(旧版)褥瘡予防・管理ガイドライン

 
第3章 褥瘡の治療


慢性期褥瘡の局所治療 Clinical Questions
深い褥瘡(D)の場合
6.Pをなくす ポケットの解消


CQ1 どのような外用薬を用いたらよいか

推奨
推奨度 C1 ポケット内に壊死組織が残存する場合はまず創面の清浄化を図る。また、滲出液が多ければポビドンヨード・シュガーを用いてもよい。
推奨度 C1 少なければトラフェルミントレチノイントコフェリルを用いてもよい。
しかし、改善しなければ、外科的治療あるいは物理療法を検討する。


A.ポビドンヨード・シュガー
【エビデンスレベル】
ポケットへの使用に関する論文には、対照群なしの非ランダム化比較試験が1編1あり、エビデンスレベルIIIである。また、その中の観察項目でポケットの改善を認めている。

【解説】
  • ポケット内へ詰める場合は、圧迫しないように詰める。
  • 滲出液を吸収して浮腫を抑えることで、良好な肉芽形成とともにポケット内の細菌繁殖を抑えることが期待できる。
  • 滲出液の吸収効果と感染制御作用を有する23456
  • 白糖の吸水作用により創面の浮腫を軽減するとともに、線維芽細胞のコラーゲン合成を促進して良好な肉芽形成効果を発揮する6
  • 滲出液が乏しい場合には、創面が乾燥してかえって創傷治癒が遅延する恐れがある。
  • 100g中にポビドンヨードを3.0g含有するので、ヨードアレルギーに注意する。

【参考文献】
1. 宮地良樹,河盛隆造.糖尿病を合併した褥瘡,皮膚潰瘍に対するユーパスタコーワの検討.皮膚科紀要.1998;93(2):239-48.
2. 金箱 真,稲木敏男.ユーパスタコーワの吸水作用.医学と薬学.1994;31(5):1159-62.
3. 武内英二,大塩学而,浜島義博,他.Sugarの切創治癒過程の病理組織学的検討.皮膚科紀要.1987;82(3):359-63.
4. 白石 正,高橋信明,仲川義人.MRSAおよび緑膿菌に対するユーパスタ(R)の殺菌効果.薬理と治療.1992;20(7):2455-8.
5. 朝田康夫,臼井 通,福井 巌,他.臨床分離株に対するKT-136の殺菌作用.薬理と治療.1991;19(10):3851-4.
6. 中尾裕史,坪井良治,小川秀興.白糖・ポビドンヨード混合製剤の創傷治癒促進メカニズム 培養細胞及び動物モデルを用いた解析.Therapeutic Research. 2002;23(8):1625-9.



B.トラフェルミン
【エビデンスレベル】
ポケットへの使用に関する非ランダム化比較試験が1編1あり、エビデンスレベルIIIであるが、対照群とは有意差を認めていない。

【解説】
  • 強い血管新生作用と肉芽形成促進作用を持つ本剤の使用によりポケットの閉鎖が期待できる。
  • 死腔を埋め湿潤を保持するために他の外用薬やドレッシング材などを併用するとよい。
  • FGF自体による血管新生作用や肉芽形成促進作用等によって創傷治癒を促進する234
  • さらには、創傷局所で炎症細胞を動員するとともに、TGF-βなどの成長因子を発現する5
  • 調製が煩雑であり、溶解後2週間以内に使用などの制限がある。
  • 噴霧時はFGFの効果を減弱させないように必ず消毒薬を洗浄・除去する。また、噴霧後はFGF受容体に結合するまでの約30秒間はポビドンヨードなどの消毒薬と接触を避ける。

【参考文献】
1. 大浦武彦,中條俊夫,森口隆彦,岡 博昭,稲川喜一,館 正弘,野上玲子,村山志津子.bFGF製剤の褥瘡に対する臨床効果の検討 新評価法による症例・対照研究.日本褥瘡学会誌.2004;6(1):23-34.
2. Okumura M, Okuda T, Nakamura T, Yajima M. Acceleration of wound healing in diabetic mice by basic fibroblast growth factor. Biol Pharm Bull. 1996;19(4):530-5.
3. Okumura M, Okuda T, Okamoto T, Nakamura T, Yajima M. Enhanced angiogenesis and granulation tissue formation by basic fibroblast growth factor in healing-impaired animals. Arzneimittelforschung. 1996;46(10):1021-6.
4. Okumura M, Okuda T, Nakamura T, Yajima M. Effect of basic fibroblast growth factor on wound healing in healing-impaired animal models. Arzneimittelforschung. 1996;46(5):547-51.
5. Tanaka E, Ase K, Okuda T, Okumura M, Nogimori K. Mechanism of acceleration of wound healing by basic fibroblast growth factor in genetically diabetic mice. Biol Pharm Bull. 1996;19(9):1141-8.



