(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版
第8章 緩和医療
CQ1 | 前立腺癌の骨転移による疼痛をどう管理するか? |
推奨グレード A |
部位が限定される場合は放射線照射が有効である。WHOが提唱する3段階のアプローチに則って使用する鎮痛薬の種類および投与量を決定する。 |
背 景 |
解 説 |
鎮痛薬が果たす役割は大きく適切な薬剤の選択が必要である。一般的にはWHOが提唱する3段階のアプローチが広く行われている。簡単に解説すると第1段階としては比較的緩やかな痛みに対しボルタレン,ハイペン,ナイキサンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を使用する。第2段階としてはリン酸コデイン,レペタン座薬,ソセゴン錠などの弱オピオイドとNSAIDを併用する。最近では低容量オキシコドン(オキシコンチン10mg分2)がよく用いられる。それでも疼痛の緩和が十分でない時は第3段階としてモルヒネ散あるいはモルヒネ徐放製剤(MSコンチン錠,モルペス細粒)を副作用対策を講じながら漸増する。臨時追加投与(レスキュードーズ)としてはモルヒネ経口製剤の1日投与量の1/6を目安に追加投与を行う。ソセゴン,レペタンなどはコデインやモルヒネと併用してはならない。また鎮痛補助薬として抗不安薬,向精神薬,抗うつ薬,副腎皮質ホルモンを適宜使用する。癌性疼痛の管理については日本緩和医療学会からEvidence-Based Medicineに則ったがん疼痛治療ガイドライン(2000)が出版されているので参照されたい2)。
骨転移巣がそれほど多発でなく痛みを訴える部位が比較的限局している時には骨痛緩和のための外照射療法は,極めて有用である。外照射を受けた患者の80-90%は何らかの疼痛の緩和を得ることができ,50-60%では痛みは完全に消失する3)(II)。ただし照射方法に関し8Gyほどの単回照射と30Gy/10fractionsの分割照射のどちらが良いかはまだ結論がついていない。3260症例を集積したメタアナリシスでは単回照射と分割照射の間で痛みの寛解率に関し差がなかったと報告しており,治療効果と照射線量の間の相関は認められなかった4)(I)。しかし単回照射では後に再照射を必要とする頻度が高かったとする報告もあり5)(II),本邦でも30Gyほどの複数回照射を施行する施設が多いようである。
骨転移巣が多発で痛みを訴える場合には以前は全身あるいは半身照射が用いられることがあったが,前立腺癌のような造骨性転移をきたす場合ストロンチウム89のような放射性同位元素を用いることの有効性が報告されている。しかしながら本薬剤は日本では認可が下りていない。ストロンチウム89を単独で用いたところ,80%の患者に骨痛の軽減がみられたとの報告がある6)(III)。外照射とストロンチウム89の無作為化比較試験によると,疼痛緩和効果については局所または半身照射した場合の効果とほぼ同じであったが,ストロンチウム89は局所照射と比較すると新たな骨転移による疼痛を有意に抑制した7),8)(I)。また,ストロンチウム89を外照射の補助として用いると,外照射単独の場合に比べて癌の進行が遅くなり,鎮痛薬を必要とする頻度も少なくなることが報告されている9)(II)。
前立腺癌の骨転移巣は造骨性であることが多いがこの場合でも骨代謝および骨吸収能は亢進している。ビスフォスフォネート製剤は破骨細胞の骨吸収能を抑制する。さらに進行性前立腺癌では内分泌療法により骨粗鬆症をきたしやすいがビスフォスフォネート製剤はこれを防ぐこともできる。1つのRCTではビスフォスファネート製剤の静脈内投与により病的骨折等の合併症の発生頻度が有意に減少し,疼痛緩和にも有用であったと報告された10)(II)。しかしその後の経口剤によるRCTでは骨転移に関する合併症の頻度はplaceboとの比較において統計学的に有意差はなかった11)(II)。Systematic reviewによれば骨転移を有する前立腺癌では,診断された時点で本剤の投与を開始し継続して投与することにより生存率には寄与しないが骨転移に関連する合併症の頻度を有意に減少するとしている。またビスフォスフォネート製剤は腸管から吸収されにくいため経口投与よりも静脈内投与の方が良いと報告している12)(I)。日本ではビスフォスフォネート経口剤は骨粗鬆症にしか適応がとれていないが,注射製剤は悪性腫瘍による高Ca血症に対して適応がある。
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1) | Scher HI, Chung LW. Bone metastases:improving the therapeutic index. Semin Oncol. 1994;21(5):630-56. | |
2) | 日本緩和医療学会,がん疼痛治療ガイドライン作成委員会.Evidence-Based Medicine に則ったがん疼痛治療ガイドライン.真興交易;2000. | |
3) | Arcangeli G, Giovinazzo G, Saracino B, et al. Radiation therapy in the management of symptomatic bone metastases:the effect of total dose and histology on pain relief and response duration. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1998;42(5):1119-26. | |
4) | Wu JS, Wong R, Johnston M, et al. Meta-analysis of dose-fractionation radiotherapy trials for the palliation of painful bone metastases. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2003;55(3):594-605. | |
5) | Steenland E, Leer JW, van Houwelingen H, et al. The effect of a single fraction compared to multiple fractions on painful bone metastases:a global analysis of the Dutch Bone Metastasis Study. Radiother Oncol. 1999;52(2):101-9. | |
6) | Robinson RG. Strontium-89- -precursor targeted therapy for pain relief of blastic metastatic disease. Cancer. 1993;72(11 Suppl):3433-5. | |
7) | Bolger JJ, Dearnaley DP, Kirk D, et al. Strontium-89(Metastron)versus external beam radiotherapy in patients with painful bone metastases secondary to prostatic cancer:preliminary report of a multicenter trial. UK Metastron Investigators Group . Semin Oncol. 1993;20(3 Suppl 2):32-3. | |
8) | Quilty PM, Kirk D, Bolger JJ, et al. A comparison of the palliative effects of strontium-89 and external beam radiotherapy in metastatic prostate cancer. Radiother Oncol. 1994;31(1):33-40. | |
9) | Porter AT, McEwan AJ, Powe JE, et al. Results of a randomized phase-III trial to evaluate the efficacy of strontium-89 adjuvant to local field external beam irradiation in the management of endocrine resistant metastatic prostate cancer. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1993;25(5):805-13. | |
10) | Saad F, Gleason DM, Murray R, et al. A randomized, placebo-controlled trial of zoledronic acid in patients with hormone-refractory metastatic prostate carcinoma. J Natl Cancer Inst. 2002;94(19):1458-68. | |
11) | Dearnaley DP, Sydes MR, Mason MD, et al. A double-blind, placebo-controlled, randomized trial of oral sodium clodronate for metastatic prostate cancer(MRC PR05 Trial). J Natl Cancer Inst. 2003;95(17):1300-11. | |
12) | Ross JR, Saunders Y, Edmonds PM, et al. Systematic review of role of bisphosphonates on skeletal morbidity in metastatic cancer. Bmj. 2003;327(7413):469. |