(旧版)高血圧治療ガイドライン2009

 
第12章 二次性高血圧


POINT 12d

【血管性(脈管性)高血圧】
  • 血管性(脈管性)高血圧には,大動脈炎症候群(高安動脈炎),その他の血管炎性高血圧(結節性多発動脈炎,全身性強皮症),大動脈縮窄症,さらに,心拍出量増加を伴う血管性高血圧(大動脈弁閉鎖不全症,動脈管開存症,動静脈瘻など)がある。各病態に合わせた治療方針に従う。




4.血管性(脈管性)高血圧
1)大動脈炎症候群(高安動脈炎)
大動脈炎症候群(高安動脈炎)は大動脈およびその主要分枝や肺動脈,冠動脈に閉塞性,あるいは拡張性病変をもたらす,依然として原因不明の非特異的大型血管炎である787)。本症は特に女性に頻度が高く,脈拍・血圧の左右差,頸部あるいは腹部血管雑音の聴取,頸動脈洞反射の亢進などを主要所見とする788)。本症の約4割に高血圧を認め,本症の予後と大きく関連する789)。近年,FDG-PETによる診断法が確立されてきた790)。その発生機序は単一ではなく,[1]腎血管性高血圧,[2]大動脈狭窄性高血圧(異型大動脈縮窄症),[3]大動脈弁閉鎖不全性高血圧,[4]大動脈壁硬化性高血圧などの各要素がある787),788)
本症の約2割に腎血管性高血圧を認める791)。両側鎖骨下動脈狭窄を伴う例では上肢の血圧は大動脈圧より低値を示し,過小評価されるので注意を要する。大動脈縮窄症,腎血管性高血圧に対する血行再建術の適応は,[1]降圧薬により有効な降圧が得られなくなった場合,[2]降圧治療によって腎機能低下が生じる場合,[3]うっ血性心不全をきたした場合,[4]両側性腎動脈狭窄の場合である787)。腎血管性高血圧に対するPTRAは低侵襲性で有効であるが,線維筋性過形成などに比し本症では再狭窄率が高く,長期有効率は約50%と,外科的バイパス術が成功した場合の長期有効率約90%に比し低率である791)。さらに大動脈弁閉鎖不全症は,本症の予後を規定する重要な合併症であり,適切な降圧療法下に,一般の大動脈弁閉鎖不全症の適応に準拠して大動脈弁置換術(Bentall手術を含む)の手術適応を決定する792)
本症における外科治療は,活動性炎症の消退を待った後,あるいは副腎皮質ステロイド薬によって炎症を抑制した後に実施されるのが望ましい。本邦の手術例の長期予後は概して良好であるが,特に吻合部動脈瘤の発生や残存上行大動脈の拡大に注意を要する793)。また,予後を決定する重要な病変は,腎動脈狭窄や大動脈縮窄症による高血圧,大動脈弁閉鎖不全によるうっ血性心不全,虚血性心疾患,解離性動脈瘤,動脈瘤破裂などとされる。したがって,早期からの適切な内科的治療(ステロイド治療,降圧治療)と重症例に対する適切な外科的治療によって長期予後の改善が期待できる787)
本症の降圧治療は,腎血管性高血圧あるいは本態性高血圧に準ずる。ただし,頸動脈に狭窄病変を有する例では脳血流量が低下している可能性があり,その降圧治療に際しては,脳血流に対する十分な配慮と注意が必要である。

2)その他の血管炎性高血圧
大動脈炎症候群以外の血管炎症候群による高血圧としては,結節性多発動脈炎(PN),全身性強皮症(PSS)などがある794)。PNでは腎動脈を含む全身の中小筋型動脈や細動脈の壊死性動脈炎が795),PSSでは腎血管の攣縮が高血圧の成因に関与する。PNでは約30%に高血圧(160/95mmHg以上)を合併し796),一部には急速進行性腎炎,PSSでは腎クリーゼ(悪性高血圧,腎不全)の経過をとることが少なくない。PSSを除くと急性期の死因は脳出血,心筋梗塞,心不全,腎不全などで,いずれも合併する高血圧と密接に関連するものであり,血圧管理の重要性を認識する必要がある。PSSを除くと急性期には副腎皮質ステロイド薬のパルス療法と免疫抑制薬の併用が行われる。血圧管理は腎実質性高血圧あるいは本態性高血圧に準ずる。PSSでは悪性高血圧の治療に準拠するがACE阻害薬やCa拮抗薬が著効を示す。

3)大動脈縮窄症
狭窄部より近位側の上肢の高血圧と遠位側の下肢の低血圧をきたし,上下肢収縮期血圧差は20-30mmHg以上になる。近位側の高血圧に対して,原則として小児期に外科的治療による狭窄の解除ないしバルーンカテーテルによる血管形成術が適応され,より早期に処置することが良好な予後を規定するとされている797)。本症の高血圧の成因には,大動脈縮窄部位からの動脈反射波の増大798),799),上半身の末梢血管抵抗の増加や大動脈のWindkessel作用の減弱などの機械的因子に加え,RA系や交感神経系の関与も知られている800)。術前の高血圧の持続期間によっては,修復後も長期間高血圧が持続する場合があり,その場合には病態に応じた降圧治療を行う。

4)心拍出量増加を伴う血管性高血圧
大動脈弁閉鎖不全症,動脈管開存症,動静脈瘻などでは,1回心拍出量の増加を主な機序として収縮期高血圧を呈する。
いずれも原疾患に対する治療を行うことにより高血圧は治癒する。

 

 
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