(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版
第2章 診断
3 病期診断
前立腺癌の初回診断時の病期診断は直腸診とPSA測定,骨シンチグラムに加えてCT/MRI,特別な場合には胸部レントゲンも行われる。
1) | T-病期診断 |
2) | N-病期診断 |
3) | M-病期診断 |
1)T-病期診断
最初に行うべきは病巣が被膜内にとどまっているか(T1,T2),被膜を越えているか(T3,T4)を見極めることで,これが以後の治療方針の選択に大変重要である。直腸診は局所浸潤を過小評価しがちであり,直腸診と病理学的病期との一致率は50%以下と報告されている21)(III)。しかし,より詳細な原発巣の評価は,それが治療方針の決定に直接影響する場合や根治的治療が予定されている場合に限って推奨される。
PSAは病期が進むに従って上昇する。しかし,個々のPSAの値からその人の最終的な病理学的病期を正確に予測するには限界がある。PSAと生検組織におけるGleasonスコア,臨床病期の組み合わせは,最終的な病理学的病期を予測するのに有用である22)(III)。経直腸超音波検査はルーチンな病期診断法としては腫瘍進展の把握の正確さに問題があり勧められない23)(III)。精嚢生検は,もし精嚢に浸潤があった場合に治療内容が変わるかもしれない患者に対しては考慮されるべきである。このほか,多個所生検の結果のより詳細な分析(陽性検体数,グレードと癌病巣の拡がり,被膜穿通)が有用かもしれない。
CTは腫瘍の局所浸潤の評価には信頼性が十分とはいえない24)(IV)。MRIは被膜外浸潤や精嚢浸潤など局所進行病期の同定に有用性が報告されている25),26)。しかし,術前病期診断におけるMRIのルーチンな使用については意見が分かれている。
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2)N-病期診断
リンパ節の評価は,それが治療方針の決定に直接関わってくる場合にのみ適応があり,これは通常根治的治療を希望している患者が対象となる。PSA高値,T2bまたはT3例,低分化癌,神経周囲浸潤などを有する場合はリンパ節転移のハイリスク例となる27)(IV)。PSA測定だけでは個々の患者のリンパ節転移の有無の予測はむずかしい。リンパ節転移の存在の予測はPSA,直腸診,腫瘍のグレードの組み合わせによって信頼性が高まる27)。
このことは逆に,リンパ節転移の低リスク群(10%以下)についても当てはまる。PSAが20ng/ml以下でT2a以下,かつGleasonスコアが6以下ならば根治治療を行う前のリンパ節の評価を省略してもまず心配はない27)(IV)。
リンパ節の評価における最適の方法は開放手術または鏡視下手術によるリンパ節郭清術である。CTもMRIもその0-70%という低い感度のためその利用は限られている25)。
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3)M-病期診断
前立腺癌死亡例の85%には椎体転移が認められる28)。骨転移の存在とその進展は個々の患者の予後を的確に反映する。骨シンチグラフィは骨転移を検出する最も感度の良い方法である29)(III)。骨シンチグラフィ上の骨病変の半定量的評価は予後と相関するとされている30)(III)。骨以外にも前立腺癌は種々の臓器へ転移していく。実際の転移部位は遠隔リンパ節,肝,肺,脳,皮膚等である。軟部組織への転移が疑われた場合には一般診察,胸部レントゲン,超音波検査,CT,MRIなどすべての手段が適応となり得る。
治療前のPSAが100ng/ml以上の場合には,それだけでほぼ100%の確率で転移病巣の存在を意味する31)(IV)。その一方では,稀ではあるがPSAが低値でありながら骨転移を有する例も存在する。PSA20ng/ml以下では約99%で骨転移を認めない32)(III)。PSAが10ng/ml未満かつ無症状で,高または中分化癌である場合には病期診断目的での骨シンチグラフィは不必要と報告されている33)(III)。