(旧版)科学的根拠に基づく急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドライン
第III章 定義・病態と疫学
2. 成因,発生頻度
Q6. 無症状あるいは軽症状の胆石症患者が急性胆嚢炎を発症するリスクは?
1年間に無症状患者の1〜2%,軽症状を有する患者の1〜3%が,重篤な症状,あるいは合併症(急性胆嚢炎・急性胆管炎・高度黄疸・膵炎など)を発症する。
急性胆嚢炎は,胆石症の最も頻度が高い合併症である。(レベル4)
急性胆嚢炎は,胆石症の合併症の中で最も頻度が高い。 日本人の胆石保有率を厚生省(当時)医療統計局の国民生活基礎調査から推定すると,1979年には390万人であったのが年々増加し,1993年には1,000万人を超えた(レベル4)46)。 この増加の原因として,超音波などの検査法の発達や人間ドックや集団検診の普及により,偶然発見される胆石症が増加したことが主要因と考えられる(レベル5)47)。日本人における剖検や集団検診で発見される無症候性胆石症の頻度は,対象人口や診断法により異なるが,2.6%〜18.9%である(レベル4)48)。剖検例では,胆石保有率は2.4%,高齢者で5%を越えるが,その半数は無症状である(レベル4)49)。 無症候性胆石症の有症状化率は,報告により異なるものの,15.5〜51%である(レベル4)50)。しかし無症候性胆石症の患者と,胆石を持たない対照人口では,胆石症に一般的な胸焼けや上腹部痛などの症状の発現率に差がない(レベル2b)51)。
胆石症の自然経過を検討したFriedmanのレビューによると,1年間に無症状患者の1〜2%,軽症状を有する患者の1〜3%に,重篤な症状あるいは合併症(急性胆嚢炎・急性胆管炎・高度黄疸・膵炎など)の発症を認め,その危険性は胆石が発見されてから最初の数年に高く,その後減少する(レベル2c)。 最初に中程度の症状を有する患者がその後重篤な症状を呈して手術を受ける確率は年間6〜8%であり,その確率は経年的に減少する(レベル2c)52)。
症状が軽度あるいは非特異的な症状を有する胆石症患者(n=153)では,15%(23人)が追跡中に急性的な胆石合併症を発症し,12%(18人)に急性胆嚢炎の発生を認めている(レベル4)53)。 無症状胆石症を追跡した報告(n=600)では,16%(96例)が観察経過中に何らかの症状を発現し(症状発現までの平均観察期間29.8ヶ月),3.8%(23例)が急性胆嚢炎を発症している。 無症候性胆石の有症状化率は最初の1〜3年が最も高く(15%〜26%),その後は低下し(レベル4),さらに胆石が複数個の場合は,単発例と比較して有症状化率が高くなっている(24.7%対8.8%)(レベル4)54)。