有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン
VI.考察 |
3.対策型検診と任意型検診
本ガイドラインでは、実施体制を考慮し、集団対象とした対策型検診と個人対象とした任意型検診の両者を対象とし、実施の可否を推奨として示した。両者ともに、死亡率減少効果を示す科学的根拠が必要であり、利益と不利益の両者を考慮しなくてはならない。わが国においては、がん検診の受診率が低いことが指摘される一方で、人間ドックのような総合型健診の受診志向が比較的高いことを踏まえ、本ガイドラインでは、集団と個人の両者の観点から、推奨を行った。がん検診の実施体制に両者が混在する現状において、すべてのがん検診を科学的根拠をもって推進するための基礎資料として活用されることを期待するものである。
対策型検診は、地域住民のみが対象ではなく、居住地域や職域などの一定条件を満たした集団が該当する。実施に際し、検診の対象となる受診者名簿が完備され、それに基づく体系的な勧奨や追跡調査が行われる体制が整備されることが望ましい。北欧や英国では、国民のがん死亡減少を目的とした政策として、乳がん検診や子宮頚がん検診のOrganized Screeningが行われている96)。北欧や英国におけるOrganized Screeningでは、受診率対策ばかりではなく、標的となる受診者を明らかにすることで、精度管理の目標値を設定し、そのモニタリングも行われている。一方、わが国の老人保健事業によるがん検診は、市区町村によっては検診の対象となる受診者名簿が存在することもあり、一部の地域では北欧や英国と同様のOrganized Screeningに類似した検診体制が整えられている。しかし、特に都市部においては検診対象者が必ずしも正確には把握されていない。これらの点から、真のOrganized Screeningとは異なる不完全型がわが国の現状である。
一方、任意型検診は、個人の健康改善を目的とし、主として人間ドックなどで行われている。任意型検診は、米国におけるOpportunistic Screeningに相当し、個人の死亡リスクの減少を目的としている。このため、検査の感度が高いことが重視され、特異度は問題とならない場合が多く、不利益の抑制が困難な場合もある。任意型検診であっても、不利益を最小化することを念頭に、がん検診に関するインフォームド・コンセントと、安全性の確保や精度管理が必要であり、その整備が期待される。