有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン
IV.結果 |
2.検診方法の証拠
5)全大腸内視鏡検査
間接的証拠
Nivらの検討では、過去においてなんらかの大腸の検査(便潜血検査、全大腸内視鏡検査、S状結腸鏡検査、注腸X線検査)を受けた割合が、健常群(対照群)73.7%、大腸がん発見群(症例群)12.5%であった(P<0.0001)77)。さらに、過去の検査を全大腸内視鏡検査に限定した場合、健常群(対照群)48.7%、大腸がん発見群(症例群)2.5%であった(P<0.0001)。
全大腸内視鏡検査の感度は95%以上77,78)である。Rexらは過去3年間以内の医療記録をもとに米国インディアナ州20施設2,193人の大腸がんの相対感度を算出したところ、全大腸内視鏡検査95%(83〜100%)、注腸X線検査82.9%(71〜100%)であった78)。注腸X線検査による大腸がんの見逃しは、全大腸内視鏡検査の3.93倍(95%CI, 2.76-5.58)であった。Smithらの2年間の追跡結果では、大腸がんについての感度は、全大腸内視鏡検査97.5%、注腸X線検査83%であり、10mm以上のポリープについては全大腸内視鏡検査91.4%、注腸X線検査21.7%であった79)。ただし、両者とも診療ベースの報告であり、便潜血検査化学法と直接的な比較を行ったものではない。
S状結腸鏡検査ではなく、全大腸内視鏡検査を用いる利点は、近位大腸がんの罹患・死亡の減少に寄与する可能性にある65,80)。退役軍人対象の13病院において、50〜75歳を対象に3,121人に全大腸内視鏡検査を行ったところ、遠位大腸で全くポリープのないものに比べ、10mm以上の腺腫のある場合に、近位大腸になんらかの病変(10mm以上の腺腫、villous adenoma、高度異形成、がん)がある可能性は3.4倍(95%CI, 1.8-6.5)であり、遠位大腸で10mm未満の腺腫のある場合でも、そのリスクは2.6倍(95%CI, 1.7-4.1)であった65)。ただし、近位大腸になんらかの病変がある場合でも、その半数は遠位大腸で全くポリープがなかった。Imperialeらの研究でも、近位大腸になんらかの病変(villousadenoma、高度異形成、がん)があるリスクは、遠位大腸にポリープがある場合にはないものに比べ、6.7倍(95%CI, 3.2-16.6)であった80)。
ポリペクトミーによる大腸がん罹患減少についての研究は、米国、イタリア、わが国の研究があり、いずれもその効果を認めている。
米国の7つのセンター共同で行われたNational Polyp Studyでは、1,418人を対象に平均5.9年間追跡し、5人の大腸がんの発症を認めた81)。同群は、Mayo Clinicでポリペクトミーを拒否し平均9年間経過観察された226人に比べ、大腸がん罹患が90%減少した(RR=0.10; 95%CI, 0.03-0.24)。英国のSt.Marks病院における硬性S状結腸鏡検査によるポリープ摘除例1,618人と比較して88%(RR=0.12; 95%CI, 0.04-0.27)、Surveillance, Epidemiology and End Results(SEER)から得られる米国一般集団と比較して76%(RR=0.24; 95%CI, 0.08-0.56)の大腸がん罹患減少を認めている。ただし、比較対照とした集団は、National Polyp Studyにおけるポリペクトミー例と背景要因が異なることから、その評価は慎重を要する。
イタリアにおいても5mm以上の腺腫にポリペクトミーを行った1,693人を平均10.5年間追跡したところ、大腸がん6人が発見された82)。しかし、一般集団に比べ大腸がん罹患が66%減少する効果を認めた(RR=0.34; 95%CI, 0.23-0.63)。
わが国における大阪市の研究は、大腸内視鏡検査受診後、ポリープ群と非ポリープ群を2〜13年間追跡したコホート研究である83)。大腸がんの実測値/期待罹患は、ポリープ群4.3、非ポリープ群0.9であった(P<0.01)。ポリープ群のうち、ポリペクトミー施行群で、未施行群に比し70%の大腸がんの罹患が減少した。
この他、Telemark Polyp Study61)でも、S状結腸鏡による検診後ポリペクトミーを行い、13年間の追跡で、大腸がん罹患は80%減少した(RR=0.2; 95%CI, 0.03-0.95)。