(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版
第1章 疫学
CQ6 | 前立腺癌の危険因子はどのようなものがあるか? |
遺伝的要因が危険因子として重要であり,第一度近親者の罹患者数とその近親者の癌診断時年齢が若年であることは,発症リスクを高める。その他,食生活の欧米化の関与も指摘されている。 |
前立腺癌の決定的な危険因子はいまだ不明であるが,いくつかの有力な危険因子が同定されている。現時点で最も確実な危険因子は遺伝的要因であり,第一度近親者に1人の前立腺癌患者がいた場合,前立腺癌罹患危険率は2倍になる。また,第一度近親者に2人以上の前立腺癌患者がいた場合,前立腺癌罹患危険率は5〜11倍になる1)。
遺伝性前立腺癌(Carterらの定義2):一核家族内に3人以上の前立腺癌患者がいる,3世代以上にわたり前立腺癌患者がいる,55歳以下の前立腺癌患者が2人以上いる,のいずれか一つの条件を満たす)の頻度は,わが国では0.7%,欧米では5-10%が遺伝性前立腺癌の条件を満たしているとの報告がある2),3),4)。
また,ラテント癌の頻度は人種間でそれほど大きな違いがないにもかかわらず,臨床癌の頻度には大きな違いがある,あるいは,同じ日本人であっても日本在住の場合とハワイ,アメリカ合衆国本土在住の日本人とでは前立腺癌罹患率に差がある5)ことから,外的な要因も前立腺癌の進展に関与していると考えられている。確実な証拠はないものの,動物性脂肪を摂取する機会の多い西洋風の食事様式が前立腺癌の危険性に関与することが示されている6)。その他,食品に関しては,豆類・穀物の摂取は前立腺癌罹患率と負の相関関係があり,砂糖,ミルク,油脂に正の相関が示唆されている7)。また,前立腺癌が男性ホルモン依存性であることから,男性ホルモンは癌の発生に必須である。
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1) | Steinberg GD, Carter BS, Beaty TH, et al. Family history and the risk of prostate cancer. Prostate. 1990;17:337-47. | |
2) | Carter BS, Bova GS, Beaty TH, et al. Hereditary prostate cancer:epidemiologic and clinical features. J Urol. 1993;150:797-802. | |
3) | 大竹伸明,中田誠司,深堀能立,他:本邦における家族性前立腺癌の最新知見.日本臨床.2002;60:469-73. | |
4) | Valeri A, Azzouzi R, Drelon E, et al. Early-onset hereditary prostate cancer is not associated with specific clinical and biological features. Prostate. 2000;45:66-71. | |
5) | Parkin DM, Whelan SL, Ferlay J, et al. Age-standardized(world)incidence(per 100,000)and cumulative(0-74)incidence(percent)rates and standard errors, Prostate(C61). In:Cancer Incidence in Five Continents Vol VIII. Lyon:International Agency for Research on Cancer;2002. p.633-5. | |
6) | Giovannucci E, Rimm EB, Colditz GA, et al. A prospective study of dietary fat and risk of prostate cancer. J Natl Cancer Inst. 1993;85:1571-9. | |
7) | 中田誠司,他:日本及び世界における前立腺癌死亡と食摂取様式の相関分析.癌の臨床.1994;40:831-6. |
注)疫学に関する事項は推奨グレードをつけられない部分が多いため,他のパートと異なり各クリニカルクエスチョンに対して,コメントおよび解説,文献の3部からなる構成とした。また文献の評価は,それぞれが扱っている対象が日本人か外国人か,community-basedかhospital-basedかの2点を明記した。