(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版

 
第4章 外科治療

 
CQ13  前立腺全摘除術におけるリンパ節郭清に意義はあるか。

推奨グレード B
診断的な意味合いとして施行されている。

 背景・目的
前立腺全摘除術においてリンパ節郭清は診断的な意味と理解されている。リンパ節郭清においては,より広汎な郭清を行うべきか,適切な郭清範囲はどこか,郭清を省略できるか,というような点がかねてから論点になっておりその点を検証した。

 解 説
骨盤リンパ節郭清を行う意義は,治療的なものではなく,むしろ診断的な意味合いと理解されてきた。これはリンパ節に転移している症例は長期間の経過観察では最終的には外科的治療が不成功に終わることが多く,前立腺全摘除術を施行する意義がないと考えられているからである。
しかし所属リンパ節転移のある症例に対する前立腺全摘除術の意義がないかについて,なにをもって「意義がない」とするかエビデンスに乏しいように思われる。「PSA再発をきたさないために」という点に関しては当然,所属リンパ節転移が関連することは容易に理解できる。予後という面では所属リンパ節に転移があっても前立腺全摘除術と同時に内分泌療法を行うことで,80%の10年癌特異的生存率を得ることができるとされる報告1)(III)をはじめ,N positive症例に対しても前立腺全摘除術の意義があるとする報告2),3),4)(III)がある。ただしこのような病態に対して,無条件に前立腺全摘除術を推奨するわけではなく,high riskあるいはT3前立腺癌に対する前立腺全摘除術の項目で記載したのと同様,その施行にあたっては注意が必要であり,該当項目を参照されたい。内分泌療法単独でこのような治療効果が得られるかどうかに関するエビデンスはない。
郭清についてはすべての症例に必要でなく,症例を選んで行うべきであるという主張がある5)(IV)。具体的にはどのような症例に対して省略が可能かという点に関しては,拡大郭清と標準郭清の比較試験でPSA 10.5未満でGleasonスコア6以下の症例で6)(II),小さな高分化では,骨盤リンパ節が陽性である率は20%未満であり,骨盤リンパ節の郭清は省略可能7)(III)とされており,条件によってはリンパ節郭清を省略することは可能であろう8)(III)と考えられる。しかし日本人に即したノモグラムが確立していない現状では省略する明確な基準は示せない。
郭清の範囲についても議論のあるところである。広汎なリンパ節郭清の有用性を検討した研究ではそもそも前立腺全摘除術の適応に関するバイアスが存在することを常に留意しなければならない。たとえば広範囲リンパ節郭清術は有用か否かを検討したRCTでは,広範囲郭清と限局性郭清の間にはリンパ節転移発見率に差はなく,広範囲郭清術のほうが合併症を起こすリスクが高い傾向にあった9)(II)と結論づけているが,そもそもこの研究の対象症例にはlow-grade,low-stageが多く,このような症例群では広範な郭清は当然,無意味という結論になると考えられる。一方,臨床的限局癌に対して,標準的リンパ節郭清術と比べて拡大リンパ節郭清術に意味があり,外腸骨・内腸骨・閉鎖リンパ節を郭清することが望ましい,とする報告の対象は,PSAの平均値は59.9ng/dlでリンパ節転移のリスクの高い症例が多く含まれており,このようなhigh PSA症例では拡大リンパ節郭清をすることで転移リンパ節の発見頻度が高まるという当然の結論が導けるにすぎない6)(II)。このように対象とする症例群により結論が異なる結果となり,いまだ結論は導けない。さらにリンパ節郭清をすることで予後が向上するかどうかの明確なエビデンスはない。
リンパ節に対する術中迅速病理診断をすべきかという点に関しては,その有用性は限られるとされている。肉眼的に明らかな転移がある症例以外では,術中迅速病理診断を省略して前立腺全摘除術を行って問題はないと報告されている10)(III)。リンパ節に対する術中迅速病理診断の必要性は限られておりhigh riskグループの症例においては必要かもしれないが,Partinらのノモグラムを用いた方がsensitivityはよい11)(III)との報告もあり,最終的には日本でのノモグラムの確立が待たれる。


 参考文献
1) Myers RP, Larson-Keller JJ, Bergstralh EJ, et al. Hormonal treatment at time of radical retropubic prostatectomy for stage D1 prostate cancer:results of long-term followup. J Urol. 1992;147:910-5.
2) Sgrignoli AR, Walsh PC, Steinberg GD, et al. Prognostic factors in men with stage D1 prostate cancer:identification of patients less likely to have prolonged survival after radical prostatectomy. J Urol. 1994;152(4):1077-81.
3) Zwergel U, Lehmann J, Wullich B, et al. Lymph node positive prostate cancer:long-term survival data after radical prostatectomy. J Urol. 2004;171(3):1128-31.
4) Grimm MO, Kamphausen S, Hugenschmidt H, et al. Clinical outcome of patients with lymph node positive prostate cancer after radical prostatectomy versus androgen deprivation. Eur Urol. 2002;41(6):628-34;discussion 634.
5) Link RE, Morton RA. Indications for pelvic lymphadenectomy in prostate cancer. Urol Clin North Am. 2001;28(3):491-8.
6) Heidenreich A, Varga Z, Von Knobloch R. Extended pelvic lymphadenectomy in patients undergoing radical prostatectomy:high incidence of lymph node metastasis. J Urol. 2002;167(4):1681-6.
7) Fournier GR Jr, Narayan P. Re-evaluation of the need for pelvic lymphadenectomy in low grade prostate cancer. Br J Urol. 1993;72(4):484-8.
8) Partin AW, Yoo J, Carter HB, et al. The use of prostate specific antigen, clinical stage and Gleason score to predict pathological stage in men with localized prostate cancer. J Urol. 1993;150:110-4.
9) Clark T, Parekh DJ, Cookson MS, et al. Randomized prospective evaluation of extended versus limited lymph node dissection in patients with clinically localized prostate cancer. J Urol. 2003;169(1):145-7;discussion 147-8.
10) Kakehi Y, Kamoto T, Okuno H, et al. Per-operative frozen section examination of pelvic nodes is unnecessary for the majority of clinically localized prostate cancers in the prostate-specific antigen era. Int J Urol. 2000;7(8):281-6.
11) Beissner RS, Stricker JB, Speights VO, et al. Frozen section diagnosis of metastatic prostate adenocarcinoma in pelvic lymphadenectomy compared with nomogram prediction of metastasis. Urology. 2002;59(5):721-5.

 

 
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