(旧版)科学的根拠に基づく急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドライン

 
 
第XIII章 特殊な胆道炎


6. 術後胆道炎
Q125. 手術後に胆道炎は隠れていないか?

胆道手術後,上腹部手術後,肝,胆道に対する処置や術後には胆嚢炎,胆管炎が隠れていることがあり,致死的となることもあるため注意が必要である。術後は種々の原因により熱発するが,胆道炎による熱発症状である可能性も念頭に置くべきである。

1)胆道手術後
(1)EST,EPBD(endoscopic papillary balloon dilatation)後
ESTに関しては急性胆管炎ドレナージ「第VII章/Q58.内視鏡的ドレナージの方法は?,第VIII章/3./2)EST」参照。
有胆石症例では胆管結石除去の前後に胆嚢摘出を行っていることが多いため,EPBD後の有胆嚢結石症例を手術なしで長期観察を行ったという論文は少ない。 ESTとEPBDを比較した無作為化比較対照試験(RCT)が報告されており,EST後が9.9%であるのに対してEPBD後は1.3%と有意差をもって胆嚢炎の発症率はEPBDの方が低い(レベル4)1)。 これはファーター乳頭機能がEPBDでは温存されるが,ESTでは逆行性の感染を引き起こすためである。 しかし,EPBD後に胆石が落下する可能性と,有胆石症例の有症状化率との比較検討はなされておらず,EPBD後の有石胆嚢の胆嚢摘出術の是非については今後の症例の集積が必要である。

(2)乳頭形成術後
乳頭形成術はESTが広く普及した現在ほとんど行われなくなっている。 胆管炎の発生頻度は5.9%程度との報告がある(レベル4)2)

(3)胆管空腸端側吻合
術後の胆管炎は膵頭十二指腸切除術の場合9.2〜33%に発生するといわれており(レベル4)3,4),胆道系手術の1.1%に再手術が必要である(4,737例中54例)(レベル4)5)。 一般に胆管炎の発生原因としては胆管空腸吻合部の狭窄に伴う胆汁の流出障害と逆行性(上行性)のものが原因と考えられている。
a. 胆管空腸吻合部狭窄
  胆管空腸吻合部狭窄は7〜23%と報告されており(レベル4)6,7),術後胆管炎の原因として頻度は高い。悪性腫瘍の再発による狭窄を加えると頻度はもっと高くなる。
b. 輸入脚症候群(afferent loop syndrome)
  輸入脚が作られた状態で輸入脚が何らかの原因で閉塞することにより引き起こされる輸入脚症候群は重篤な状態になることがあり注意を要する。 輸入脚症候群は直接消化管造影にて輸入脚の拡張とその肛側の狭窄を証明するか,超音波・CTにて診断されていた。 しかし,狭窄が高度の場合直接造影は困難であり,最近ではMRCPが有用である(レベル4)8)
c. その他,逆行性胆管炎など
  胆道処置,術後に発熱もしくは腹痛があり,AST,ALT,胆道系酵素や炎症反応の上昇があると逆行性胆管炎と診断されることが多く,さらに胆道気腫像やCTにおける胆管壁の造影効果が診断の補助として用いられることもあるが,いずれも特異的な徴候,検査所見は存在しない。 まして逆行性胆管炎は処置や術後のものに多いため確定診断が付かずに見逃されているものも相当数あると考えられる。 また胆管炎の診断基準も明確でないことが問題を複雑にしている。
(4)胆管空腸側側吻合
上記の問題点以外に,この術式では残存下部胆管に食物や胆泥などが貯留することにより引き起こされる胆管炎が存在(Sump syndrome)することに注意を要する(レベル4)9)

(5)胆管十二指腸端側吻合
胆管十二指腸吻合と胆管空腸吻合では無作為化比較対照試験(RCT)にて周術期死亡率,全合併症頻度そして術後胆管炎の発生に有意差は無いと報告されている(レベル4)10)

(6)胆管十二指腸側側吻合
この術式ではSump syndromeが生じることに注意を要する。

2)胆道以外の手術後
胆道以外の手術における胆嚢炎の発生率は0.1〜13%と幅があるが原疾患や手術術式により異なる。 無石胆嚢炎の頻度が高く注意を要する。 (無石胆嚢炎の項「第XIII章/3.無石胆嚢炎」参照)TAE(transcatheter arterial embolization)やRFA(radiofrequency ablation),凍結療法などの後には胆管炎や胆嚢炎が発症することが報告されている(レベル4)11,12)。 これらの処置による直接の障害かどうかの判断は困難である。 凍結療法の158例中12例に腹腔内感染症(肝膿瘍,腹腔内膿瘍,挿入器具感染)が生じ,うち2例が胆管炎であったとの報告がある(レベル4)12)
胃切除術後急性胆嚢炎は胆嚢内胆汁うっ滞(リンパ節郭清に伴う迷走神経切離による胆嚢収縮運動の低下の影響),胆嚢壁の血行障害,細菌感染などが原因として考えられており,胃癌症例 190 例中 24 例(12.6%)に発生し, 中でもAppleby手術後では37例中10例 (27.0%) と高率に発症したとの報告がある (レベル4)13)

 

 
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