(旧版)褥瘡予防・管理ガイドライン(第3版)

 
序文
1.背景
日本褥瘡学会は,2005年に「科学的根拠に基づく褥瘡局所治療ガイドライン」1)を発表し,さらに予防,発生後のケアを追加して2009年に改訂版ともいうべき「褥瘡予防・管理ガイドライン」2)を発表した。本ガイドラインは,第4期学術教育委員会が中心となり,前回改訂以後のエビデンスも収集し,ガイドラインを論文形式にまとめたものである。これとは別に,写真や図表を含めて褥瘡の予防・管理をわかりやすく解説したガイドブックが近々に発刊される予定である。欧米ではNPUAP/EPUAPガイドライン3)が2009年に発表されているが,本ガイドラインでは,エビデンスの収集とレベル・推奨度の決定にあたり原則的に過去の改訂版1,2)を踏襲した。また,わが国に特異な医療事情も考慮して作成した。
今回のガイドライン作成にあたり特に留意した点は,①新しいClinical Question(CQ:臨床上の疑問)を追加すること,②新しいエビデンスを補充して,現場の実情に配慮した推奨度,推奨文,解説の記述にすること,③わが国特有のいわゆるラップ療法に関するCQを追加すること,④ CQの配列を治療,ケアの順序にすること,⑤アルゴリズムやフローチャートを作成すること,などである。

2.目的と対象
本ガイドラインの目的は,褥瘡管理にかかわるすべての医療者が,それぞれの医療状況において,褥瘡の予防・管理をめぐる臨床決断を行うあらゆる局面で活用するために,現時点で利用可能な最良のエビデンスに基づいて推奨項目を提示することである。しかし,本ガイドラインで示す推奨は,個々の医療状況を無視して,画一的な適用を求めるものではなく,医療者の知識や経験といった専門性,それぞれの医療環境で利用可能な資源を考慮し,患者やその家族・介護者にとって最もよいと思われるアウトカムを実現するために,医療者の意思決定を支援するものである。本ガイドラインを褥瘡予防・管理の質を向上させ,患者やその家族・介護者に適切な説明を行うためのツールとして機能させることにより,わが国の褥瘡診療のレベルアップを図りたい。

3.作成者
本ガイドラインは,日本褥瘡学会で任命されたガイドライン策定委員会(第4期学術教育委員会)により作成された(著者名参照)。また,本ガイドラインの方針と内容は,日本褥瘡学会「褥瘡局所治療ガイドライン」(2005年,第1版)1)と「褥瘡予防・管理ガイドライン」(2009年,第2版)2)を原則的に踏襲したものであり,ここに過去の版の作成者を列挙する。
第1版(2005年)作成者1)
宮地良樹(委員長),真田弘美(副委員長),須釜淳子,立花隆夫,福井基成,古田勝経,貝谷敏子,徳永恵子,中條俊夫,美濃良夫,大浦武彦,岡博昭,館正弘,藤井徹,森口隆彦,中山健夫,長瀬敬,杉元雅晴,日髙正巳
第2版(2009年)作成者2)
古江増隆(委員長),真田弘美(副委員長),立花隆夫,門野岳史,貝谷敏子,岡博昭,長瀬敬,館正弘,中山健夫,田中マキ子,大桑麻由美,須釜淳子,松井典子,北山幸枝,徳永恵子,足立香代子,岡田晋吾,日髙正巳,廣瀬秀行,紺家千津子

4.方法
1)エビデンスの収集
使用したデータベースはMEDLINE(PubMed),医学中央雑誌Web版,CINAHL, ALL EBM ReviewsのうちCochrane database systematic reviews, ACP Journal club, Database of Abstracts of Reviews of Effect(DARE), Cochrane Central Register of Controlled Trials(CCTR)である。各種ガイドライン,個人が個別に収集できるものも含めた。検索期間は1980年1月から2011年6月までである。採択基準はシステマティック・レビュー,臨床試験,特にランダム化比較試験の文献を優先し,それがない場合はコホート研究,症例対照研究などの観察研究の文献を採用した。さらに不足する場合は症例集積(ケースシリーズ)の文献まで拡大した。また,原則として「褥瘡の治癒」を主たるアウトカム指標として評価しているエビデンスを優先したが,看護領域のCQではQOLなどをアウトカムとするエビデンスも対象とした。動物実験や基礎的実験に関する文献は除外した。また,本ガイドラインで扱う機器,用具,外用薬,ドレッシング材などは,原則としてわが国で使用可能なものとし,そうでない場合にはその旨を記載した。
2)エビデンスレベルと推奨度決定基準
本ガイドラインのエビデンスのレベルと推奨度およびその決定基準については,「診療ガイドライン作成の手引き」4),脳卒中合同ガイドライン委員会による「脳卒中治療ガイドライン2009」5),日本皮膚科学会による「皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン」6)を参考にした。
(1)エビデンスのレベル分類
I: システマティック・レビュー/メタ・アナリシス
i) ランダム化比較試験のみを対象とする
ii) ランダム化比較試験,コホート研究,ケースコントロール研究を対象とする
iii) i),ii)以外を対象に含む
II: ランダム化比較試験による
III: 非ランダム化比較試験によるヒストリカル・コントロール試験,自己対照試験を含む
IV: 分析疫学的研究(コホート研究や症例対照研究による)
後ろ向きコホート研究,ヒストリカル・コントロール研究**,時系列研究,自己対照研究を含む
V: 記述研究(症例報告やケースシリーズ)による比較群のない介入研究,横断研究を含む
VI: 患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見
なお,各推奨度の決定に用いた個々のガイドラインのエビデンスレベルは示さないことにした。

