(旧版)科学的根拠に基づく急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドライン
第II章 本ガイドライン作成の必要性と特徴
3. 急性胆管炎の診断と治療
上記の診断基準に基づき,ワーキンググループは急性胆管炎の診断に必須の検査を,末梢血白血球数・CRP・ビリルビン・胆道系酵素とした(推奨度A :「第V章/Q27.急性胆管炎の診断に必要な血液検査は?」参照)。 超音波検査は簡便かつ非侵襲的に結石や胆管拡張の存在を形態的に証明できる,優れた画像診断法である。 われわれは急性胆管炎,胆嚢炎が疑われるすべての症例に対して,初診時に超音波検査を施行すべきである(推奨度A :「第V章/Q32.急性胆管炎を疑った場合,まず行うべき形態学的検査は?」参照)。 また他疾患との鑑別のために,腹部単純X線検査を推奨した(推奨度A :「第V章/Q31.急性胆管炎を疑った場合,単純X線写真を撮るべきか?」参照)。
ワーキンググループは重症度に応じた適切な治療が極めて重要であると考え,急性胆管炎の診断がついたすべての症例に対して,絶食・輸液・抗菌薬投与などの初期治療を開始するとともに,重症度評価を行うことを推奨した(推奨度A :「第VI章/Q44.急性胆管炎の初期治療は何か?」参照)。 中等症・重症では,呼吸・循環管理や緊急ドレナージが常時施行できる施設に搬送する必要がある(推奨度A :「第V章/Q25.どのような急性胆管炎を,いかなる施設に搬送すべきか?」参照)。 またエビデンスは見出せなかったが,緊急ドレナージ術がいつでも施行できるよう,中等症・重症は絶食とする必要がある(推奨度A :「第VI章/Q44.急性胆管炎の初期治療は何か?」参照)。
急性胆管炎の診断がついたら,ごく軽症の症例を除きfull doseの抗菌薬が必要である(推奨度A :「第VI章/Q51.基本的な投与法,投与量,投与経路は?」参照)。 empirical therapyのターゲットは腸内細菌,特に大腸菌,クレブシエラ,エンテロバクター,緑膿菌などである。 また胆管空腸吻合のある患者や重症の高齢者では,バクテロイデスのような嫌気性菌もカバーする必要がある。 適切な抗菌薬治療を行うために,empirical therapyの開始前に積極的に血液培養を行うべきである(推奨度B :「第VI章/Q45.急性胆管炎における細菌検査はどのように行うべきか?」参照)。 また可能な限り胆汁を採取して起炎菌の同定を行い,培養の結果が判明したらempirical therapyから,より抗菌スペクトラムの狭い抗菌薬に変更するべきである(推奨度B :「第VI章/Q52.抗菌薬選択に際して考慮すべきことは?」参照)。
アミノグリコシド系薬は,胆道炎の主たる起炎菌であるグラム陰性桿菌に対して強い抗菌力を有するため,軽症から中等症の胆道炎に対する標準的レジュメとして,欧米では長らくアンピシリン+アミノグリコシドが推奨されてきた。 しかしアミノグリコシド系薬の胆汁移行性は極めて不良であること,単剤では利用できないこと,胆道閉塞がある場合には腎毒性などの合併症のリスクが増強する懸念もあることから,本ガイドラインはアミノグリコシド系薬の使用は推奨しない方針とした。 これに代わるレジュメとして,従来のレジュメ(アンピシリン+アミノグリコシド)と同等の効果を持つことが臨床試験で証明されている広域ペニシリン,セフェム系抗生剤や新キノロンに加えて,現在急性胆道炎に対して広く使用されている第三,四世代セフェム系薬やカルバペネム系薬の中から,抗菌スペクトラムや耐性の出現状況を考慮し,重症度に応じたempirical therapyのためのレジュメ(推奨度A :「第VI章/Q55.急性胆管炎において推奨される抗菌薬の選択基準は?」参照)を推奨した。
血圧低下や意識障害を伴う重症急性胆管炎や抗菌薬投与などによる保存的治療が奏効しない症例は,緊急的な胆道ドレナージの対象となる(「第VI章/Q43.急性胆管炎における基本的診療方針は?」参照)。 胆道ドレナージ法には内視鏡的ドレナージ・経皮経肝的ドレナージ・開腹ドレナージがあるが,様々な臨床研究の結果を踏まえた議論の結果,在院日数が有意に短いなどの点から,内視鏡的なアプローチが可能な症例に対しては,内視鏡的ドレナージを優先すべきであると結論した(推奨度A :「第VII章/Q57.胆管ドレナージ法の選択は?」参照)。
また「急性胆管炎で胆管結石の処置をした後に胆嚢摘出術は必要か?」というクリニカル・クエスチョンに対しては,急性胆管炎消退後に有石胆嚢を放置した場合の胆嚢炎(有症状化を含む)発症率が決して高くないことから,手術拒否例やハイリスク例などでは経過観察も選択可能であるという結論に達した(「第VII章/Q60.急性胆管炎で胆管結石の処置をした後に胆嚢摘出術は必要か?」参照)。