尿路結石症診療ガイドライン 2013年版
2 診断・治療
CQ 20
ESWL 治療の禁忌は何か?
ESWL 治療の禁忌は何か?
推奨グレード B |
ESWL の絶対的禁忌は,妊娠中の患者である。 |
推奨グレード B |
出血傾向を有する患者,抗血栓療法中の患者,動脈瘤を有する患者においては,ESWLは第1選択として施行すべきではない。 |
推奨グレード C1 |
活動性の尿路感染症,解剖学的な尿路狭窄を有する患者では,ESWL は第1選択ではない。しかし,これらに対する治療が十分に行われていれば,ESWL は適用可能である。 |
推奨グレード C1 |
かつて禁忌と考えられていた高度肥満や極度の骨格変形を有する患者には,種々の工夫により,ESWL は施行可能である。 |
解説
ESWL が開始された当初に比し,ESWL の禁忌事項はかなり少なくなっており,現時点では以下が,絶対的あるいは相対的に禁忌と考えられる。
一方,抗血栓療法の中断によって,種々の血栓症発生のリスクも高まるという別の問題点もある。これらに対する十分なRCT が存在していない実情もあるが,現時点では,これらの患者に対するESWL は第1 選択として施行すべきではなく,TUL などの適用を考慮する。
また骨格変形が著しい場合においても,衝撃波の焦点が合わせにくいなどの理由により,禁忌とされることが多かったが,脊髄損傷例や臥床がちの患者では,ESWL が唯一の治療手段であることも少なくない。このような症例で形成される結石は,感染性結石であることが多く,ESWL で砕石されやすい側面も有しているため,体位の工夫や自律神経過反射9)などへの対応により,ESWL の施行は十分に可能と考えられる。
ESWL が開始された当初に比し,ESWL の禁忌事項はかなり少なくなっており,現時点では以下が,絶対的あるいは相対的に禁忌と考えられる。
妊娠中の患者
妊娠を知らずして妊娠初期にESWL 治療を受けた結果,胎児には問題がなく出産が可能であったとのアンケート調査はあるが1),妊娠とESWL に関する厳密な比較試験は困難であるため,いまだヒト胎児に与える衝撃波の影響は正確には把握されていない。しかし,マウスの実験において,妊娠後期の衝撃波の曝露により,胎児組織の損傷と胎児死亡が誘発されたと報告されており2),妊娠期間中のESWL は回避すべきと考えられる。
出血傾向を有する患者や抗血栓療法(抗凝固療法と抗血小板療法)中の患者
血友病A およびB,von Willebrand 病,内因性の血小板機能異常,血小板減少症,肝不全などを有する患者において,安全にESWL を施行しえたとの報告3)がある一方で,種々の治療によって凝固機能を正常化したにもかかわらず,腎周囲(被膜下)血腫などの出血に関する合併症が生じたという報告も少なくない3)。また抗凝固療法(ワルファリンなど)や抗血小板療法(アスピリン,チクロピジン塩酸塩など)を行っている患者では,これらの薬剤を休薬の上(必要に応じてヘパリンへの置換を施行)ESWL を実施したところ,腎周囲(被膜下)血腫が生じなかったとの報告もあるが,一般的に出血のリスクが常に存在していることは否定できない。
一方,抗血栓療法の中断によって,種々の血栓症発生のリスクも高まるという別の問題点もある。これらに対する十分なRCT が存在していない実情もあるが,現時点では,これらの患者に対するESWL は第1 選択として施行すべきではなく,TUL などの適用を考慮する。
動脈瘤を有する患者
EAU のガイドラインでは禁忌とされているが,AUA のガイドラインでは言及されておらず,議論が分かれている3)。動脈瘤の存在下にESWL を安全に施行しえたとの報告4)や,実験的にはESWL は動脈瘤を破裂させないとの見解がある3)。しかし,ESWL 後の動脈瘤の破裂の報告例も散見され,実際に死亡例も存在している3)。動脈瘤を有する患者に対するESWL は,明らかに危険であるとする十分なエビデンスはないが,血管外科医などの専門家の助言や,動脈瘤破裂などの合併症への備えがない場合でのESWL は,第1 選択として施行すべきではなく,TUL などの適用を考慮する。
活動性の尿路感染症を有する患者
ESWL 前に活動性の尿路感染症,例えば,膿尿や細菌尿が存在する有熱性の炎症や,血液検査での白血球数やCRP の上昇などが併存している場合には,ESWL により,菌血症や敗血症を誘発する可能性がある5)。尿路閉塞を伴っている場合には,尿管ステント留置や腎瘻造設による感染尿の速やかなドレナージとともに,感受性のある抗菌薬により,十分に尿路感染症を制御してから,ESWL を施行すべきである6,7)。
解剖学的な尿路狭窄を有する患者
例えば,腎盂尿管移行部狭窄症などの尿路狭窄が存在していれば,ESWL により,腎結石や尿管結石が砕石されても,その砕石片を排出させることは非常に困難である。その場合は,原疾患を治療することが優先され,ESWL を第1 選択とすることは推奨されない。
高度肥満や極度の骨格変形を有する患者
かつては135 kg 以上の病的肥満患者に対するESWL は禁忌と考えられていた。しかし,ESWL 機器によっては,焦点深度を工夫することにより,高度肥満においても良好な破砕効果を得ることが報告されており,現時点では禁忌ではないと考えられる8)。
また骨格変形が著しい場合においても,衝撃波の焦点が合わせにくいなどの理由により,禁忌とされることが多かったが,脊髄損傷例や臥床がちの患者では,ESWL が唯一の治療手段であることも少なくない。このような症例で形成される結石は,感染性結石であることが多く,ESWL で砕石されやすい側面も有しているため,体位の工夫や自律神経過反射9)などへの対応により,ESWL の施行は十分に可能と考えられる。
参考文献 |
1) | Asgari MA, Safarinejad MR, Hosseini SY, et al. Extracorporeal shock wave lithotripsy of renal calculi during early pregnancy. BJU Int. 1999;84(6):615-7. |
2) | Ohmori K, Matsuda T, Horii Y, et al. Effects of shock waves on the mouse fetus. J Urol. 1994; 151(1):255-8. |
3) | Tse GH, Qazi HA, Halsall AK, et al. Shockwave lithotripsy:arterial aneurysms and vascular complications. J Endourol. 2011;25(3):403-11. |
4) | Carey SW, Streem SB. Extracorporeal shock wave lithotripsy for patients with calcified ipsilateral renal arterial or abdominal aortic aneurysms. J Urol. 1992;148(1):18-20. |
5) | Skolarikos A, Alivizatos G, de la Rosette J. Extracorporeal shock wave lithotripsy 25 years later: complications and their prevention. Eur Urol. 2006;50(5):981-90. |
6) | Deliveliotis C, Giftopoulos A, Koutsokalis G, et al. The necessity of prophylactic antibiotics during extracorporeal shock wave lithotripsy. Int Urol Nephrol. 1997;29(5):517-21. |
7) | Pearle MS, Roehrborn CG. Antimicrobial prophylaxis prior to shock wave lithotripsy in patients with sterile urine before treatment:a meta-analysis and cost-effectiveness analysis. Urology. 1997;49(5):679-86. |
8) | Streem SB. Contemporary clinical practice of shock wave lithotripsy:a reevaluation of contraindications. J Urol. 1997;157(4):1197-203. |
9) | Kobayashi N, Yoshida K, Uchijima Y, et al. Extracorporeal shock wave lithotripsy on patients with spinal cord injury with special reference to autonomic hyperreflexia. Acta urologica Japonica. 1995;41(2):107-11. |