C.トレチノイントコフェリル
【エビデンスレベル】
褥瘡治療に関する論文にはランダム化比較試験が2編あるが、エキスパートオピニオン以外にポケットについての論文はなく、エビデンスレベルVIである。

【解説】
  • 乾いている創に使用する場合は水分を多く含む基剤の特性とその肉芽形成促進作用が期待できるが、滲出液が多い場合はその吸収を考慮した薬剤、材料との併用が必要となる。
  • マクロファージ、線維芽細胞の遊走能を亢進する1
  • 線維芽細胞の遊走能亢進作用、細胞遊走促進作用、細胞増殖促進作用などにより、肉芽形成促進作用および血管新生促進作用を発揮する1234
  • 滲出液や創面水分量の多いときは、創面に浮腫などを起こしやすい。

【参考文献】
1. 浜田浩之,佐京かつふみ,田中 博,他.細胞遊走活性に及ぼすTocoretinateの影響.応用薬理.1992;43(2):97-102.
2. 佐京かつふみ,石川智一,西木克侑,他.Tocoretinateの肉芽形成促進作用および血管新生促進作用.応用薬理.1992;43(2):87-95.
3. 佐京かつふみ,大塚紀子,浜田浩之,他.正常ヒト皮膚線維芽細胞の増殖に及ぼすTocoretinateの影響.応用薬理.1992;43(2):103-10.
4. 佐京かつふみ,石川智一,益川善和,他.ラット皮膚熱傷,欠損傷および切傷に対するTocoretinate軟膏の効果.応用薬理.1992;43(2):121-7.



CQ2どのようなドレッシング材を用いたらよいか

推奨
推奨度 C1 残存する壊死組織の融解排除を促進させ、肉芽形成を助長させるドレッシング材を使用する。滲出液が多ければアルギン酸塩ハイドロファイバー®(銀含有製材を含む)を使用してもよい。
なお、ポケット内にドレッシング材を深く挿入したり、圧迫するような用い方にならないように注意する。また、壊死組織が残存する場合はデブリードマンを優先する。


A.アルギン酸塩
【エビデンスレベル】
ポケットへの使用に関する症例研究が1編1あり、肉芽増殖とポケット縮小効果に優れていると記載されており、エビデンスレベルVである。

【解説】
  • 自重の約20倍の吸収力があり、滲出液の吸収速度が速い。

【参考文献】
1. 塚田邦夫.褥瘡肉芽形成期におけるスポンジ状アルギン酸ゲル化創傷被覆材の使用経験.日本褥瘡学会誌.2003;5(1-1):27-32.



B.ハイドロファイバー®(銀含有製材を含む)
【エビデンスレベル】
エキスパートオピニオン以外にポケットに使用した論文はなく、エビデンスレベルVIである。

【解説】
  • ハイドロファイバー®が繊維内へ滲出液を保持し、創傷周囲健常皮膚の浸軟を防止する。
  • アルギン酸塩より吸収力は大きく、自重の約30倍の水分を吸収する。
  • 水分を繊維の縦方向へ吸収し、横方向への広がりをおさえるため、創傷周囲皮膚の浸軟を予防する。
  • 銀含有製材では銀イオンが放出され、滲出液に含まれた細菌を迅速かつ効果的に抗菌する。
  • 銀含有製材では、緑膿菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)など、創傷部位に一般的に見られる細菌に対して抗菌効果を発揮する。



CQ3 どのような場合に外科的治療を行えばよいか

推奨
推奨度 C1  保存的治療を行って改善しないポケットは、外科的に切開することを考慮してもよい。


【エビデンスレベル】
ポケット切開の方法に関する教科書的な記載は多数の成書にあるが、その必要性や効果についてのエビデンスがきわめて乏しい。これらはすべてエキスパートオピニオンであり、ポケット(undermining)やその治療に関する英文の記述はほとんど見当たらない。また、邦文文献では、小坂ら1が、症例集積研究として手術におけるポケットの取り扱いを記載しており、この他にも手術中のポケットの取り扱いについての記述23はあるが、「どのような場合にポケット切開を行えばよいか」についてはエキスパートオピニオン以外になく、エビデンスレベルVIである。

