(旧版)科学的根拠(Evidence Based Medicine;EBM)に基づいた腰痛診療のガイドラインの策定に関する研究
第9章 職業性腰痛
III.職場復帰について
1.職場復帰までの期間
補償を受けている腰痛による休業者305人の職場復帰率は112日後では50%が未復帰、270日後では11.3%が未復帰であった17)。
腰痛により休業している55人の追跡調査では12.7%が1ヵ月以内で、40%が2ヵ月以内で、54.5%が3ヵ月以内、そして76.3%が6ヵ月以内に職場復帰した18)。
労災による腰痛の休業者を欧州の6ヵ国で比較すると、1年以内の作業再開の頻度は、デンマークの32%からオランダの73%まで差がみられた19)。
17) | Infante-Rivard C: Occupational & Environmental Medicine 53(7):488-94, 1996 |
18) | Lehmann TR : Spine 18(8):1103-12, 1993 |
19) | Hansson TH : Spine VOL.25 NO.23 PAGE.3055-64 2000 |
2.腰痛の評価
Vermont Disability Prediction Questionnaireは、要点的で、容易に管理され、慢性身体障害に対する相対危険度について腰痛の労働者を同定するための得点化する手段である20)。
Waddell behavioral sign scoresが職場復帰の身体的な更正計画において、慢性腰部疼痛患者を治療する効果を予測することを示唆する21)。
20) | Hazard RG: Spine. 21(8):945-51, 1996 |
21) | Werneke MW: Spine 18(16):2412-8, 1993 |
3.職場復帰を遷延させる因子
(1)腰痛の要因
腰痛のタイプが性や年齢に比べて職場復帰に影響を持つことを示した。 非特異性の腰痛の予後は、器質性ものより職場復帰が早い22)。
背部痛の質に関連する23)。
22) | Shinohara S : Tohoku Journal of Experimental Medicine 186(4):291-302, 1998 |
23) | Hadler NM : Spine. 20(24):2710-5, 1995 |
(2)心理的要因
仕事に対する満足は慢性疼痛や身体障害が遺残が少なく、逆に仕事に対する不満は慢性腰痛の危険度を高める可能性が指摘される24)。
もとの仕事への認識と治療開始後の職場復帰間での期間に関連が存在する25)。
補償(特に請求総額)、心理学的障害、欠勤日数、年齢が職場復帰における重要な因子である26)。
24) | Williams RA : Archives of Physical Medicine & Rehabilitation 79(4):366-74, 1998 |
25) | Fishbain DA : Clinical Journal of Pain 13(3):197-206, 1997 Sep. |
26) | Greenough CG : Acta Orthopaedica Scandinavica. Supplementum 254:1-34, 1993. |
(3)社会的要因
腰痛補償は好況の期間に増加し、不況の期間に減少する結果を示しており、不況の期間に増加するという傾向は認められない27)。
既婚患者が独身の患者(P < 0.01)より早期に職場復帰した18)。
慢性疼痛は無視できないので,心理社会的な動機が職場復帰を不可能にすることに確実に役割を果たしている28)。
27) | Brooker AS : Social Science & Medicine 45(3):429-39, 1997 Aug |
18) | Lehmann TR: Spine 18(8):1103-12, 1993 Jun 15. |
28) | Berger E : Surg Neurol VOL.54 NO.2 PAGE.101-6; discussion 106-8 2000 |
(4)総合的要因
職場復帰を遷延させる要因としては、放散痛の有無、機能性身体障害の程度、早い作業テンポと作業量、同僚との人間関係などが指摘されている29)。
職場復帰には身体障害の遷延、認識、痛みの性質や精神的重圧などの要因が関与している30)。
職場復帰に関するオッズ比は放散痛のある20歳台の労働者は30歳以上に比べRR=1.43、捻挫または疼痛は椎間板障害に比べてRR=2.20、 治療開始まで30日以下は以降に比べてRR=1.30、ベースラインでの腰椎の屈曲が正常であるものはRR=1.52、神経学的所見が正常であるものはRR=1.40、勤務歴が2年以上であるものはRR=1.49、公共の産業に勤務は個人企業に比べてRR=1.63 17)
更正計画カウンセリングの参加者の分析では職場復帰の期待値が低いものは、高度な身体障害、疼痛の強いもの、若く、失業期間が長いものなどがあげられる31)。
休業している腰痛患者を職場復帰させるための有効な治療や衛生手段はない19)。
29) | von der Weide WE : Scandinavian Journal of Work, Environment & Health 25(1):50-6, 1999 |
30) | Ohlund C : Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports 6(2):98-111, 1996 |
17) | Rivard C: Occupational & Environmental Medicine 53(7):488-94, 1996 |
31) | Carosella AM : Pain. 57(1):69-76, 1994 |
19) | Hansson TH : Spine VOL.25 NO.23 PAGE.3055-64, 2000 |
(5)介入手段
損傷後運動をやめた労働者では、やめなかったものに比べて、かなり長く職場復帰が遷延した。最初の損傷の重症度を補正してさえ、この傾向は存続した32)。
活動性の維持につとめる介入方法は、従来の治療法に比べ職場復帰を促進する効果を示した33)。
32) | Butterfield PG : American Journal of Industrial Medicine 34(6):559-67, 1998 |
33) | Hagen EM : Spine VOL.25 NO.15 PAGE.1973-6 2000 |