(旧版)科学的根拠に基づく急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドライン

 
 
第VI章 急性胆管炎 -基本的治療-


2. 細菌学的検索と抗菌薬
Q55. 急性胆管炎において推奨される抗菌薬の選択基準は?

初期の重症度に応じた抗菌薬投与を行う。(推奨度A) 経過中の細菌検査情報に基づき,より適切な抗菌薬への変更を検討する。(推奨度B)

急性胆管炎において推奨される抗菌薬の選択例を示す39,60)。 ただしこれは起炎菌が同定されていない初期治療における選択例である。 それぞれの抗菌薬の薬理動態を考慮して,投与量(濃度依存性の抗菌薬:ニューキノロン系等)や投与回数を増やす(時間依存性:セフェム系等)ことが有効であるという考え方もある39,61)。 いずれの場合も無効例は,抗菌薬の変更を考慮し,血液培養・胆汁培養で起炎菌,およびその抗菌薬への感受性が同定された場合,それに応じてよりスペクトルが狭く,かつ胆道移行性の良好な抗菌薬へ変更すべきである。
以下に提示した抗菌薬使用例は,検索し得たエビデンス(臨床上の有用性,良好な胆汁移行性)・抗菌力・保険適応・薬価を基準として選択した。 ただし,今回の検討では,前述したように本邦の医療現場において現在使用可能な抗菌薬の中から推奨薬を選択する際の根拠となり得る高いレベルの臨床研究(RCT)は検索されなかった。 これら抗菌薬の胆管炎に対する臨床上の有効性は,主として症例集積研究により示されているものであることに留意すべきである。

表4 胆管炎における抗菌薬の臨床比較試験
報告者(年) 疾患名 投与抗菌薬 臨床的治癒 有意差 
 Muller(1987)35)  胆管炎  ABPC+TOB  85%(17/20)  
   PIPC  60%(9/15) ns
   CPZ  56%(10/18) p<0.05
 Gerecht(1989)34)  胆管炎  Mezocillin  83%(20/24) p<0.01
     ABPC+GM  41%(9/22)  
 Thompson(1990)36)  胆管炎  PIPC  70% ns
     ABPC+TOB  69%  
 Chacon(1990)57)  胆嚢炎+胆管炎  pefloxacin  98%(49/50)  ns
     ABPC+GM  95.7%(45/47)  
 Thompson(1993)37)  胆嚢炎+胆管炎  CPM  97.5%(78/80)  ns
     Mezlocillin+GM  100%(40/40)  
 Sung(1995)38)  胆管炎  CPFX  85%(39/46)  ns
     CAZ+ABPC+MN  77%(34/44)  


[重症度別にみた抗菌薬使用例]

軽症例
大腸菌などの腸内細菌の単一菌感染が原因であることが多く,以下の抗菌薬を単剤投与する。 起炎菌が同定されない状態で使用されることが多いため,予想される菌に広く感受性を持つ抗菌薬を使用することを原則とする61)

[使用例]
経口ニューキノロン系薬
  レボフロキサシン(クラビット®
  シプロフロキサシン(シプロキサン®
経口セフェム系薬
  セフォチアムヘキセチル(パンスポリンT®
  セフカベンピボキシル(フロモックス®
第一世代セフェム系薬
  セファゾリン(セファメジン®
広域ペニシリン系薬
  アンピシリン(ビクシリン®
  ピペラシリン(ペントシリン®

ペニシリン系薬やセファゾリンは腸内細菌に対し耐性が生じてやすく(レベル5)62),β-ラクタマーゼ阻害剤との合剤であるタゾバクタム/ピペラシリン(タゾシン®63) やアンピシリン/スルバクタム(ユナシン-S®)の使用も推奨される。 タゾバクタム/ピペラシリンは胆汁移行性も良好である43)。 ただし,セフォチアムヘキセチル,タゾシン・ユナシン-Sのいずれも胆管炎に対しての保険適応がない。
また,腹痛が比較的軽度で,発熱などの炎症所見や血液検査に乏しいような軽症胆管炎症例では,上記のような経口抗菌薬を投与する場合もある。 この場合も注射薬同様漫然と長期間投与することは避け,定期的に抗菌薬の効果を検定する。 使用した抗菌薬が無効であれば変更する。

