(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版

 
第5章 放射線療法

 
はじめに

前立腺癌に対する放射線療法はコンピュータ技術の長足の進歩とあいまって,革新的変遷をとげてきた。前立腺全摘除術と同様,局所療法であるがために,最良の適応は局所限局癌であり,前立腺全摘除術と同等の成績が得られるとされている1)(III)。しかし,最近では,1980年代半ばから90年代にかけて欧米で施行された大規模な無作為割付試験の長期成績に基づき,特に内分泌療法との併用(ネオアジュバント・アジュバント)療法を行えば,局所進行癌ですら全生存でみた治療効果は向上することが認識されたため,治療戦略の概念が大幅に変化した2),3),4),5),6),7),8)(II)9)(III)10),11),12)(II)。適応となる対象が拡大され,有効な治療オプションも広がったことに伴い,個々の症例に応じて,より良い治療法を選択するための正確な予後予測をしようとする,すなわち治療前に「リスク」を分類しそれに応じた治療法を検討しようとする考え方が,昨今の前立腺癌診療の本流である13)(III)14)(II)15)(III)
さらには全世界的な前立腺癌検出頻度の増加傾向とともに,治療成績の視点からのみならず,コスト,合併症・副作用,毒性,生活の質への影響をも鑑みて一次治療法の選択を考慮するといった傾向も顕著となってきている。長い自然史をもち,罹患率が疾患による死亡率を大幅に凌駕する前立腺癌において,治療成績とのトレードオフを考慮し,最終的にどれほどの利益が得られるかを,治療選択時に十二分に考慮するという意味で重要な検討課題である。このほか,放射線療法は緩和医療や他の一次療法後の再発に対する治療法として選択される場合も多く,幅広く臨床に応用されている。
本ガイドラインでは,もろもろの治療オプションの中で,放射線治療を選択した場合という想定のもとにクリニカルクエスチョンを設定し,その解説を試みた。さらに,先に述べた「リスク」は通常,低,中,高リスクと大きく3段階に分類されることが多いが,その定義にコンセンサスがあるわけではなく,個々の検討により詳細は多様である。したがって,本ガイドラインとして統一することはできず,各報告に用いられているままの表記を用いたため,内容の解釈には特に慎重さが求められる。
本ガイドラインでは,放射線療法の種類別に9項目のカテゴリーを設定し,その各々につき臨床に即したクリニカルクエスチョンとその解説を配した。さらには,内分泌療法との併用効果など,各々の照射法別に共通の課題については重複を厭わず取りあげることとした。

 

 
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