNMステージ,切除可能予測でヘリカルCTが最も高い正診率を,腫瘍径,リンパ節転移の評価でEUSが最も高い正診率で,決定解析で,この両者が最も信頼できる,コストのかからない診断法2)と報告している(レベルII)。ただしEUSに関してはretrospectiveな検討ながら89例を対象として,TN因子の正診率がそれぞれ69,34%であったが,切除可能予測率が主に過診断のため46%に過ぎず正確ではない3)との報告もあった(レベルIV)。
他の検査法では,腹腔鏡を併施した腹腔鏡下US検査を用いた膵癌のTNM診断に関する報告が幾つかあった。その中で1編は体外式US,腹腔鏡US,CTのprospectiveな比較4),もう1編は単独検査のretrospectiveな検討5)の報告である。前者は50例の膵癌を含む膵頭部領域癌を対象として,T因子の特異度はそれぞれ64,100,47%,M因子の特異度はそれぞれ29,94,33%で,総合的な切除可能予測の正診率もCTの79%に対して腹腔鏡USは97%と最も信頼できる検査と報告している (レベルIV)。後者はCT等で遠隔転移を除く膵癌35例を対象として,TNM各因子およびTNMステージの特異度がそれぞれ80,76,68,68%と報告している (レベルIV)。しかし腹腔鏡下USは現時点では広く行われていない。
CQ4-1の中のImamuraらの報告にあるごとく,外科的手術適応の境界となるStage IVaでの外科切除手術と化学放射線療法のRCTによる検討の中で,術前画像診断でStage IVaとされた81例中39例(49.4%)が開腹所見で過剰もしくは過少診断であり,術前画像での進行度診断の困難であることを示している。
膵癌の病期診断として期待される新しい検査法としては,CTとPETを融合したPET/CTスキャン6)があるが,まだ広く実用化されていない(レベルIV)。結局,膵癌のTNM診断に関するprospectiveな報告は上記の3編しかなく,現時点では膵癌の病期診断(TNM 因子)にはヘリカルCT ,EUSが勧められると考えられる。
表2 各種検査法による切除可能予測(前向き試験) |
報告者 | 検査法 |
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Gress FG, et al 1) |
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Sorinano A, et al 2) |
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John TG, et al 4) |
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