尿路結石症診療ガイドライン 2013年版
1
疫学
総論
日本における尿路結石症の全国疫学調査は,1965 年から約10 年ごとに過去4 回実施された1,2)。これらの調査法(hospital survey)を踏襲し,かつ個人データ集積を一層充実させた第5回尿路結石症全国疫学調査が,2005 年に日本尿路結石症学会が中心となって実施された。調査は日本泌尿器科学会教育認定施設1,236 施設,ESWL 実施施設70 施設に依頼した。その結果,実数調査では102,911 例が,個人調査では30,448 例が集計され,過去最大のデータ数となり,特に個人調査では前回調査の約3 倍の症例が集計された。これによって半世紀にわたる日本の尿路結石症の変遷を分析することが可能となった。
1結石存在部位と性差
上部尿路結石(腎結石,尿管結石)と下部尿路結石(膀胱結石,尿道結石)の比は近年ほぼ一定しており,上部尿路結石が全体の約96%を占める。また男女比は2.4:1 で,1965 年頃からほぼ一定であり,男性優位の疾患である。
2年間罹患率,有病率,生涯罹患率
2005 年の調査では,上部尿路結石の年間罹患率(2005 年1 年間に尿路結石に罹患した人の割合)は人口10 万人対134 人(男性:192 人,女性:79 人)で,1965 年の第1 回調査時と比較して約3 倍,第4 回調査時(1995 年)と比較しても約1.6 倍増加している(図1)。
生涯罹患率(年間罹患率×平均寿命×100)は男性では15.1%,女性では6.8%となり,男性では7 人に1 人が,女性では15 人に1 人が一生に一度は尿路結石に罹患することになる。
また有病率(2005 年1 年間に尿路結石を持っている人の割合)は,人口10 万人対429 人(男性:309 人,女性:120 人)で,初発結石患者と再発結石患者の比は1.7:1(男性1.6:1,女性2.0:1)と初発結石患者が多い。
この10年間で急激に上部尿路結石症が増加した要因として,①食生活や生活様式の欧米化が日本で定着したこと,②診断技術の向上(CT や超音波検査が広く行われるようになったことで,KUB では同定できない結石が発見された),③人口構成の高齢化などが考えられる3)。
生涯罹患率(年間罹患率×平均寿命×100)は男性では15.1%,女性では6.8%となり,男性では7 人に1 人が,女性では15 人に1 人が一生に一度は尿路結石に罹患することになる。
また有病率(2005 年1 年間に尿路結石を持っている人の割合)は,人口10 万人対429 人(男性:309 人,女性:120 人)で,初発結石患者と再発結石患者の比は1.7:1(男性1.6:1,女性2.0:1)と初発結石患者が多い。
この10年間で急激に上部尿路結石症が増加した要因として,①食生活や生活様式の欧米化が日本で定着したこと,②診断技術の向上(CT や超音波検査が広く行われるようになったことで,KUB では同定できない結石が発見された),③人口構成の高齢化などが考えられる3)。

3年齢別年間罹患率(図2)
過去の疫学調査を比較検討すると,男性好発年齢のピークは調査ごとに30 歳代から50 歳代へと順次移行していた。この年齢層は昭和1 桁から昭和10 年代前半に生まれた世代である。しかし1995 年の調査では30〜50 歳代に好発年齢のピークを認め,2005 年の調査では40 歳代に好発年齢のピークを認める正規分布に近い分布となった。
一方,女性の好発年齢は1965 年,1975 年の調査時には20 歳代にピークがあった。しかし1985 年以降の調査では50 歳代にピークがみられる。
一方,女性の好発年齢は1965 年,1975 年の調査時には20 歳代にピークがあった。しかし1985 年以降の調査では50 歳代にピークがみられる。

4結石分析(表1)
上部尿路結石成分は男女ともカルシウム(Ca)結石がその大半を占めることには変わりないが,調査ごとにその割合が増加し,今回の調査では男女とも90%を超えていた。一方,感染結石の割合が減少し,特に女性ではその傾向が顕著であった。食生活の欧米化の定着にともなった尿酸結石の増加が予想されたが,男性で約6%,女性で約2%と各年代による変化は見られなかった。
下部尿路結石は男性ではCa 結石が70%を占め,過去の調査よりその比率が増加していた。女性では感染結石が約半数を占め,次いでCa 結石が多く,この傾向は過去の調査結果と変化なかった。
下部尿路結石は男性ではCa 結石が70%を占め,過去の調査よりその比率が増加していた。女性では感染結石が約半数を占め,次いでCa 結石が多く,この傾向は過去の調査結果と変化なかった。