ヒストリカル・コントロール試験は,新しい治療法の有効性を検証する研究的な意図で行う介入試験の一つであり,新しい治療法の実施前に,倫理委員会による研究計画の承認が必要となる。対象患者をランダムに介入群と比較群に分け,同時並行でアウトカムを比較するランダム化比較試験とは異なり,過去の同様の症例で介入群とは異なる治療が行われた患者群と,新たな治療法(介入群)を比較する研究デザインである。
**ヒストリカル・コントロール研究は,評価対象の治療を,過去の同様の症例で別の治療が行われた患者群と比較する点ではヒストリカル・コントロール試験と同様であるが,研究目的で新しい治療法を行う介入研究ではなく,日常的な診療の一環として行うものであり観察研究の一つである。
(2)推奨度の分類
十分な根拠があり,行うよう強く勧められる
根拠があり,行うよう勧められる
C1 根拠は限られているが,行ってもよい
C2 根拠がないので,勧められない
無効ないし有害である根拠があるので,行わないよう勧められる
根拠とは臨床試験や疫学研究による知見を指す。
(3)推奨度の決定
推奨度の決定は原則的に前版の方針1,2)を踏襲した。すなわち,推奨度Aの判定には少なくとも一つの有効性を示すレベルIもしくは良質のレベルIIのエビデンスがあることを条件とした。ただし,ランダム化比較試験以外も対象としているシステマティック・レビューは評価を下げた。推奨度Bの判定には少なくとも一つ以上の有効性を示す質の劣るレベルIIか良質のレベルIIIあるいは非常に良質のIVのエビデンスがあることを条件とした。ただし,症例数が少ないランダム化比較試験や企業主導型のものは評価を下げた。推奨度C1の判定には質の劣るIII-IV,良質な複数のV,あるいは委員会が認めるVIがあることを条件とした。推奨度C2の判定には有効のエビデンスがない,あるいは無効であるエビデンスがあることを,推奨度Dの判定には無効あるいは有害であることを示す良質のエビデンスがあることを条件とした。
いずれの推奨度の決定においても,海外のガイドラインの解説や推奨度も参考にした。また一部のCQでは褥瘡に対するエビデンスが乏しいため,褥瘡を含む外傷や皮膚潰瘍を対象にした試験もエビデンスに含めた。しかし,その場合には評価を下げた。C1に該当するCQには,エビデンスは少ないが,臨床現場においては励行すべき重要な事項が含まれているため,CQの採否を含め,策定委員会の合議の結果を反映させた。

5.資金提供と利益相反
本ガイドラインの作成に要した費用はすべて日本褥瘡学会が負担しており,ほかの団体や企業からの援助は受けていない。また,推奨度の決定にあたっては策定委員の合議で決定した。その際,策定委員が当該項目に利益相反がある場合には,その項目の推奨度判定に関与しないこととした。

6.用語の定義
本ガイドラインの文中で使用した用語は,別に日本褥瘡学会の用語委員会が定める用語集の定義に従った。ただし,日本褥瘡学会が発表した褥瘡状態判定スケールであるDESIGNとDESIGN-Rについてはそれらの開発の歴史を含めて別項を設けて記載した。

7.ガイドライン公表前の査読システムと今後の改訂の予定
ガイドライン作成にあたっては,複数の策定委員による執筆と査読,委員会での全員の合意,理事会での議論と承認を得た。その過程で,二度の日本褥瘡学会学術大会でシンポジウムを行い,学会員の意見を聴取した。また,一定期間学会のホームページに公開して広く意見を求めた。
本ガイドラインは日本褥瘡学会の学術教育委員会が中心になって数年ごとに改訂する予定である。


【文献】
1) 日本褥瘡学会:科学的根拠に基づく褥瘡局所治療ガイドライン, 照林社, 東京, 2005.
2) 日本褥瘡学会:褥瘡予防・管理ガイドライン, 照林社, 東京, 2009.
3) National Pressure Ulcer Advisory Panel and European Pressure Ulcer Advisory Panel:Prevention and treatment of pressure ulcers:clinical practice guideline, National Pressure Ulcer Advisory Panel, Washington DC, 2009.
4) Minds診療ガイドライン選定部会:Minds診療ガイドライン作成の手引き2007, 医学書院, 東京, 2007.
5) 脳卒中合同ガイドライン委員会編:脳卒中治療ガイドライン2009, 協和企画, 東京, 2009.
6) 斉田俊明, 真鍋求, 竹之内辰也, ほか:皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン作成委員会:皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン. 日皮会誌, 117(12):1855-1925, 2007.


 

 
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