(旧版)褥瘡予防・管理ガイドライン
第2章 褥瘡の予防と発生後のケア
褥瘡の予防と発生後のケア Clinical Questions
褥瘡の予防
2.褥瘡発生の予測
CQ1 | 褥瘡発生予測にリスクアセスメント・スケールを用いることは有効か |
推奨
推奨度 B | リスクアセスメント・スケールを用いることが勧められる。 |
【エビデンスレベル】
システマティック・レビュー1によって7つのスケールの予測妥当性に関する文献評価が行われており、エビデンスレベルI となるが、日本人に対しての検討は行われていない。
【解説】
- Nortonスケール、Gosnellスケール、Knollスケール、ブレーデンスケール、Waterlowスケール、PSPSスケール、Andersenスケールの感度、特異度について文献検討がなされているが、どのリスクアセスメント・スケールを用いることが褥瘡予防に効果があるかどうかははっきりしない。しかし、リスクアセスメント・スケールから得られた情報をもとに適切な予防介入が行われれば、褥瘡発生を低減できることがシステマティック・レビューから明らかにされている1。システマティック・レビューによりスケール評価がなされているが、いずれも海外での報告であり、日本人に対して行われた文献はない。
【参考文献】
1. | Deeks JJ. Pressure sore prevention: using and evaluating risk assessment tools. Br J Nurs. 1996;5(5):313-4, 316-20. |
CQ2 | 一般的にはどのようなリスクアセスメント・スケールを用いるとよいか |
推奨
推奨度 B | ブレーデンスケールを使用することが勧められる。 |
【エビデンスレベル】
ブレーデンスケール(Braden Scale)のキーワード検索からシステマティック・レビューにより抽出された文献検討1が行われており、エビデンスレベルI となるが、カットオフポイントに一定の見解がない。
【解説】
- ブレーデンスケールをキーワードとしてシステマティック・レビューにより抽出された27文献(1998〜2002年のCINAHL、MEDLINEから検索)からブレーデンスケールをどのように正確に使用できるかについて述べられた9文献に絞って検討し、褥瘡のある・なしのいずれの場合にもブレーデンスケールの的中率が高いことを示した報告がある1。また、別の文献では、ブレーデンスケールを用いることで褥瘡発生率を50〜60%低減できることが明らかにされている2。したがって、ブレーデンスケールは、発生予測スケールとして有用であり、臨床看護師の判断と関連させ、褥瘡予防プログラムの一部として使用されることが推奨される。ただし、カットオフポイントについて、14〜20点までの幅があり、一定の見解は示されていない。
【参考文献】
1. | Brown SJ. The Braden Scale. A review of the research evidence. Orthop Nurs. 2004;23(1):30-8. |
2. | Bergstrom N, Braden B, Boynton P, Bruch S. Using a research-based assessment scale in clinical practice. Nurs Clin North Am. 1995;30(3):539-51. |
CQ3 | 高齢者では、ブレーデンスケール以外にどのような評価方法、あるいは有用なスケールを用いるとよいか |
推奨
推奨度 C1 | 褥瘡発生危険因子による評価を行ってもよい。 |
推奨度 C1 | 高齢寝たきり患者においては、OHスケールを使用してもよい。 |
【エビデンスレベル】
厚生労働省から示されている「褥瘡対策に関する診療計画書」(平成18年3月6日保医発第0306002号厚生労働省保険局医療課長通知)別紙様式4に定められている褥瘡発生危険因子の6因子(基本的動作能力、病的骨突出、関節拘縮、栄養状態の低下、皮膚湿潤、浮腫)に関して、褥瘡のあり群・なし群のオッズ比検討(後ろ向きコホート研究)1が行われており、エビデンスレベルIVとなる。
OHスケールの原型である大浦式褥瘡発生危険因子判定を用い、重症度別判定並びに警戒要因の一部に対して、褥瘡のあり群・なし群間での症例対照研究2が行われており、エビデンスレベルIVとなる。
OHスケールの原型である大浦式褥瘡発生危険因子判定を用い、重症度別判定並びに警戒要因の一部に対して、褥瘡のあり群・なし群間での症例対照研究2が行われており、エビデンスレベルIVとなる。
【解説】
- 褥瘡発生危険因子のオッズ比は、「病的骨突出」4.0、「関節拘縮」15.9、「栄養状態の低下」3.8、「皮膚湿潤」4.6、「浮腫」3.1と、褥瘡発生との関係からはすべて有意に高い結果が得られている。しかし、危険因子を示したものであり、スケール化されたものではない。
- 大浦式褥瘡発生危険因子判定を用い、危険要因(意識状態、仙骨突出度、浮腫、関節拘縮)の4項目から判定される合計スコアによる重症度判定が、褥瘡のあり・なしに対して、どの程度の説明力を持つかをt-testによる有意差検定によって明らかにした報告2がある。その結果、褥瘡発生がない群318例の重症度判定の平均スコアは3.4点、褥瘡あり群95例の平均スコアは6.7点であり、両群間に有意差が認められている。同様に警戒要因として挙げられている項目の血清総蛋白、血清アルブミン、血清鉄に対する検討のそれぞれに有意差が認められた。大浦式褥瘡発生危険因子判定は、その後若干の見直しが行われ精度の高いOHスケールとなっている。
【参考文献】
1. | 貝川恵子,森口隆彦,岡 博昭,稲川喜一:寝たきり患者(日常生活自立度ランクC患者)における褥瘡発生危険因子の検討.日本褥瘡学会誌.2006;8(1):54-7. |
