(旧版)科学的根拠に基づく急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドライン

 
 
第I章 序


5. 文献検索法,文献レベル,推奨度
MEDLINE(Ovid)(1966年~2003年6月)を対象に,cholangitis,cholecystitisのMeSH(explode),またはkey wordsで得られた約17,200文献を「human」で「limit」した英語ならびに日本語の9,618文献と,医学中央雑誌インターネット版(1983年~2003年6月)を対象に,胆管炎,胆嚢炎,胆道炎をkey wordsとして得られた7,093文献を「人」で「limit」した6,141文献の合計15,759文献の表題およびabstractを各々2人の委員が検討し,その全文を吟味する必要があると判断された2,494文献を選出した。 また,これらの文献に引用されている文献ならびに専門家の指摘によって得られた文献についても検討対象に加えた(表1)。

表1 系統的網羅的なEvidence検索(Evidence source)と評価結果
1. MEDLINE(Ovid)(1966年~2003年6月)
  (1)MeSH(Medical Subject Heading)=cholangitis or choleystitis=17,200文献
  (2)limit:human to English or Japanese=9,618件
2. 医学中央雑誌インターネット版(1983年~2003年6月)
  (1)key word:胆嚢炎 or 胆道炎=7,093文献
  (2)絞込み:人=6,141文献
   
  1+2=15,759文献:表題およびabstractを各々2名の委員が評価検討
 
  その全文を吟味する必要があると判断した文献を選出(2,494文献)

次に,各文献が提示するエビデンスを,Cochrane libraryで用いられている科学的根拠に基づく分類法(表2)1)に準じて評価し,急性胆道炎の診断,治療に関わる各項目のquality of evidenceを決定した。 以上の作業によって得られた結果をもとに,表3に示す分類法2に則って推奨度を決定し,本文中に適宜表記した。 なお,本ガイドラインでの引用文献にはその文献レベルを各引用の最後に括弧内に表記した。

表2-1 治療/予防,病因/害
 レベル  治療/予防,病因/害
1a RCTのシステマティックレビュー(homogeneityであるもの*
1b 個々のRCT(信頼区間が狭いもの
1c 悉無研究(all or none)§
2a コホート研究のシステマティックレビュー(homogeneity* であるもの)
2b 個々のコホート研究(質の低いRCTを含む;(例)フォローアップ80%未満)
2c 「アウトカム」研究;エコロジー研究
3a ケースコントロール研究のシステマティックレビュー(homogeneity*であるもの)
3b 個々のケースコントロール研究
4 症例集積研究(および質の低いコホート研究あるいはケースコントロール研究§§
5 系統的な批判的吟味を受けていない,または生理学や基礎実験,原理に基づく専門家の意見

脚注:使用者は以下にあげる理由から確定的なレベルを決定できなかったことを示すために,マイナスの印「-」を付記してもよい。
信頼区間の広い単一の研究しかない(例えば,RCTにおけるAttributed Relative Risk(ARR)が統計学的に有意ではないが,臨床的に重要な便益や害が存在する
あるいは無視できない(かつ統計学的に有意な)不均一性をもつシステマティックレビュー
エビデンスが確定的でなく,グレードDの推奨しかできてない場合

RCT:無作為化比較対照試験
* homogeneityというのは,個々の研究間に結果の程度や方向性に憂慮すべき多様性がないことである。 統計学的に不均一なシステマティックレビューすべてに対して憂慮する必要はなく,また憂慮すべき不均一性全てが統計学的に有意でもない。 上記の如く,憂慮すべき不均一性を示す研究には,レベルの後ろに「-」を付ける。
どのようにして,広い信頼区間をもつ臨床試験や他の研究を理解し評価するかについては,脚注を参照のこと
§ その治療法が利用される以前はすべての患者が死亡していたが,利用できるようになった現在は生存者がいるような場合;あるいは,その治療法が利用される以前は死亡する患者がいたが,利用できるようになった現在は誰も死亡しなくなったような場合
§§ 質の低いコホート研究とは,明確な比較群を持たない研究,暴露群と非暴露群とで同一の(盲検化が望ましい)客観的方法を用いて暴露とアウトカムを評価できなかった研究,既知の交絡因子を同定あるいは適切にコントロールできなかった研究,十分な期間中に完全なフォローアップができなかった研究をさす。質の低いケースコントロール研究とは,明確な比較群を持たない研究,かつ/あるいは症例群と対象群とで同一の(できれば盲検が望ましい)客観的方法を用いて暴露とアウトカムを評価できなかった研究,かつ/あるいは既知の交絡因子を同定あるいは適切にコントロールできなかった研究,かつ/あるいは十分な期間中に完全なフォローアップができなかった研究をさす。


