(旧版)褥瘡予防・管理ガイドライン

 
第2章 褥瘡の予防と発生後のケア


褥瘡の予防と発生後のケア Clinical Questions
褥瘡の予防
3.圧迫・ずれの排除
B.体圧分散用具


1)体圧分散用具とは
ベッド、椅子などの支持体と接触しているときに単位体表面に受ける圧力を、接触面積を広くすることで減少させる、もしくは、圧力が加わる場所を時間で移動させることにより、長時間、同一部位にかかる圧力を減少させるための用具。臥位時に使用するものには特殊ベッドの他、マットレスや布団に重ねて使用する上敷きマットレス,マットレスや布団と入れ替えて使用する交換マットレスなどがあり、座位時には椅子や車椅子に敷いて使用するクッションおよび、姿勢を整えるパッドなどがある。体圧分散用具に用いる材質には、エア、ウォーター、ウレタンフォーム、ゲル、ゴムなどがある。

2)体圧分散マットレスとは
NPUAPの作業部会support surface standards initiativeにおいて用語が検討され、2007年に定義が紹介された。今後当学会においても用語集検討委員会にて同様の検討が予定されている。

(1)定義
support surfaceとは組織への外力を管理するための圧再分配、寝床内環境調整、その他の機能を特別に設計された用具である。本ガイドラインではベッドとマットレスを対象に記した。

(2)圧再分配とは
ヒトの身体には凹凸、すなわち生理的湾曲があり、身体とマットレスとの接触領域には限りがある。圧再分配とはこの接触領域に加わる圧を、次に紹介する3つの機能によって分配し、一点に加わる圧を低くすることである。

a)沈める Immersion
身体をマットレス内に沈める機能をさす。これによって、ある特定の骨突出部位に集中していた圧を、周辺組織や他の骨突出部位に分配する。沈み込みが大きいほど接触面積がより拡大し圧が低くなる。マットレスの沈める機能は、マットレスを構成する素材の圧縮特性と厚みに依存する。

b)包む Envelopment
骨突出部など身体の凹凸に対するマットレスの変形能をさす。変形することで身体とマットレスとの接触面積を拡大させることができる。素材が水などの流動体であると、変形能が優れている。

c)経時的な接触部分の変化
接触領域が時間に従い変化する概念である。具体的には、圧切替型エアマットレスやローリングマットレスに備わる機能をさす。エアマットレスが周期的に膨張と収縮を繰り返すことで接触部分が変化する。また、ローリングにおいては体位変換に伴い接触部分が変化する。

(3)マットレスの分類
体圧分散マットレス(ベッドを含む)は、使用方法、素材、機能から分類される(表1〜3)。使用方法は“沈める”に関連し、特殊ベッド>交換>上敷・リバーシブルの順に沈み込みが大きい。素材の圧縮特性は“沈める”、流動性は“包む”に関連する。機能は、“沈める”“包む”“経時的な接触部分の変化”に関連する。

(4)ガイドラインにおけるマットレス表記
本ガイドラインに示されているマットレスの表記は多岐にわたっているが、この理由としては以下の2つが挙げられる。
  • (1)体圧分散マットレスの分類、表記について統一されたものはなく、論文ごとに異なる。
  • (2)対照群と対比させる目的でより複雑な表記となっており、表1〜3の表記のみでは、対照群と実験群の違いを示すことは難しい。
以上を踏まえ、エビデンスレベルを決定するのに検討された論文におけるマットレスは特定の製品であり、できるだけ文献に忠実な表記を採用した。
なお、本ガイドラインで述べる体圧分散用具とは、以下のように分類したものをさす(表1〜3参照)

表1 使用方法からみた体圧分散用具の分類
分類 説明
特殊ベッド フレームとマットレスが一体となって機能するベッド
交換マットレス ベッドフレームに直接敷くマットレス
上敷マットレス 標準マットレス(体圧分散機能なし)の上に重ねて使用するマットレス
リバーシブルマットレス 裏面を体圧分散マットレスとして使用できるマットレス