【解説】
  • Schultzら4はwound bed preparation(創面環境調整/ウンド・ベッド・プリパレーション)に関する総説でTIMEコンセプトを提示しており、その中でE(edge)にはunderminingを含むと明記している。しかし、ポケット切開あるいはポケット現象に関する治療法についての記載は認められない。また、Whitneyら5のガイドラインの中でも“Irregular wound extensions, forming sinuses or cavities, must be explored and unroofed and treated.”という短い推奨文がエキスパートオピニオンとして記されているのみである。今回の検索の中では英文誌にはポケットの処置を取り扱ったものはこれら以外にはなく、邦文誌にわずかに認めるだけである。
  • ポケットを有する患者では、ポケット下の壊死組織の存在が疑われるため、保存的治療を行って改善しない場合、ポケット切開を検討すべきである。ただし、全身状態に問題がなく出血傾向のないことを確認した上で、止血のための器具を用意し医師がポケット開放を行うべきである5
  • 褥瘡歴が長く、大きなポケット(DESIGN評価・P3以上)を有する患者では、ポケット切開を検討する6。一方、小坂ら1は手術前にポケット上の皮膚を損傷することは再建時に皮膚に緊張を生じることになるので、感染がなければポケットを温存するとしている。しかし手術を前提としない場合には、漫然と保存的治療を継続するのではなくポケット切開について検討しなければならない。
  • ポケットを有し開孔創が縮小している場合、毎日の洗浄、治療などの処置が大変であり効果も出にくい。この場合、切開して毎日の処置をスムーズにすべきである。

【参考文献】
1. 小坂正明,諸富公昭,鈴木昌秀,上石 弘.穿通動脈皮弁を用いたポケットを有する仙骨部褥瘡の治療経験.日本褥瘡学会誌.2002;4(3):371-8.
2. 中村元信,伊藤正嗣.褥瘡に対するSlide-swing Plastyの適用 手術適応,手術方法について.日本褥瘡学会誌.2000;2(3):236-43.
3. 辰巳英章.傍仙骨部穿通動脈皮弁による仙骨部褥瘡の治療.日本褥瘡学会誌.2001;3(1):14-9.
4. Schultz GS, Sibbald RG, Falanga V, Ayello EA, Dowsett C, Harding K, Romanelli M, Stacey MC, Teot L, Vanscheidt W. Wound bed preparation: a systematic approach to wound management. Wound Repair Regen. 2003;11 Suppl 1:S1-28.
5. Whitney J, Phillips L, Aslam R, Barbul A, Gottrup F, Gould L, Robson MC, Rodeheaver G, Thomas D, Stotts N. Guidelines for the treatment of pressure ulcers. Wound Repair Regen. 2006;14(6):663-79.
6.石川 治.ポケットを有する褥瘡の難治化の原因と治療.日本褥瘡学会誌.2000;2(3):329-30.
7. 岡 博昭,森口隆彦,稲川喜一,貝川恵子.手術症例における術前のDESIGN評価の推移について.日本褥瘡学会誌.2004;6(2):140-6.



CQ4 どのような物理療法があるか

推奨
推奨度 C1 ポケット内に壊死組織がない場合には、前後壁を接着させる目的で陰圧閉鎖療法を行ってもよい。


A.陰圧閉鎖療法
【エビデンスレベル】
文献的に有効性を検討した文献は症例集積研究であり、エビデンスレベルVである。

【解説】
  • ポケットの壁を接着させる作用が期待される。標準的治療と比較して有効性を検討した研究はない。壊死組織を可及的に除去されていることが望ましいが、壊死組織の自己融解も期待できる。

【参考文献】
1. 本田耕一,小山明彦,鈴木裕一,森田昌宏,林 利彦,竹野巨一.深い褥瘡に対するNegative-Pressure Dressing 在宅療養を視野にいれて.日本褥瘡学会誌.2000;2(1):1-6.
2. Tachi M, Hirabayashi S, Yonehara Y, Uchida G, Tohyama T, Ishii H. Topical negative pressure using a drainage pouch without foam dressing for the treatment of undermined pressure ulcers. Ann Plast Surg. 2004;53(4):338-42.

 

 
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