(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版

 
第7章 待機療法

 
CQ6  近年ではlow riskの前立腺癌が多く発見される傾向にあるが,PSA監視療法を選択する患者は増加しつつあるか?

推奨グレード B
米国ではPSA監視療法を選択する症例は減少しつつあるがlow risk症例の8%が本療法を選択している。

 背 景
PSAの普及により発見される前立腺癌は早期の割合が増えつつある。low riskの前立腺癌に対してはPSA監視療法が治療の選択肢の一つであるため単純に考えるとPSA監視療法を選択する患者は増えつつあるように思われるが,実際はどうであろうか? わが国ではいまだPSA監視療法に関するまとまったデータがでていないため主に米国での現状について検討してみた。

 解 説
The cancer of the prostate strategic urological research endeavor(CaPSURE)のデータベースを用いた10,000名以上の前立腺癌患者を対象にした検討では,最近発見される前立腺癌はよりlow riskなものが多くなってきていることを示している。これに反しPSA監視療法を選択する患者の割合は1993年から1995年までは20%であったのが1999年から2001年までは8%に減少してきている。そのかわりとして内分泌療法が7%から12%に,小線源治療が4%から22%へと増加してきている。手術療法の割合が55%から52%とほぼ変わらないことを考慮するとPSA監視療法を選ぶ人が小線源治療や内分泌療法に移行していることが予想される1)(III)。しかしながらlow risk群の患者の8%がPSA監視療法を選択していることも事実であり,これは日本での限局性前立腺癌に対するPSA監視療法の占める割合(2.9%)2)(III)に比べると多いと思われる。
二次治療に移行する人の割合であるが,先程と同じCaPSUREのデータベースを用いた報告では1991年から2002年で70歳以下,Gleasonスコア≦6(Gleason patternで4以上のものは除外する),生検での陽性本数が2個所以下,臨床病期T1-2,PSA≦20ng/mlでPSA監視療法を施行した313名に関し解析した3)(III)。313名中215名は二次治療に移行しており内訳は前立腺全摘除術:104名,放射線外照射:57名,小線源治療:39名,凍結療法:2名,内分泌療法:13名であり,二次治療に移行した割合は2年:57.3%,4年:73.2%であった。Zietmanらは199名のT1-2,PSA<20ng/ml前立腺癌患者に対しPSA監視療法を施行した4)(III)。生存し,PSA監視療法を継続しているものは5年:43%,7年:26%であった。Chooらは206名のT1b-2,PSA≦15ng/ml,Gleasonスコア≦7前立腺癌患者に対しPSA監視療法を施行した5)(III)。二次治療に移行したものは69名でそのうち癌が進行していると判断されたのは36名であった。PSA監視療法を継続したものは2年で67%,4年で48%であった。
各種治療法間のQOLの比較に関しての情報はまだ乏しいが,米国での800例あまりの横断的解析では,PSA監視療法群は前立腺全摘除術群にくらべSF-36の8つの下位尺度のうち身体機能と全体的健康感で有意に低下していた。しかし,放射線外照射や内分泌療法群では8つの下位尺度のほとんどで前立腺全摘除術群より有意に低下していたことから,PSA監視療法中の健康関連QOLが低いことがPSA監視療法を選択する比率が減った理由とは考えにくい6)(III)。むしろ癌を告知された状態で,何も治療を開始しない不安感を患者が抱くことや,医師と患者との間でPSA監視療法に対する意志疎通が不十分であることが大きな要因になっている可能性がある。Zietmanらの報告でも二次治療を受けた患者の81%は医師が二次治療を勧めていると感じているのに対し,医師側では医師が勧めたと感じている割合はわずか24%であった4)(III)PSA監視療法を選択するか否かは医師側の説明に大きく依存するだけに7)(IV),患者へのカウンセリングに有用な科学的情報,特に日本人での情報の蓄積が急務と考えられる。現在日本人患者においても,小病巣・高分化癌と推定される症例に限って,一定の選択規準を設けて,PSA倍加時間をモニターしながらPSA監視療法に関するfeasibility studyが進行中である8)(III)


 参考文献
1) Cooperberg MR, Broering JM, Litwin MS, et al. The contemporary management of prostate cancer in the United States:lessons from the cancer of the prostate strategic urologic research endeavor(CapSURE), a national disease registry. J Urol. 2004;171(4):1393-401.
2) Cancer Registration Committee of the Japanese Urological Association. Clinicopathological statistics on registered prostate cancer patients in Japan:2000 report from the Japanese Urological Association. Int J Urol. 2005;12(1):46-61.
3) Carter CA, Donahue T, Sun L, et al. Temporarily deferred therapy(watchful waiting)for men younger than 70 years and with low-risk localized prostate cancer in the prostate-specific antigen era. J Clin Oncol. 2003;21(21):4001-8.
4) Zietman AL, Thakral H, Wilson L, et al. Conservative management of prostate cancer in the prostate specific antigen era:the incidence and time course of subsequent therapy. J Urol. 2001;166(5):1702-6.
5) Choo R, Klotz L, Danjoux C, et al. Feasibility study:watchful waiting for localized low to intermediate grade prostate carcinoma with selective delayed intervention based on prostate specific antigen, histological and/or clinical progression. J Urol. 2002;167(4):1664-9.
6) Bacon CG, Giovannucci E, Testa M, et al. The impact of cancer treatment on quality of life outcomes for patients with localized prostate cancer. J Urol. 2001;166(5):1804-10.
7) George N. Therapeutic dilemmas in prostate cancer:justification for watchful waiting. Eur Urol. 1998;34 Suppl 3:33-6.
8) Kakehi Y. Watchful waiting as a treatment option for localized prostate cancer in the PSA era. Jpn J Clin Oncol. 2003;33(1):1-5.

 

 
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