表2 素材からみた体圧分散用具の分類
分類 説明
エア 空気で構成されているもの。セル構造が多層(2層または3層)のものは身体を低圧で支持できる
ウォーター 水で構成されているもの
ウレタンフォーム ポリウレタンに発泡剤を入れて作られたもの
ゲル ゲルで構成されているもの
ゴム ゴムで構成されているもの
ハイブリッド 2種類以上の素材で構成されているもの
その他 上記以外の素材で構成されているもの


表3 機能からみた体圧分散用具の分類
分類 説明
空気流動 内部のビーズを空気の力で流動させ圧再分配を行う機能
ローエアロス 体表の熱および湿潤を管理するために空気をマットレス表層に流す機能
圧切替 加圧と減圧が周期的に起こり(例:エアセルの膨張と収縮)、圧再分配を行う機能。エアマットレスの場合、圧切替がないものを静止型と呼び区別している
ローリング 患者を側方へ回転させる機能
マルチゾーン 区分別(例:頭部・体幹部・下腿部)に異なる圧再分配を行う機能



CQ1 褥瘡発生率を低下させるために体圧分散マットレスを使用することは有効か

推奨
推奨度 A 体圧分散マットレスを使用することが強く勧められる。


【エビデンスレベル】
複数のシステマティック・レビュー1234があり、標準マットレスと比較し有意に褥瘡発生率を低下させることが述べられており、エビデンスレベル I である。

【解説】
  • 体圧分散マットレス個々の構造と機能によって、(1)寝具との接触面積を拡大することで圧力を減少させる、(2)周期的に接触部分と非接触部分を変化させることで圧力持続を妨げることが可能となる。これらの仕組みによって褥瘡発生原因が除去または緩和され、褥瘡発生率の低下につながる。結果を統合するメタ分析はない。

【参考文献】
1. Cullum N, McInnes E, Bell-Syer SE, Legood R. Support surfaces for pressure ulcer prevention. Cochrane Database Syst Rev. 2004;(3):CD001735.
2. Reddy M, Gill SS, Rochon PA. Preventing pressure ulcers: a systematic review. JAMA. 2006;296(8):974-84.
3. Whittemore R. Pressure-reduction support surfaces: a review of the literature. J Wound Ostomy Continence Nurs. 1998;25(1):6-25.
4. Wound Ostomy and Continence Nurses Society: Guideline for Prevention and Management of Pressure Ulcers, WOCN Society, Glenview, IL, 2003.



CQ2 高齢者の褥瘡発生予防にはどのような体圧分散マットレスを用いたらよいか

推奨
推奨度 B 2層式エアマットレスの使用が勧められる。
推奨度 C1 上敷静止型エアマットレスを使用してもよい。
推奨度 C1 圧切替型エアマットレスを使用してもよい。
推奨度 C1 フォームマットレスを使用してもよい。


【エビデンスレベル】
1.エアマットレス
日本の高齢者を対象とした2層式エアマットレスのランダム化比較試験1編1があり、標準マットレス、単層式エアマットレスと比べ褥瘡発生率は有意に低い。エビデンスレベルIIである。
静止型エアマットレスのランダム化比較試験1編2があり、エビデンスレベルIIであるが、標準(ゲル)と比べて褥瘡発生率に有意差はない。
圧切替型エアマットレス2種類のランダム化比較試験1編3があり、エビデンスレベルIIであるが、褥瘡発生率は高い。

2.フォームマットレス
ランダム化比較試験4編4567があり、実験群以外のフォームマットレス、医療者による経験で選択される複数の体圧分散マットレスと比べ褥瘡発生率に有意差を認めている。エビデンスレベルIIである。しかし、国外の高齢者を対象とした文献であるため褥瘡発生要因が異なる可能性がある。

【解説】
  • 国外のエビデンスを活用する際に注意することは、褥瘡発生要因、特に骨突出の有無である。
  • エアマットレスに関するランダム化比較試験は、国内1編、国外2編であった。
  • フォームマットレスに関するランダム化比較試験は国外のみであった。粘弾性フォームマットレスに関する論文3編456があったが、対照群が個々の論文で異なるため統一した結果を示していない。

