(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版

 
第4章 外科治療

 
CQ1  前立腺全摘除術においてPSA再発を治療成績のエンドポイントの一つとすべきである。

推奨グレード C
外科治療においてPSA再発を治療成績のエンドポイントとする論文が多いが,かならずしも適切なエンドポイントに相当しない病態もある。最近の論調ではむしろPSA倍加時間(PSADT)が重要との指摘もある。

 背景・目的
外科治療の治療成績は,PSA再発をsurrogate endpointとして多くのデータで解析されているが,strength of endpointとしてはNCI PDQのなかの第4の強さしかもたないdisease-free survivalのsurrogate endpointかもしれない(「4.外科治療のエンドポイントとPSA再発」参照)。
術後PSA値そのものは腫瘍の悪性度を必ず反映しているか,ガイドラインの作成のために,まずこの点を検討した。

 解 説
前立腺全摘除術により癌が根治していると術後3週以内にPSAは検出限界以下になるはずであり1)(III),この場合には治療効果の判定は容易である。しかし問題は測定限界以下にならない病態が本当に治療の不成功と判断すべきか,あるいは不成功になったとしても果たして生命予後に関与するかというところである。前立腺全摘除術後にPSA値が0.1から0.2の間の患者で,何ら臨床的再発やそれ以上のPSA値の上昇が認められないことがあることが示されている2)(III)。また術後にPSA値が高値または上昇している患者の大部分は,かなりの期間,臨床症状を発症しない3)(III)。平均5.3年追跡調査された約2000例の前立腺全摘除術症例の検討によると生化学的再発から臨床的転移の発現までの平均期間は8年であった。また転移をきたしてから死亡までの平均期間は5年間であったと報告されており4)(III),手術後のPSA上昇は必ずしもすべてが癌再発ではないとする主張もある5)(IV)
実際,PSA再発をきたした症例で,前立腺癌再発が死亡原因になりうるかという点に関しては,PSADTが3カ月未満なら,癌死と関連があり,PSA再発はsurrogate end pointとなるとしている6)(III)7)(IV)8)(III)。つまりPSA再発はsurrogate endpointとなりうるが,その場合は腫瘍の悪性度が高い場合に,という解釈になる。そもそも予後は腫瘍そのものの悪性度に起因するわけであるから,悪性度を反映する指標としてはGleasonスコアなどの腫瘍本体の悪性度と癌細胞の増殖に関連すると想定されるPSADTなどの因子により予想することが妥当であろう。
PSA再発をきたした場合,患者にとっては大きな関心事となりその点ではpatients oriented outcomeと言えるかもしれない。しかしPSA再発の病態の幅は広く,悪性度の低い状況ではエンドポイントとならない可能性を認識することが必要と思われる。


 参考文献
1) Stamey TA, Kabalin JN, McNeal JE, et al. Prostate specific antigen in the diagnosis and treatment of adenocarcinoma of the prostate. II. Radical prostatectomy treated patients. J Urol. 1989;141(5):1076-83.
2) Schild SE, Wong WW, Novicki DE, et al. Detection of residual prostate cancer after radical prostatectomy with the Abbott IMx PSA assay. Urology. 1996;47(6):878-81.
3) Oefelein MG, Smith N, Carter M, et al. The incidence of prostate cancer progression with undetectable serum prostate specific antigen in a series of 394 radical prostatectomies. J Urol. 1995;154(6):2128-31.
4) Pound CR, Partin AW, Eisenberger MA, et al. Natural history of progression after PSA elevation following radical prostatectomy. JAMA. 1999;281(17):1591-7.
5) Scher HI. Management of prostate cancer after prostatectomy:treating the patient, not the PSA. JAMA. 1999;281(17):1642-5.
6) D'Amico AV, Moul JW, Carroll PR, et al. Surrogate end point for prostate cancer-specific mortality after radical prostatectomy or radiation therapy. J Natl Cancer Inst. 2003;95(18):1376-83.
7) D'Amico AV. Predicting prostate-specific antigen recurrence established:now, who will survive? J Clin Oncol. 2002;20(15):3188-90.
8) Iselin CE, Robertson JE, Paulson DF. Radical perineal prostatectomy:oncological outcome during a 20-year period. J Urol. 1999;161(1):163-8.

 

 
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