(旧版)褥瘡予防・管理ガイドライン
第1章 褥瘡の概要
褥瘡発生のメカニズム
褥瘡は、2005年に日本褥瘡学会により、以下のように定義されている。
「身体に加わった外力は骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下、あるいは停止させる。この状況が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡となる。」実際には単なる阻血にはとどまらず、Berlowitzら1の指摘する4種類の機序、すなわち、(1)阻血性障害、(2)再灌流障害、(3)リンパ系機能障害、(4)細胞・組織の機械的変形が複合的に関与するものと考えられる。
阻血性障害は嫌気性代謝の亢進により組織内に乳酸が蓄積され、組織pHが低下することが主因である。一方、再灌流障害とは、阻血後の血流再開に伴い単なる阻血よりも強い組織障害を生じることを指し、褥瘡の重症化(特に体位交換などに伴う)の要因の一つとして重要視されている。また最近では、外力の直接作用としての機械的変形の影響が注目されつつある。これらのメカニズムを図1に要約して示す。
軟部組織にかかる外力は、ベクトルの方向によって圧力とずれ力の要素に分解される。骨突出部にかかるずれ力は骨に近接した深部組織のほうが強いと考えられ、理論上皮膚表面よりも骨に近接した深部組織の組織障害が先行する場合が想定される。こうした状態は臨床的には疼痛を伴う皮膚の変色や皮下の硬結として観察され、近年、deeptissue injury(DTI)と称してその病態が非常に注目されるようになった2。例えば、褥瘡の深達度分類として最も普及しているNPUAP分類の2007年の改訂にもそれが反映されており(褥瘡の深達度分類参照)、DTIという病態の認知が褥瘡発生機序の理解の上で大きなパラダイムシフトをもたらしている現況を象徴するものと言える。
文献
「身体に加わった外力は骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下、あるいは停止させる。この状況が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡となる。」実際には単なる阻血にはとどまらず、Berlowitzら1の指摘する4種類の機序、すなわち、(1)阻血性障害、(2)再灌流障害、(3)リンパ系機能障害、(4)細胞・組織の機械的変形が複合的に関与するものと考えられる。
阻血性障害は嫌気性代謝の亢進により組織内に乳酸が蓄積され、組織pHが低下することが主因である。一方、再灌流障害とは、阻血後の血流再開に伴い単なる阻血よりも強い組織障害を生じることを指し、褥瘡の重症化(特に体位交換などに伴う)の要因の一つとして重要視されている。また最近では、外力の直接作用としての機械的変形の影響が注目されつつある。これらのメカニズムを図1に要約して示す。
軟部組織にかかる外力は、ベクトルの方向によって圧力とずれ力の要素に分解される。骨突出部にかかるずれ力は骨に近接した深部組織のほうが強いと考えられ、理論上皮膚表面よりも骨に近接した深部組織の組織障害が先行する場合が想定される。こうした状態は臨床的には疼痛を伴う皮膚の変色や皮下の硬結として観察され、近年、deeptissue injury(DTI)と称してその病態が非常に注目されるようになった2。例えば、褥瘡の深達度分類として最も普及しているNPUAP分類の2007年の改訂にもそれが反映されており(褥瘡の深達度分類参照)、DTIという病態の認知が褥瘡発生機序の理解の上で大きなパラダイムシフトをもたらしている現況を象徴するものと言える。
図1 褥瘡発生のメカニズム |
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文献
1. | Berlowitz DR, Brienza DM. Are all pressure ulcers the result of deep tissue injury? A review of the literature. Ostomy Wound Manage. 2007;53(10):34-8. |
2. | Nagase T, Koshima I, Maekawa T, Kaneko J, Sugawara Y, Makuuchi M, Koyanagi H, Nakagami G, Sanada H. Ultrasonographic evaluation of an unusual peri-anal induration: a possible case of deep tissue injury. J Wound Care. 2007;16(8):365-7. |