【参考文献】
1. Sanada H, Sugama J, Matsui Y, Konya C, Kitagawa A, Okuwa M, Omote S. Randomised controlled trial to evaluate a new double-layer air-cell overlay for elderly patients requiring head elevation. J Tissue Viability. 2003;13(3):112-4, 116, 118 passim.
2. Lazzara DJ, Buschmann MT. Prevention of pressure ulcers in elderly nursing home residents: are special support surfaces the answer? Decubitus. 1991;4(4):42-4, 46, 48.
3. Exton-Smith AN, Overstall PW, Wedgwood J, Wallace G. Use of the ‘air wave system’ to prevent pressure sores in hospital. Lancet. 1982;1(8284):1288-90.
4. Gunningberg L, Lindholm C, Carlsson M, Sjödén PO. Effect of visco-elastic foam mattresses on the development of pressure ulcers in patients with hip fractures. J Wound Care. 2000;9(10):455-60.
5. Russell LJ, Reynolds TM, Park C, Rithalia S, Gonsalkorale M, Birch J, Torgerson D, Iglesias C; PPUS-1 Study Group. Randomized clinical trial comparing 2 support surfaces: results of the Prevention of Pressure Ulcers Study. Adv Skin Wound Care. 2003;16(6):317-27.
6. Defloor T, De Bacquer D, Grypdonck MH. The effect of various combinations of turning and pressure reducing devices on the incidence of pressure ulcers. Int J Nurs Stud. 2005;42(1):37-46.
7. Kemp MG, Kopanke D, Tordecilla L, Fogg L, Shott S, Matthiesen V, Johnson B. The role of support surfaces and patient attributes in preventing pressure ulcers in elderly patients. Res Nurs Health. 1993;16(2):89-96.
8. Vyhlidal SK, Moxness D, Bosak KS, Van Meter FG, Bergstrom N. Mattress replacement or foam overlay? A prospective study on the incidence of pressure ulcers. Appl Nurs Res. 1997;10(3):111-20.



CQ3 急性期患者の褥瘡発生予防にはどのような体圧分散用具を用いたらよいか

推奨
推奨度 B 低圧保持エアマットレスの使用が勧められる。
推奨度 C1 ローエアロスベッドを使用してもよい。
推奨度 C1 上敷圧切替型マットレスを使用してもよい。
推奨度 C1 交換静止型エアマットレスを使用してもよい。


【エビデンスレベル】
日本の患者を対象とした低圧保持マットレスのランダム化比較試験が1編1あり、褥瘡発生率は有意に減少した。エビデンスレベルIIである。
ローエアロスベッドに関するランダム化比較試験は2編23あり、エビデンスレベルIIである。本邦では予防用として使用される機会がほとんどない。
上敷圧切替型マットレスのランダム化比較試験が2編45あり、エビデンスレベルIIである。対照群(フォームマットレス、または一体成形圧切替型エアマットレス)と比べ、褥瘡発生率は有意に低い。
上敷静止型エアマットレスに関するランダム化比較試験は2編67あり、エビデンスレベルIIである。対照群(上敷圧切替型)と比べ、褥瘡発生率は有意に低下しなかった。
交換静止型エアマットレスに関するランダム化比較試験は2編89あり、エビデンスレベルIIである。対照群(フォームマットレスまたは圧切替型エアマットレス)との比較において、2つの論文の結果は異なる。

【解説】
  • 急性期患者とはICUまたはCCU入室患者をさす。
  • 国内のランダム化比較試験4編、国外のランダム化比較試験5編である。国内外に共通していたエビデンスは、フォームマットレスよりエアマットレスの褥瘡予防効果が優れていることである。
  • 年代が新しいほど、エアマットレスの中でも厚みのある低圧保持可能なエアマットレスの褥瘡予防効果が優れていることを示している。

