(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版
第3章 治療総論
8 外科治療と放射線治療の比較
今まで述べてきたように,限局性前立腺癌に対しては根治療法として前立腺全摘除術と放射線治療の二つが存在し,その優劣が問題となる。それぞれの治療法についてはたくさんの論文が存在するため,比較検討が今までにされてきたが患者背景が異なるうえに評価の方法(PSA再発ひとつをとっても治療法間での定義はまったく異なる)もまちまちであり,多大な労力をつぎ込んだが結論は得られなかった。また前立腺癌は生物学的な悪性度がそれほど高くないこと,局所療法がうまくいかなかった場合でも後に内分泌療法が施行できることなどから,全生存率で比較するには10年以上の経過観察が必要であることも両者の優劣をつけがたい一因である。真の意味での優劣を比較するには大規模なRCTで全生存率をエンドポイントとした長期にわたる観察が必要であるが,現状を考えるとこのようなRCTは非現実的であり,また結果の妥当性についても疑問が残る。また海外でこの点について結論が出たとしても,その結果が我々日本人にそのままあてはめることができるかどうかという問題もある。
照射技術が発達していない時代においては,照射線量は60-70Gyが主体をしめており,この時代においては局所前立腺癌に対する治療成績は外科治療の方が予後は有意に良好であった。前述したごとく照射技術の発達に伴い70Gy以上の照射が可能である近年の外照射,あるいは内照射療法の成績は手術療法とほぼ同等と言われている。ただ手術療法後のPSA再発に対し放射線療法を適応できるが,放射線療法後のPSA再発に対し手術療法を選ぶのは困難である。
放射線治療と手術療法のどちらを選択するかはむしろ副作用の問題が多くなる。手術療法においては尿失禁と性機能障害が問題となり,放射線療法では直腸障害,排尿障害,性機能障害が問題となる。放射線治療では晩発性の障害や2次発癌のリスクも若年者においては考慮されるべきである。