2. | 藤岡正樹,浜田裕一:大浦式褥瘡発生危険因子判定法活用の有効性の検討―寝たきり患者424症例の褥瘡発生状況から―.日本褥瘡学会誌.2004;6(1):68-74. |
CQ4 | 寝たきり入院高齢者では、どのようなリスクアセスメント・スケールを用いるとよいか |
推奨
推奨度 C1 | K式スケールを使用してもよい。 |
【エビデンスレベル】
寝たきり入院高齢者に用いるK式スケールの信頼性と妥当性の検討が、前向きコホート研究1により行われており、エビデンスレベルIVとなる。
【解説】
- K式スケールの信頼性は、看護師9名のK式スケールとブレーデンスケールの採点の評定者間一致率において検討されている。熟知者と経験年数による新人群と中堅群それぞれの一致率は、K式スケールでは79.0%、ブレーデンスケール64.6%とK式スケールの一致率が高く、さらにK式スケールでは看護師の経験に一致率は関係しなかった。予測妥当性では、前段階要因・カットオフ値2点以上で感度78.9%、特異度29.0%、引き金要因ではカットオフ値2点以上で感度73.7%、特異度74.2%であり、K式スケールに高い精度が認められている1。
【参考文献】
1. | 大桑麻由美,ほか:K式スケール(金沢大学式褥瘡発生予測スケール)の信頼性と妥当性の検討―高齢者を対象にして―.褥瘡会誌.2001;3:7-13. |
CQ5 | 在宅高齢者では、どのようなリスクアセスメント・スケールを用いるとよいか |
推奨
推奨度 C1 | 在宅版褥瘡発生リスクアセスメント・スケールを使用してもよい。 |
【エビデンスレベル】
在宅版褥瘡発生リスクアセスメント・スケールについては、褥瘡発生に関連する介護力評価スケールを用いた前向きコホート研究1が行われており、エビデンスレベルIVとなる。
【解説】
- 在宅版褥瘡発生リスクアセスメント・スケールは、在宅療養者の褥瘡発生要因アセスメントに介護力評価も併せたもので、スケールとしての感度88.9%、特異度85.0%、陽性的中率47.1%、陰性的中率94.2%、尤度比5.9と優れた診断精度を有している1。
【参考文献】
1. | 村山志津子,北山幸枝,大桑麻由美,北川敦子,仲上豪二朗,須釜淳子,真田弘美:在宅版褥瘡発生リスクアセスメントスケールの開発.日本褥瘡学会誌.2007;9(1):28-37. |
CQ6 | 小児の患者にはどのようなリスクアセスメント・スケールを用いるとよいか |
推奨
推奨度 C1 | ブレーデンQスケールを使用してもよい。 |
【エビデンスレベル】
ブレーデンQスケールによる予測妥当性の検討が前向きコホート研究1により行われており、エビデンスレベルIVとなる。
【解説】
- 入院中の小児急性期疾患322人に対し、ブレーデンQスケールにおける予測妥当性やカットオフポイントについての検討がされている。カットオフ値7のときの感度92.0%、特異度59.0%であり、小児におけるブレーデンQスケールの実効性は、成人の場合の評価に用いるブレーデンスケールの報告と同等であることを示している。
- ブレーデンQスケールは、WOCN Clinical Practice Guideline2において、小児用として採用されている。
【参考文献】
1. | Curley MA, Razmus IS, Roberts KE, Wypij D. Predicting pressure ulcer risk in pediatric patients: the Braden Q Scale. Nurs Res. 2003;52(1):22-33. |
2. | Wound Ostomy and Continence Nurses Society: Guideline for Prevention and Management of Pressure Ulcers, 4, WOCN Society, Glenview, IL, 2003. |
CQ7 | 脊髄損傷者にはどのようなリスクアセスメント・スケールを用いるとよいか |
推奨
推奨度 C1 | SCIPUSスケールを使用してもよい。 |
【エビデンスレベル】
脊髄損傷者の褥瘡リスクアセスメント・スケールの予測妥当性を検討した後ろ向きコホート研究1が行われており、エビデンスレベルIVとなる。
【解説】
- 脊髄損傷者の褥瘡リスクアセスメント・スケールの予測妥当性を開発者自身が検証している1。219名の脊髄損傷者を対象とし、カットオフポイント6点以上で感度75.6%、特異度74.4%、陽性的中率92.4%、陰性的中率42.7%を示しているが、後ろ向き調査である上に開発者自身の評価のため、患者の行動様式等の記述が曖昧であり、正しく評価されていない可能性が指摘されている。
【参考文献】
1. | Salzberg CA, Byrne DW, Cayten CG, van Niewerburgh P, Murphy JG, Viehbeck M. A new pressure ulcer risk assessment scale for individuals with spinal cord injury. Am J Phys Med Rehabil. 1996;75(2):96-104. |
それぞれのリスクアセスメント・スケールは
『ブレーデンスケール』
『褥瘡危険因子評価表』
『OHスケール』
『K式スケール』
『在宅版褥瘡発生リスクアセスメント・スケール』
『ブレーデンQスケール』
『SCIPUSスケール』に掲載した。
『ブレーデンスケール』
『褥瘡危険因子評価表』
『OHスケール』
『K式スケール』
『在宅版褥瘡発生リスクアセスメント・スケール』
『ブレーデンQスケール』
『SCIPUSスケール』に掲載した。