【参考文献】
1. 藤川由美子,寺師浩人,真田弘美:褥瘡発生率と治療コストからみたICUでの低圧保持用上敷きマットレスの使用評価.日本褥瘡学会誌.2001;3(1):44-9.
2. Theaker C, Kuper M, Soni N. Pressure ulcer prevention in intensive care - a randomised control trial of two pressure-relieving devices. Anaesthesia. 2005;60(4):395-9.
3. Inman KJ, Sibbald WJ, Rutledge FS, Clark BJ. Clinical utility and cost-effectiveness of an air suspension bed in the prevention of pressure ulcers. JAMA. 1993;269(9):1139-43.
4. Gebhardt KS, Bliss MR, Winwright PL, Thomas J. Pressure-relieving supports in an ICU. J Wound Care. 1996;5(3):116-21.
5. 須釜淳子,真田弘美,種池美智子,ほか:褥創予防の除圧に関する研究―ICUにおける2種類のエアマットレスの比較.ICUとCCU.1995;19(2):147-52.
6. Sideranko S, Quinn A, Burns K, Froman RD. Effects of position and mattress overlay on sacral and heel pressures in a clinical population. Res Nurs Health. 1992;15(4):245-51.
7. 須釜淳子,真田弘美,種池美智子,ほか:体圧分散方式の違いによる2種類のエアマットレスの臨床効果の比較.エマージェンシーナーシング.1995;8(8):698-703.
8. 藤岡昭子,種池美智子,田中貴子,大場さち子,吉野晴美,須釜淳子,真田弘美:ICU入室患者における褥創発生および患者のQOLからみた2種類の体圧分散寝具の比較.日本看護学会論文集,第29回成人看護 I.1999;29:149-51.
9. Takala J, et al. Prevention of pressure sores in acute respiratory failure: a randomised controlled trial. Clinical intensive Care. 1996;7:228-35.



CQ4 周術期患者の褥瘡発生予防にはどのような体圧分散用具を用いたらよいか

推奨
推奨度 B 術後には、圧切替型エアマットレスの使用が勧められる。
推奨度 B 術中には、マットレス以外に踵骨部、肘部等の突出部にゲルまたは粘弾性パッドの使用が勧められる。
推奨度 C1 大腿骨頸部骨折術後には、フォームマットレス、ビーズベッドシステムを使用してもよい。


【エビデンスレベル】
術中・後に圧切替型エアアマットレスを使用するランダム化比較試験が2編12あり、エビデンスレベルIIである。褥瘡発生率は有意に減少した。
術中にマットレスと踵骨部、肘部等の突出部にゲルまたは粘弾性パッドを使用するランダム化比較試験が2編34あり、エビデンスレベルIIである。褥瘡発生率は有意に減少した。
大腿骨頸部骨折術後にフォームマットレスを使用するランダム化比較試験5、ビーズベッドシステムを使用するランダム化比較試験6があり、エビデンスレベルIIである。フォームマットレスの褥瘡発生率は35%、対照群72%、ビーズベッドシステムの発生率15.6%、対照群48.8%であり有意差を認めたが、依然として高い術後発生率である。

【解説】
  • 本邦においてエビデンスを活用するには術式、術中体位、患者のリスクを考慮したうえで意思決定すべきである。
  • 論文で対象となった手術は、3時間以上の外科的手術、心臓血管外科、砕石位または仰臥位で3時間以上の手術、一般外科・血管外科・婦人科の手術、大腿骨頸部骨折術であった。
  • 対照群に使用されるマットレスも各論文で異なっている。

【参考文献】
1. Aronovitch SA, Wilber M, Slezak S, Martin T, Utter D. A comparative study of an alternating air mattress for the prevention of pressure ulcers in surgical patients. Ostomy Wound Manage. 1999;45(3):34-40, 42-4.
2. Russel LJ, Lichtenstein SL. Randomized controlled trial to determine the safety and efficacy of a multi-cell pulsating dynamic mattress system in the prevention of pressure ulcers in patients undergoing cardiovascular surgery. Ostomy Wound Manage. 2000;46(2):46-51,54-5.
3. Schultz A, Bien M, Dumond K, Brown K, Myers A. Etiology and incidence of pressure ulcers in surgical patients. AORN J. 1999;70(3):434, 437-40, 443-9.
4. Nixon J, McElvenny D, Mason S, Brown J, Bond S. A sequential randomised controlled trial comparing a dry visco-elastic polymer pad and standard operating table mattress in the prevention of post-operative pressure sores. Int J Nurs Stud. 1998;35(4):193-203.
5. Hofman A, Geelkerken RH, Wille J, Hamming JJ, Hermans J, Breslau PJ. Pressure sores and pressure-decreasing mattresses: controlled clinical trial. Lancet. 1994;343(8897):568-71.
6. Goldstone LA, Norris M, O'Reilly M, White J. A clinical trial of a bead bed system for the prevention of pressure sores in elderly orthopaedic patients. J Adv Nurs. 1982;7(6):545-8.

 

 
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