(旧版)褥瘡予防・管理ガイドライン

 
第1章 褥瘡の概要


褥瘡治癒の経過

文献により多少の差異はあるが、一般に(特に急性創傷の)創傷治癒過程は、(1)出血凝固期、(2)炎症期、(3)増殖期、(4)成熟期として論じられる。
(1)で出血は凝固因子、血小板により止血し凝血塊となり、血小板から血小板由来増殖因子(platelet derived growth factor:PDGF)などの増殖因子・サイトカインが放出される。
引き続き(2)の炎症期では、これらの因子により好中球やマクロファージなどの炎症細胞浸潤が起こり、壊死組織が貪食され創が清浄化される。同時にこれらの細胞からさらに連鎖的にtransforming growth factor-β(TGF-β)やfi bloblast growth factor(FGF)などの増殖因子・サイトカインの放出が見られる。また、壊死組織蛋白の融解のためmatrix metalloproteinase(MMP)などのプロテアーゼ類も放出される。
創の清浄化が進むと(3)の増殖期に移行する。(2)の段階で放出された因子が線維芽細胞やケラチノサイトなどの遊走・増殖を促す。線維芽細胞からはコラーゲンに代表される細胞外マトリックスが合成され、細胞移動・接着などの足場となる。また、血管新生も生じ、新生血管・線維芽細胞などの各種の細胞・コラーゲンなどの細胞外マトリックスが混合した肉芽組織が組織欠損部を充填する。良好な肉芽組織で覆われた創において、さらにケラチノサイトの遊走による上皮化、また筋線維芽細胞による創収縮の2つの機序で創面積が縮小していく。
このようにして創が閉鎖すると、(4)の成熟期として瘢痕組織が形成される。細胞外マトリックスのリモデリングなどの機序によって、当初赤みを帯びていた瘢痕は数か月かけて白く軟らかく成熟化する。これらの過程と、関与する細胞および増殖因子を図1に示す1
褥瘡に代表される慢性創傷とは、上記(1)→(4)の過程のいずれかが障害されて治癒が遅延したものをさすが、炎症期が遷延化・慢性化している場合、つまり(2)→(3)への移行の障害とみなしうる場合が多い。分子・細胞レベルでは、この慢性炎症状態は、細胞の異常(細胞そのものが老化:senescenceを来たしている)、滲出液の異常(増殖因子・サイトカイン組成の変化による創傷治癒障害や、MMPなどのプロテアーゼの増加による組織障害)、あるいは細胞外マトリックスの異常(細胞の遊走の障害を来たしたり、増殖因子を吸着してその活性を発揮できなくさせる)などの機序が複合的に関与するものと考えられる2。慢性炎症を離脱し速やかに上記(2)→(3)の治癒段階に移行させるためには、臨床的には直接間接に種々の方法がとられるが、それらは最近wound bed preparation(創面環境調整/ウンド・ベッド・プリパレーション)と呼ばれて体系化された。
なお、現場ではしばしば創面の色調による分類が用いられるが、黒色や黄色の壊死組織のある時期は炎症期、赤い肉芽形成の時期は増殖期、白色様に上皮化した時期は成熟期にそれぞれほぼ対応すると考えればよい。

図1 創傷の治癒過程と関与する細胞・増殖因子・酵素など
日本褥瘡学会編:在宅褥瘡予防・治療ガイドブック, 21, 日本褥瘡学会, 2008. より引用改変
図1:創傷の治癒過程と関与する細胞・増殖因子・酵素など


文献
1. 森口隆彦:創傷治癒のメカニズムと影響因子.創傷の治療 最近の進歩第2版(波利井清紀 監修 森口隆彦 編著).克誠堂出版,東京,2005;1-13.
2. Falanga V. The chronic wound: impaired healing and solutions in the context of wound bed preparation. Blood Cells Mol Dis. 2004;32(1):88-94.

 

 
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