(旧版)科学的根拠に基づく急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドライン

 
 
第XIII章 特殊な胆道炎


8. 原発性硬化性胆管炎
Q127. 急性胆管炎と原発性硬化性胆管炎(PSC)の鑑別は?

原発性硬化性胆管炎の診断には直接胆道造影が最も有用であり,典型像が得られれば急性細菌性胆管炎との鑑別は容易である。原発性硬化性胆管炎症例に発熱がみられた場合は,細菌性胆管炎の併発を念頭におくべきである。

原発性硬化性胆管炎(PSC:primary sclerosing cholangitis)は,肝内および肝外の胆管壁の進行性,非特異的炎症により胆管狭窄が生じる慢性炎症性疾患で,自己免疫がその発症に関与すると考えられている。 胆管の狭窄および閉塞によって閉塞性黄疸をきたし,最終的には二次性胆汁性肝硬変から肝不全に陥る。
成因はいまだ明確にはされておらず,HLA DR3,DR2が発症に関与するという報告や,細菌・ウィルス(免疫不全に伴う),肝動脈閉塞や化学療法後障害が挙げられている。
発生頻度・予後について,Takikawa H, らは2003年に本邦のPSC388例を集計している(レベル4)1)。 彼らの報告によると,本邦のPSCの年齢分布は,20歳台および50〜60歳台の二峰性を示すこと,若年層では炎症性腸疾患の合併が多くみられ,高齢者では自己免疫性膵炎の合併例が多いという点が特徴的であるという。 また潰瘍性大腸炎との合併は37%,自己免疫性膵炎7.2%,胆石16%,胆道癌4.3%と報告されている。
PSCの臨床症状としては黄疸(44%),全身掻痒感(27%),腹痛(18%),発熱(10%),全身倦怠感(4%),などが上げられる。 長期の経過中に逆行性の細菌性胆管炎を併発することがある2)。発熱時に胆汁中の細菌検査を行い細菌性胆管炎を証明した論文はみられないため,発熱が直接細菌性胆管炎の併発を意味するかは明らかではないが,PSCに発熱がみられた場合は細菌性胆管炎の併発を考慮すべきである。 Olssonらによれば,発熱はPSCの15%の症例において認められ,特に胆管病変が肝内胆管に限局する症例では高率(50%)であった3)

1)診断
PSCの診断にあたっては胆管結石,胆道手術後胆管炎,胆道腫瘍などによる二次性硬化性胆管炎を除外し,以下の,LaRussoらの診断基準を用いることが多い。

1 血清アルカリフォスファターゼ値が正常の2倍以上上昇。
  (但し,本邦では2倍未満の症例が35%を占める)
2 肝内および肝外胆管のびまん性狭窄あるいは数珠状変化。
3 胆管の繊維化,閉塞性胆管炎所見,胆管の消失などの組織学的所見。
4 胆嚢摘出術以外の胆道系手術の既往がなく胆管結石が存在しない。

1993年Mayo Clinicの同グループが提示した診断基準では胆道造影所見(beaded appearance, band like stricture, diverticulum-like outpouching)が最重視されており,肝生検のみでPSCと診断することは困難であるとしている。 一方,本邦では78%の症例で肝生検が行われている(レベル4)1)。 診断において注意すべき点として,胆管癌との合併あるいは鑑別があげられる。 PSCの死亡例の検討では,7.1%(5/71)が胆管癌を合併していたという報告もあるため,非典型的な胆管狭窄像を示す場合は,PTCSによる生検での病理組織学的な診断を行うべきである(レベル4)4)

(1)血液検査所見
血清アルカリフォスファターゼ値の上昇やビリルビン値の上昇,白血球数増加などは急性胆管炎と共通する。 好酸球増加(27%),自己抗体陽性(30%),尿中銅,血清セルロプラスミン値の上昇,また好中球の細胞質に対する抗体(ANCA:anti-neutrophil cytoplasmic antibody)が検出されるという報告もあり,これらが陽性であれば急性胆管炎との鑑別に役立つ。 本邦では諸外国と比較し,自己抗体の陽性率が高い。

(2)病理組織学的検査
肝生検では,繊維性閉塞性胆管炎の所見が45%に認められた。

(3)画像診断
確定診断には直接胆道造影が必要とされている。 肝内・肝外の両方に病変を認める症例が69%,肝外のみは14%,肝内のみは17%であった。 典型的な造影所見はbeaded appearance,band like stricture,diverticulum-like outpouchingである。 高度狭窄を示す場合やびまん性狭窄は予後不良の指標となるとされている(レベル4)5)

2)治療
一般に薬物療法として,ウルソデオキシコール酸(UDCA)と副腎皮質ステロイドが投与されている。 免疫抑制剤が使用されることもあるが,本邦での使用例は少ない。 その他コレスチラミン,D-ペニシラミンの著効例の報告もあるが,多くの症例では根治は困難である。
欧米では進行例には積極的に肝移植が行われており,35%が肝移植を受けている。 移植後の5年生存率は70%と比較的良好であるが,移植後のPSCの再発という問題もある。 肝移植時期の決定にはMayo Clinicのグループが中心となり426例という多数のPSC症例を集計し,survival modelを作成し移植時期のscoreを報告している6)

 

 
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