(旧版)科学的根拠(Evidence Based Medicine;EBM)に基づいた腰痛診療のガイドラインの策定に関する研究
第9章 職業性腰痛
日本医科大学整形外科
宮本雅史 伊藤博元
宮本雅史 伊藤博元
I.文献検索の結果について
職業性腰痛について文献検索を行ない、科学的根拠を検索した。論文検索のデータベースはMedlineと医学中央雑誌を用い、1990〜2000年の英語論文と日本語論文とした。 日本語論文の検索式はキーワードを腰痛と職業または労働とした。 英語論文の検索式は腰痛のキーワードをLow Back Painとし、職業のキーワードをOccupationまたはWorkまたはJobまたはLaborとした。 この1次検索の結果として英語論文453、日本語論文94の合計547論文がヒットした。 さらに内容が職業性腰痛に関する論文とするには不適当である271論文、および抄録やレターなどの26論文を除いて250論文を抽出した。 この250論文を年度別にみると年々職業性腰痛に関連する論文は増加しており、前半5年の56件に比べて後半6年では198件であった。
次に論文を研究のデザインにより分類するとランダム化比較試験3論文、非ランダム化比較試験2論文、コホート・症例対照研究29論文、時系列研究・非対照実験研究99論文、権威者の意見・記述疫学117論文であった。 権威者の意見・記述疫学が最も多く、内容は原著論文が41件、総説が76件であった。ここではエビデンス論文集の候補としてI〜II-3に該当する133論を採用した。採用された113論文の内容についてみると、職種を特定しない職業性腰痛の発症や予後に影響を及ぼす因子の検討に関するものが69論文であった。 特定な職業に関するものは59論文であり、介護労働者・看護婦を対象としたものが18、その他では工場作業:13、建設作業:4、車両運転手:4、兵隊:2、農業:2、きこり:2、警察官:2、郵便局員:2、事務員:2、その他:8であった。
また基礎的研究が8論文あり、作業中の腰部への負荷を生体工学的に検討したものであった。 腰痛の診断や評価に関する研究は8論文あり、腰痛と画像所見との関連については4件、腰痛や機能障害の評価法の検討に関するものが4件みられた。 治療に関するものは18論文、理学療法の効果を検討したものが7件、back schoolが6件、腰痛ベルトが3件、 TENSが2件であった。 その他としては慢性腰痛の予後と補償との関連について検討したものが10論文、社会心理的要因との関連について検討したものが7論文であった。
以上からリサーチクエスチョンを職業性腰痛の頻度、および職業性腰痛のリスクファクターとして、看護婦、建設労働者、車両運転手および工場労務者について具体的に論文をまとめました。 また別のリサーチクエスチョンとして職業性腰痛からの職場復帰を取り上げ、職場復帰間での期間、腰痛の評価方法および職場復帰を遷延させる因子についてまとめた。