(旧版)科学的根拠(Evidence Based Medicine;EBM)に基づいた腰痛診療のガイドラインの策定に関する研究
第8章 腰痛症患者に対する教育の効果
考 察
本研究のリサーチクエスチョンは「腰痛症患者に教育的アプローチは有効か」というものであった。 MEDLINEおよび医中誌を用いた文献検索では、強いエビデンスを有する報告が見出された反面、これに否定的な報告も散見された。 これらの報告を正しく解釈し、EBMの一環として公にするにはいくつかの問題点も残される。 以下に、問題点を統括し、最後にリサーチクエスチョンに対する回答を述べる。
1. 腰痛(Low back pain)の定義
報告全体を通じて、一般的な退行性腰椎疾患を対象としており、急性期、亜急性期、慢性期の区別はなされていた。 しかし、厳密な区別とは言い難かった。また、神経症状の有無に関しては触れられていない報告もあった。発症からの期間が定義され、神経症状の有無が記載されたとしても、腰痛の詳細な原因は症例により様々である。 各報告を解釈するためには、注意が必要である。
2. アウトカムメジャー(効果指標)
測定されたアウトカムメジャーは、大きく分けて次のように分類され、それぞれ項目別の評価法を用いて評価されている。
1) | 疼痛;その有無・強度・持続期間、腰痛の再発の有無・回数、VAS |
2) | 鎮痛剤;使用の有無、回数 |
3) | 通院の回数 |
4) | 職場復帰(return to work);その有無、復帰までの期間 |
5) | 休業期間(sick leave) |
6) | 機能障害(disability);Roland-Morris,Oswestry |
7) | 生理学的身体機能評価;脊柱柔軟性(FFD, SLR)、体幹筋力・筋持久力 |
8) | 腰痛体操;実施率・回数 |
9) | 指導内容の正確性・把握度 |
10) | 治療の満足度 |
11) | 心理評価 |
12) | その他 |
いずれの評価法を採用するかによって、成績も当然異なってくる。 注意深い解釈が必要となる。
3. 「腰痛学級」の定義
一口に腰痛学級と言っても、その形態や運営方法は千差万別である。 セラピストが主体となって、主に腰痛に対する知識やボデイメカニクスだけを短時間で教えるものから、医師が主体となり、腰痛の講義は勿論、腰痛体操を懇切丁寧に指導するものまで様々である。 また、医師の参加の面でも精神科医など他の専門医が参加する学級もある。その他、脊柱の柔軟性や体幹筋力・筋持久力などの身体機能を測定し、腰痛学級による治療効果判定に採用しているものもある。 従って、学級の種類によっては、運動療法や心理療法を併用する結果になることも多い。 この点も結果の解析の際に注意が必要である。
4. リサーチクエスチョンに対する回答
本研究の結果、統括的な見解として、腰痛症に対して教育的アプローチは有効であると言える。 しかし、前述した様にアウトカムメジャーには様々な種類があり、全てに及んで有効という訳では無い。 その治療効果に関しては、幅広い観点からの解析が必要である。 一方、急性期腰痛に対しては、その効果は未だ議論の残るところである。 また、腰痛の再発と言う観点から、教育的アプローチの有効性に関しては議論が残る。