(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版
前立腺癌診療ガイドライン作成の経緯
および手順に関して
および手順に関して
前立腺癌診療ガイドライン作成の手順
ガイドラインの原案の作成にあたっては欧米で評価の定まった三つのガイドライン,すなわちNational cancer institute(NCI)の前立腺癌に関するPhysicians data query(PDQ)やEuropean association of urology(EAU)が作成したガイドライン,American cancer societyが作成したNational comprehensive cancer network(NCCN)を基に原案を作成し,これらのガイドラインが作成された時点(1999年)における前立腺癌の診断と治療に関する現状をまず明らかにした。疫学領域については,本邦特有の記述が多くなるため欧米のガイドラインとは別にクリニカルクエスチョンおよびキーワードを設定し,独自に作成した。
1999年以降の知見および本邦における特殊性をガイドライン原案に組み入れるためEBMの手法に則りガイドラインの作成をすすめた。まずクリニカルクエスチョンおよびキーワードを設定した。クリニカルクエスチョンとは臨床上の想定質問のことで,たとえば診断領域では「直腸診は前立腺癌の診断に有用か?」「PSAグレーゾーンの生検絞り込みに% free PSA,complexed PSAなどのPSA molecular formは有用か?」などの臨床上の想定質問を作成する。それに対して回答を与えてくれる文献を検索するためのキーワードを整理した。文献検索に関しては作成した原案以降(1999年以降)の論文に限定した。
文献検索は,キーワードを基に検索式を設定した。設定された検索式によりPub Medを用いて検索を行った。Pub Medの検索に関してはMeSHのmajor topicsを利用した。前立腺癌の場合,prostatic neoplasmsという単語でMeSH major topicsとして指定することにより前立腺癌が主題の論文が検索されることになる。さらに診断の場合は,mass screening,PSA,biopsy,あるいはstagingという単語がすべてMeSH major topicsの単語としてあったためこれらの単語を用いて検索式を立て文献検索を行った。各領域における検索式を表3に示す。また,作業の効率化とその後の文献入手のことを考え,雑誌を26誌に限定した。26誌の内訳は評価の定まっている泌尿器科9誌,腫瘍関係10誌,放射線治療3誌,総合医学誌4誌を選択した(表4)。検索した文献は,Pub Medからアクセスに取り込んだ。文献は全体で4662がヒットされたが,各小班で重要と思われる論文を選定し最終的に1033文献を対象とした(表5)。
これら1033文献につき構造化抄録を作成したが,その際日本泌尿器科学会を通じて全国的にボランティアを依頼し46施設,317名の会員の協力を得た。実際の構造化抄録を図2に示す。これは遅延内分泌療法と手術療法に関するNew England Journal of Medicineの文献の構造化抄録だが,目的は「北欧での大規模な待機療法とRRPとのランダム化試験」,デザインは「無作為化比較試験」,それに引き続いて対象,評価項目,主な結果,結論,レベル,コメントとなっている。構造化抄録においてはエビデンスレベルを設定することが重要で「抗ガン剤適正使用ガイドライン作成委員会の基準」に基づいてエビデンスレベルを決定した(表6)。
こうして作成された構造化抄録を基にしながらクリニカルクエスチョンに対するアンサーを作成した。文献検索のためのクリニカルクエスチョンを選定したが,ガイドラインをより見やすくするためにクリニカルクエスチョンを見直し改訂する作業も行った。
執筆形式としては,クエスチョンに対するアンサーという形式で執筆した。アンサーに関しては,それぞれ推奨度を決定した。推奨グレードはA,B,C,Dで表した。Aは行うよう強く勧められる,Bは行うよう勧められる,Cは行うよう勧めるだけの根拠が明確でない,Dは行わないように勧められるとなっている(表7)。推奨グレードは引用した論文のエビデンスレベルを含め総合的に判断した。これに引き続きクエスチョンが出てきた背景,アンサーに対する解説を記し,それぞれの中で引用した文献を参考文献としてつけるという形式となっている。初稿については,委員会以外の前立腺癌に造詣の深い泌尿器科医の外部評価を受け改訂を行った。最終的に本ガイドラインを要約したエクゼクティブサマリーを作成した。
また,標準的な患者が診療ガイドラインの中でどのような流れに乗っていくかについて,アルゴリズムを作成した。たとえば50歳以上の男性が来院したとき,まず検診を受けるかどうかに関してその利益,不利益を説明し,PSA測定を行う,PSAが高い場合は専門家を訪れて生検を行い,病期診断を行ったのちに治療法を決定する,癌が出なかった場合は経過観察や適切な治療を行うというように,全体の流れをアルゴリズムで示したので参照されたい。
