(旧版)褥瘡予防・管理ガイドライン

 
第3章 褥瘡の治療


褥瘡局所治療の概要
III.外科的治療について
褥瘡の外科的治療(手術療法)に際しては、手術適応と手術時期を検討し、再発に関する考察を持つことが重要である。その上で手術を施行し、適切な術後管理が行われれば、保存的治療に比べて早期に治癒する。
手術に際しては、周術期の管理が重要なことは言うまでもない。このため、外科的なデブリードマンやポケットに対する取り扱いについても検討した。
また、今回のDESIGN評価に沿ったCQでは、術後管理について言及できなかったため、ここに記載する。これらの報告は、教科書的、総説的レベルでのエキスパートオピニオンでエビデンスレベルIVである。

1.手術創の管理
抜糸は、通常術後2〜3週目頃を目安に行う1234567。持続吸引ドレーンは5〜10mL/日になるまで留置8、あるいは7〜10日間留置する12、2〜3週間留置する9とさまざまな報告があるが、通常の手術よりは長い期間留置することが多いと思われる。
また、創部の観察は毎日行うが、処置は術後の創部の状態を見て判断する。術創に、透明なドレッシング材を使用すれば処置の回数を減らすことも可能になる。

2.失禁の管理
尿失禁に対しては泌尿器科医と相談しながら術創の汚染を防ぐ。便汚染に対しては便失禁用具(例えばストーマ用具)やフィルムドレッシング材(例えばポリウレタンフィルム)1011を使用して予防する。しかし、術前に下痢を認める場合は、内科的な治療や管理栄養士、薬剤師などの介入が必要である。また、術前に下痢がない場合には、術前の排便習慣をできるだけ変えないようにするほうがよい。
なお、膀胱瘻やストーマなど、外科的な排泄路変更手術を考慮すべき場合もある12

3.圧迫・ずれの管理
手術後にはエアーフローティングベッド313141516171819、もしくはフローティングマットレスを使用することが多い112021222324。エアーフローティングベッドでは術創が下になってもよいが、血腫や漿液腫の発生に留意するようにする。また、不感蒸散が多いので、厳重な輸液管理を行うようにする。
体位変換は約2時間ごとを目安とするが、腹臥位を強要しないようにする。体位変換の際には、ずれ対策に効果的なシーツを利用するとよい。仙骨部の手術では、術後3〜4週目から仰臥位を許可する5817。坐骨部の手術では、車椅子の使用は術後5〜6週目からが目安とされているが51718、再発予防のための教育指導が行われれば少し早めの使用を考慮してもよい。
なお、我々が渉猟しえた限りでは、外科的治療、特に手術の絶対的・相対的適応や術式の相互比較などに関する論文のエビデンスレベルは低い。その大きな理由として、ここで述べたような周術期管理のプロトコールが統一されていない25ために、施設間あるいは文献間データの比較検討が困難であることが挙げられる。将来的な外科的治療のEBM化を目指して、それらを国内で規格化するために、日本褥瘡学会では2008年度に手術適応に関する検討部会を設置し、周術期管理法の規格化に関して学会レベルでコンセンサスの確立を目指している。

4.エビデンスの収集について
臨床上の疑問(CQ)すなわちPICOはDESIGNの項目ごとに、たとえば“大きさ(サイズ)”を例に挙げると「Sをsにするためには、どのような場合に外科的治療を行えばよいか?」とし、初版では1966年から2004年6月までのALL EBM Reviews(Keyword:pressure ulcer;Limit to:systematic review)とMEDLINE(Keyword:pressure ulcer and therapy, pressure ulcer and surgery;Limit to:Abstracts, English, Human)、1982年から2004年6月までのCINAHL(Keyword:pressure ulcer and therapy;Limit to:Abstracts, English, Human)、および、1983年から2004年6月までの医学中央雑誌(検索語:褥瘡 副表題:外科的治療、対象:ヒト、論文種類:会議録を除く)を検索した。さらにAHCPR Treatment of Pressure Ulcers(1994)、WOCN Guideline for Prevention and Management of Pressure Ulcers(2003)を参考にした。また、改訂版に際しては、上記出典において2004年7月から2007年12月までの検索結果を追加するとともに、Whitney et al. Guidelines for the treatment of pressure ulcers(Wound Rep Reg, 2006;14:663-79)を参考にした。


参考文献
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