中等症,重症例(「第V章/Q24.急性胆管炎の重症度の定義と重症度判定基準は?」参照)
中等症例は,第1選択として,上記広域ペニシリン系薬や第2世代セフェム系薬が推奨される。 ただし,急激に重症化することもあるため,適宜,重症度判定とともに抗菌薬の効果判定を行うことが重要である。 重症化傾向を認める場合は,起炎菌の感受性結果や複合感染の有無を検討し,重症例同様の下記のごとき抗菌薬投与法も考慮する。
重症例は複合菌・耐性菌感染の可能性が高く(レベル2b〜3b)9,24,25),第1選択として,幅広い抗菌スペクトルを持つ第三,四世代セフェムが推奨される。 第1選択薬が無効の場合は第2選択としてニューキノロン系薬,カルバペネム系薬が,グラム陰性菌が検出された場合はモノバクタム系薬が選択される。 しかしカルバペネム系薬以外の抗菌薬は,単独では嫌気性菌に対する抗菌力はほとんど期待できず,嫌気性菌にスペクトルを有するクリンダマイシンの併用が推奨される。 一方,セフォペラゾン/スルバクタムや,メロペネムやイミペネム/シラスタチンなどのカルバペネム系薬は嫌気性菌に対する抗菌力も有しており,単独投与が可能である。
第三,四世代セフェム系薬やカルバペネム系薬の頻用は耐性菌の発生を招くリスクが高いことに注意し,長期にわたり漫然と投与することは避けるべきである。
なお,中等症・重症の胆管炎では早急に胆道ドレナージが必要である(「第VI章/Q43.急性胆管炎における基本的診療方針は?」参照)。

[使用例]
中等症第1選択薬
  第二世代セフェム系薬
    セフメタゾール(セフメタゾン®
    フロモキセフ(フルマリン®
    セフォチアムヘキセチル(パンスポリン®
重症第1選択薬
  第三,四世代セフェム系薬
    セフォペラゾン/スルバクタム(スルペラゾン®
    セフトリアキソン(ロセフィン®
    セフタジジム(モダシン®
    セフォゾプラン(ファーストシン®
    セフピロム(ブロアクト®
  グラム陰性菌が検出された場合
    モノバクタム系薬
      アズトレオナム(アザクタム®
重症第2選択薬
  ニューキノロン系薬
    シプロフロキサシン(シプロキサン®
    パズフロキサシン(パシル®
    嫌気性菌が検出あるいは併存が予想される場合
      上記のうち一剤+クリンダマイシン(ダラシン-S®
  カルバペネム系薬
    メロペネム(メロペン®
    イミペネム/シラスタチン(チエナム®

なおアミノグリコシド系薬は,胆管炎の主たる起炎菌であるグラム陰性桿菌に対して強い抗菌力を有するため,上記(表4)のRCTにおいてペニシリン系薬との併用という形で標準的治療として使用されていた。 近年開発され現在使用されている第三,四世代セフェム系薬やカルバペネム系薬とペニシリン系薬+アミノグリコシド系薬の併用投与の治療効果を比較検討したRCTは存在しないため,根拠に基づいて推奨薬を提示することは容易ではない。 しかしアミノグリコシド系薬の胆汁移行性は極めて不良であり64),単剤では胆管炎に対して無効である。 加えて,閉塞性黄疸が存在する場合にはアミノグリコシド系薬の腎毒性が増強される懸念もある65)。コンセンサス会議にて検討の結果,かつてはアミノグリコシドが胆道炎の標準治療とされていたが,現在では同等の有効性を持ち,かつ副作用が少ない抗菌薬があるために,本ガイドラインではアミノグリコシド系薬の使用は推奨しない。
また,胆管閉塞があり胆汁の腸肝循環が阻害されている場合,第三,四世代セフェム系薬などの強力な抗菌薬を投与すると,腸内細菌の菌交代現象・ビタミンK吸収障害が生じ,出血傾向をきたすことがあることに注意し,必要ならばビタミンKを経静脈投与する66,67)

 

 
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