5個人調査から得られた結石患者の特徴
a)肥満と生活習慣病の関係
今回の調査では,個人調査として体重,身長を調査項目にあげ,結石患者の肥満度を調査した。また高血圧,糖尿病,高脂血症など生活習慣病の合併について調査した。
男性結石患者の40.3%に肥満〔BMI≧25%:body mass index=体重[kg]/身長[m]2〕がみられ,2004 年国民調査5)による日本人の肥満度と比べて結石患者の肥満率は高く,全年齢層で一般国民を凌駕していた(図3)。一方,女性結石患者では24.8%に肥満がみられた。2004 年の国民調査では日本人女性の肥満の割合は1994 年の調査に比して減少し20〜40 歳代で低体重(やせ)が増加しているが,それに比して女性結石患者の肥満率は高かった(図4)。
肥満と結石関連物質の尿中排泄量との関係は,男性患者では肥満患者で高尿酸尿症の頻度が明らかに高く,また高Ca 尿症や高シュウ酸尿症の頻度も高い傾向が認められた。逆に結石形成阻止物質であるクエン酸は,肥満でない結石患者のほうが低クエン酸尿症の頻度が高かった(図5)。肥満を肥満度Ⅰ-Ⅳ(Ⅰ:25≦BMI<30,Ⅱ:30≦BMI<35,Ⅲ:35≦BMI<40,Ⅳ:BMI≧40)に分け尿中排泄物質との関係をみると,クエン酸排泄量以外は肥満度が増すにつれて高Ca 尿症,高尿酸尿症,高シュウ酸尿症の頻度が増加した(図6)。一方,女性結石患者の肥満と結石形成に関連した尿中諸物質排泄量との間には関連はみられなかった。なお,これら尿中諸物質排泄量の多寡の判定は特に基準値を設けず,主治医の判定に依った。
生活習慣病である高血圧,糖尿病,高脂血症の合併頻度は,それぞれ21.7%,9.8%,14.1%と高血圧の合併が最も高かったが,これら3疾患とも肥満患者で明らかに合併率が高かった(図7)。またメタボリックシンドローム(MS)の診断基準である腹囲(男性85 cm 以上,女性90cm 以上)の代わりにBMI≧25%を用いてMS の頻度をみると,肥満症例(n=3,632)中10.4%(男性10.2%,女性10.8%)にMS が認められた。
今回の個人調査では再発予防法について調査した。指導内容には言及しなかったが,結石患者の63%に何らかの形で食事指導が行われていた。薬物療法では,クエン酸塩(5.6%)の使用頻度が最も高く,アロプリノール(3.6%),サイアザイド系利尿剤(0.4%),マグネシウム製剤(0.2%)の順であった。





b)遺伝的素因
今回の調査では二親等以内に結石患者がいる(いた)頻度(家族歴)を調査した。4,958 症例中753 例(14.8%)に家族歴がみられた。
家族歴の有無で結石の初発年齢を比較すると,家族歴のある患者では家族歴のない患者と比べて20 歳若かった(図8)。また家族歴の有無で再発率を比較すると,家族歴のある患者のほうが有意に再発の多いことが明らかとなった(図9)。一方,性別で家族歴の頻度を比較すると,女性患者のほうが男性患者より家族歴のある症例が多かった(図10)。



6治療
今回の調査結果はESWL が普及した1995 年以降とほとんど変化なく,ESWL(TUL やPNLの併用を含む)が侵襲的治療の90%以上を占める。逆に自然排石または経過観察された症例は全体の約60%と,1995 年の調査と差を認めない(図11)。

参考文献 |
1) | Yoshida O, Terai A, Ohkawa T, et al. National trend of the incidence of urolithiasis in Japan from 1965 to 1995. Kidney Int. 1999;56:1899-904. |
2) | Terai A, Yoshida O. Epidemiology of urolithiasis in Japan, in Akimoto M, Higashihara E, Orikasa S, et al(Eds):Recent Advances in Endourology. Tokyo, Springer-Verlag;2001, vol. 3, pp 23- 36. |
3) | Yasui T, Iguchi M, Suzuki S, et al. Prevalence and epidemiological characteristics of urolithiasis in Japan:national trends between 1965 and 2005. Urology. 2008;71:209-13. |
4) | Yasui T, Iguchi M, Suzuki S, et al. Prevalence and epidemiologic characteristics of lower urinary tract stones in Japan. Urology. 2008;72:1001-5. |
5) | 健康・栄養情報研究会編:国民健康・栄養調査報告.p.36,第一出版,2006. |
6) | 井口正典,安井孝周,郡健二郎.尿路結石の病態から見た再発予防法:疫学から再発予防を考え る.泌尿器外科.2008;21:655-661. |
7) | 井口正典,安井孝周,郡健二郎.全国疫学調査からみた尿路結石症.臨床検査.2012;56:243-9. |