(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版

 
第2章 診断

 
CQ12  2回目の生検でも陰性の場合,積極的に癌を検索すべきか?
もしそうだとしたら,その後の生検で癌が見つかる可能性はどれくらいか?

推奨グレード B
2回目の生検でも癌が検出されなかった場合,それ以上の生検はそれでも癌の存在が疑われる場合に推奨される。3回目および4回目の生検で癌が見つかる可能性はそれぞれ5%および4%とされる。

 背景・目的
血清PSAの測定により前立腺癌の検出数は飛躍的に増加した1)(III)。PSAは前立腺特異的ではあるが,癌特異的ではない。触知不能な前立腺癌はPSA 4-10ng/mlの症例の25%において生検により発見されるが,PSAが4.0ng/ml未満の症例であっても系統生検により前立腺癌が発見されるのも決して稀ではなくなった。しかし多くの症例に対し無用の生検を行っている可能性があり,生検の特異度を上げるために,PSAD,年齢階層別PSA基準値,PSA velocity,% free PSAの測定が試みられているが2),3)(III),いまだ臨床上統一された基準は存在しない。前立腺全摘除術の対象となる早期前立腺癌の症例のほとんどがPSA 10ng/ml以下の症例であることより,このゾーンの症例から前立腺癌検出の感度をいかに上げ,かつ不要な生検を減らして癌検出の特異度を上げるかということが重要で,再生検の適応におけるさまざまなパラメーターの有用性が検討されている。しかし2回目の生検でも癌が検出されなかった場合,さらに生検を追加する必要があるか,および3回目以上の生検でどの程度の頻度で癌が発見されているかを問うのがこの頃のテーマである。

 解 説
現在までの報告の中にはスクリーニングを繰り返して発見された症例ほど臨床病期および悪性度が低いとする報告4)(II)があり,長期にわたりPSAスクリーニングを実施して生検を行うことにより,前立腺癌死亡率を低下させる可能性はある。
一方,PSA高値持続症例,DRE異常症例で初回9個所生検にて陰性で6年間追跡調査を行った集団とそれと同じ年代の同じ時期の男性の集団において前立腺癌の発生率に有意差がなく,明らかに癌が疑われる所見が現われるまで再生検を待ってよいとする報告5)(III)もある。
また複数回の生検で癌が検出された症例と初回生検で癌が検出された症例で,前立腺全摘標本における腫瘍体積や癌の局在に違いがあるか検討した報告6)(III)では,腫瘍体積,前立腺重量に差はなく,癌の検出に複数回の生検を要した症例では有意に前立腺の背側,外側に腫瘍が局在する率が高かったとされる。また他の報告7)(III)では再生検で発見された癌は有意に多病巣性が低く,尖部背側に分布したとされている。また60歳未満またはPSAが7ng/ml未満の症例では外側と中央部の12個所生検が最適であるが,その他は外側6個所と中央部の尖部と基部の4個所の10個所生検が最適とする報告8)(III)もあり,年齢,PSAなどの条件により部位を変えて拡大系統的生検とするのが検出率を上げるのに有効かもしれない。
PSAが4-10ng/mlの症例において6〜8週の間隔をおいて1〜4回生検を行って得られた最近の報告としてDjavanらのEuropean study9)(III)がある。この報告の重要なポイントは2回目の生検で陽性になる場合は1回目の生検で見逃された癌が2回目の生検で検出されるということ,および初回生検で発見される癌に比べ,3〜4回目で発見される癌はより低いGleasonスコア,小さい腫瘍体積,低い病期であったということである。そして3,4回目の生検で癌が見つかる頻度は各々の集団において5%,4%であった。したがってこれらの癌の生命予後への影響度,またより低い生検感度を考慮した場合,3回以上の生検を行う意義はもっぱら不明と言わざるを得ず,2回の生検で陰性でも癌の存在を疑うケースにおいて行うべきであるという回答が妥当であろう。


 参考文献
1) Oesterling JE. Prostate specific antigen:a critical assessment of the most useful tumor marker for adenocarcinoma of the prostate. J Urol. 1991;145:907-23.
2) Gretzer MB, Partin AW. PSA markers in prostate cancer detection. Urol Clin North Am. 2003;30:677-86.
3) Okihara K, Cheli CD, Partin AW, et al. Comparative analysis of complexed prostate specific antigen, free prostate specific antigen and their ratio in detecting prostate cancer. J Urol. 2002;167:2017-23.
4) Hugosson J, Aus G, Lija H, et al. Results of a randomized population-based study of biennial screening using serum prostate-specific antigen measurement to detect prostate carcinoma. Cancer. 2004;100:1397-405.
5) Bill-Axelson A, Holmberg L, Norlen B, et al. No increased prostate cancer incidence after negative transrectal ultrasound guided multiple biopsies in men with increased prostate specific antigen and/or abnormal digital rectal examination. J Urol. 2003;170:1180-3.
6) Epstein JI, Walsh PC, Akingba G, et al. The significance of prior benign needle biopsies in men subsequently diagnosed with prostate cancer. J Urol. 1999;162:1649-52.
7) Djavan B, Mazal P, Zlotta A, et al. Pathological features of prostate cancer detected on initial and repeat prostate biopsy:results of the prospective European Prostate Cancer Detection study. Prostate 2001;47:111-7.
8) Presti JC Jr, O'Dowd GJ, Miller MC, et al. Extended peripheral zone biopsy schemes increase cancer detection rates and minimize variance in prostate specific antigen and age related cancer rates:results of a community multi-practice study. J Urol. 2003;169:125-9.
9) Djavan B, Ravery V, Zlotta A, et al. Prospective evaluation of prostate cancer detected on biopsies 1, 2, 3 and 4:when should we stop? J Urol. 2001;166:1679-83.

 

 
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