表3 文献検索式一覧 |
診断 |
(Prostatic Neoplasms "[MAJR]AND " Mass Screening "[MAJR])OR(" Prostatic Neoplasms "[MAJR]AND "Prostate-Specific Antigen"[MAJR])OR("Prostatic Neoplasms "[MAJR]AND " Biopsy "[MAJR])OR(" Prostatic Neoplasms "[MAJR]AND " Neoplasm Staging"[MAJR])OR("Prostatic Neoplasms/diagnosis"[MAJR:NoExp]) |
外科治療 |
("Prostatic Neoplasms "[MAJR]AND " Prostatectomy"[MAJR])OR("Prostatic Neoplasms/surgery"[MAJR:NoExp]) |
放射線治療 |
("Prostatic Neoplasms "MAJR]AND "Radiotherapy"[MAJR])OR(" Prostatic Neoplasms/radiotherapy"[MAJR:NoExp]) |
薬物治療 |
("Prostatic Neoplasms"[MAJR]AND "Drug Therapy"[MAJR])OR("Prostatic Neoplasms/drug therapy"[MAJR:NoExp]) |
待機療法 |
"Prostatic Neoplasms"[MAJR]and waiting |
緩和医療 |
"Prostatic Neoplasms"[MAJR]and palliative |
表4 検索雑誌一覧 | |||||||||||
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表5 文献検索数一覧 |
文献数 (選択前) |
文献数 (選択後) |
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疫学 | 821 | 255 |
診断 | 1222 | 164 |
外科治療 | 739 | 236 |
放射線治療; | 958 | 251 |
薬物療法 | 777 | 72 |
待機療法・緩和医療 | 145 | 55 |
合計 | 4662 | 1033 |
図2 構造化抄録(Abstract Form)例 |
Title | Radical prostatectomy versus watchful waiting in early prostate cancer. |
Author | Bill-Axelson A,Holmberg L,Ruutu M,Haggman M et al. |
Source | N Engl J Med 2005;352(19):1977-84. |
PT | Clinical Trial,Journal Article,Multicenter Study,Randomized Controlled Trial. |
目的 | 北欧での大規模な待機療法と前立腺全摘除術とのランダム化試験 2002年にNEJMに発表された臨床試験の追跡期間が延長されたもの |
デザイン | 無作為化比較試験 |
対象 | 1989年から1999年まで695名の臨床病期T2以下,PSA<50ng/ml,低分化型腺癌を除く695名を待機療法(348名)と前立腺全摘除術(347名)にランダムに割り付けた。 |
評価項目 | 疾患特異的生存率および全体生存率 |
主な結果 | 平均観察期間は8.2年であった。死亡数は待機療法:106名,前立腺全摘除術:83名で有意差は認めた(p=0.04),癌死は待機療法 50 名(14.4%),前立腺全摘除術:30名(8.6%)でrelative riskは0.56(p=0.01)であった。遠隔転移のrelative riskは0.60(p=0.004)で局所浸潤のrelative riskは0.33(p<0.001)であった。 |
結論 | 前立腺全摘除術は中―高分化型限局性前立腺癌患者の疾患特異的生存率および全体生存率を改善した。 |
エビデンス レベル |
II |
クリニカル クエスチョン |
RRPは待機療法と比較して生存率を改善するか? |
クリニカル アンサー |
RRPは中-高分化型限局性前立腺癌患者の疾患特異的生存率および全体生存率を改善した。 |
評価者の コメント |
ここで言う待機療法とは待機の後でホルモン療法を施行する遅延内分泌療法を意味し,最近の待機療法の意味とは異なるので注意が必要. |
表6 Evidence Level | |||||||||
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(抗ガン剤適正使用ガイドライン作成委員会の基準) |
表7 推奨度の決定 | |||||||||
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