表2-2 予後
 レベル  予後
1a 前向きコホート研究のシステマティックレビュー(homogeneity*であるもの);異なる集団において妥当性が確認されたCDR
1b フォローアップ率80% 以上の前向きコホート研究;単一集団で妥当性が確認されたCDR
1c 全てか全てなしかのケースシリーズ
2a 後ろ向きコホート研究あるいはRCTにおける未治療対照群のシステマティックレビュー(homogeneity*であるもの)
2b 後ろ向きコホート研究あるいはRCTにおける非治療対照群のフォローアップ;CDRの誘導のみ,あるいは妥当性が分割サンプルでしか証明されなかった§CDR
2c 「アウトカム」研究
4 症例集積研究(および質の低い予後に関するコホート研究**
5 系統的な批判的吟味を受けていない,または生理学や基礎実験,原理に基づく専門家の意見


表2-3 診断
 レベル  診断
1a レベル1の診断研究のシステマティックレビュー(homogeneity*であるもの);複数の臨床施設を対象としたレベル1bの研究で検証されたCDR
1b 適切な参照基準が設定された検証的*** コホート研究;あるいは単一の臨床施設で検証されたCDR
1c 絶対的な特異度で診断が確定できたり,絶対的な特異度で診断が除外できる場合††
2a レベル2の診断研究のシステマティクレビュー(homogeneity*であるもの)
2b 適切な参照基準†††が設定されている探索的***コホート研究;CDRの誘導のみ,あるいは妥当性が分割サンプルでしか証明されなかった§CDR
3a 3b以上の研究のシステマティックレビュー(homogeneity*であるもの)
3b 非連続研究;あるいは一貫した参照基準を用いていない研究
4 評価基準が明確でない,あるいは独立でないケースコントロール研究
5 系統的な批判的吟味を受けていない,または生理学や基礎実験,原理に基づく専門家の意見

* homogeneityというのは,個々の研究間に結果の程度や方向性に憂慮すべき多様性がないことである。統計学的に不均一なシステマティックレビューすべてに対して憂慮する必要はなく,また憂慮すべき不均一性全てが統計学的に有意でもない。上記の如く,憂慮すべき不均一性を示す研究には,レベルの後ろに「-」を付ける。
Clinical Decision Rule(予後を予測するため,あるいは診断を層別化するためのアルゴリズムあるいはスコアリングシステム)
†† 「絶対的な特異度で診断が確定」とは,検査が陽性の場合に診断が確定できるほど特異度が高いことをさす。「絶対的な感度で診断が除外」とは,検査が陰性の場合に診断が除外できるほど感度が高いことをさす。
††† 適切な参照基準は検査から独立し,全ての患者に対し盲検的/客観的に適用されている。不適切な参照基準は行き当たり的に適用されているが,なおかつ検査から独立している。非独立的な参照基準を用いている場合(「検査」が「参照基準」に含まれる場合,あるいは「検査の施行」が「参照基準」に影響を与える場合)は,レベル4研究に分類する。
§ その治療法が利用される以前はすべての患者が死亡していたが,利用できるようになった現在は生存者がいるような場合;あるいは,その治療法が利用される以前は死亡する患者がいたが,利用できるようになった現在は誰も死亡しなくなったような場合
** 質の低い「予後に関するコホート研究」とは,①ターゲットとするアウトカムを既に持つ患者が偏ってサンプリングされている研究,②対象患者の80% 未満でしかアウトカム測定が行われていない研究,③非盲検的/非客観的な方法でアウトカム測定が行われている研究,④交絡因子が調整されていない研究をさす。
*** 妥当性検証研究とは,既存のエビデンスに基づいて特定の診断検査の性能を検討した研究のことである。探索的研究とは,情報を収集しデータを解析して(例:回帰分析など)「有意な」因子を探索する研究のことである。
§ 分割サンプルによる妥当性の検証とは,一度に収集したサンプルを人工的に「誘導」サンプルと「妥当性検証」サンプルに分割することである。

表3 推奨度分類2,3,4)
  A   その推奨の効果に対して強い根拠があり,その臨床上の有用性も明らかである。
B その推奨の効果に関する根拠が中等度であるか,その効果に関して強い根拠があるが臨床上の有用性がわずかである。
C その推奨の効果を支持する(あるいは否定する)根拠が不十分であるか,その効果が有害作用・不都合(毒性や薬剤の相互作用,コスト)を上回らない可能性がある。
D その推奨の有効性を否定するか,害作用を示す中等度の根拠がある。
E その推奨の有効性を否定するか,害作用を示す強い根拠がある。
注: 推奨度はあくまでも最も標準的な指針であり,本推奨度は実際の診療行為を決して強制するものではなく,施設の状況(人員,経験,機器等)や個々の患者の個別性を加味して最終的な対処法を決定すべきである。
レベルが高い文献に基づいた推奨度AまたはB,あるいは逆に施行を推奨しない推奨度DまたはEがあり得る。

 

 
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