(旧版)科学的根拠(Evidence Based Medicine;EBM)に基づいた腰痛診療のガイドラインの策定に関する研究
C. 研究結果
それぞれの章ごとに結果がまとめられ後述されているのでここでは概略のみ述べる。
急性腰痛の診療に関する論文は画像診断を除くと47編で、ランダム化比較試験が12編であった。 腰痛の診療において最も重要なのは骨折、腫瘍、感染、馬尾症候群など潜んでいる重大な疾病を診断することである。
画像診断法は腰痛の原因を探る上で重要な役割を担っており、正確な診断を得るためには種々の画像診断所見を総合的に考えることが必要な場合もある。 単純X線所見で腰痛と関連のある所見は、椎間板の狭小化、椎体すべり、異常腰椎後弯、Lumbosacral transitional vertebra および椎体終板の骨化である。 MRIは椎間板ヘルニアの有無や椎間板変性の有無を知るためのスクリーニング検査として有用であるが、false positiveに留意する必要がある。
薬物療法では現在我が国において腰痛治療に用いられている内服薬に関する39編を採用した。 1971〜1980年19編 (49%)、1981〜1990年15編 (38%)、1991〜2000年5編 (13%)であった。多くの論文で対照薬を選定し、二重盲検法による評価を行っていた。 対照薬とされた薬剤はインドメタシン、イブプロフェン、ジクロフェナクナトリウムが多数をしめた。 今回の検討の結果、勧告の強さは全ての薬剤がグレードB(行うよう勧められる)と判定されたが、対照薬の種類により、グレードBのなかでも勧告の強さには相違がみられた。
物理療法に関する論文はMEDLINEから19編のRCTが抽出された。 腰椎牽引と他の治療法とを比較したMeta-analysis論文は14編であった。 腰椎牽引の有効性については急性腰痛に対しては5編中1編、慢性腰痛に対しては3編中2編が有効だったが、腰椎椎間板ヘルニアに対しては4編中4編が無効であった。 TENSはPlaceboとの比較においてVASの改善が良好であったが、効果の実証はされなかった。 鍼治療については効果的とする文献はなかった。
慢性腰痛症に対する運動療法については対照治療と比較すると、有意に優れていた結論が得られた研究は、有意な効果を認めなかった研究に比して報告数が多かった。 しかし運動療法で効果を認めた報告においても、アウトカム指標のすべてにおいて効果を認めている訳ではなく、指標の一部でのみ効果を認めた場合も有効とした。 慢性腰痛症の治療としての運動療法は行うよう勧められると判断した。
手術療法については椎間板内ステロイド注入療法、椎間板内温熱療法を含めた手術療法に関する文献を検索したが、腰痛のみを治療対象とした文献はなく、腰痛症に対して手術治療を勧める論文はなかった。
教育的アプローチについては、統括的な見解としては腰痛症に対して有効であると言える。 しかし、アウトカム指標の全てに及んで有効という訳では無い。その治療効果に関しては、幅広い観点からの解析が必要である。 一方、急性期腰痛に対しては、その効果は未だ議論の残るところである。 また、腰痛の再発と言う観点から、教育的アプローチの有効性に関しては議論が残る。