(旧版)高血圧治療ガイドライン2009
第12章 二次性高血圧
POINT 12c |
【内分泌性高血圧】
- 内分泌性高血圧は適切な治療で治癒可能な場合が多いので,積極的に専門医(高血圧学会,内分泌学会)に紹介する。
- 原発性アルドステロン症は従来考えられてきたよりも頻度が高く,臓器障害が少なくない。高血圧患者,特に頻度が高い群では積極的にPAC,PRAを測定し,PACとPRAの比(ARR)>200(PAC:pg/mL)であれば機能確認検査,次いで局在診断を行う。一側性では腹腔鏡下副腎摘出術,両側性病変ではアルドステロン拮抗薬などの降圧薬を投与する。
- クッシング症候群は特徴的身体所見に注意し,デキサメタゾン抑制試験を行う。副腎偶発腫瘍では厚生労働省の診断基準に準拠してサブクリニカルクッシング症候群を診断する。
- 褐色細胞腫はカテコールアミンとその代謝産物の測定と画像検査で診断する。副腎偶発腫瘍としても発見され,高齢者でも経験される。α遮断薬が第一選択薬である。約10%は悪性褐色細胞腫で初回術後は慎重な経過観察が必要である。
- 先端巨大症,バセドウ病,甲状腺機能低下症は特徴的な身体所見が,原発性副甲状腺機能亢進症は高カルシウム血症が発見のきっかけとなる。いずれも原因疾患の治療で高血圧が改善することが多い。
3.内分泌性高血圧
内分泌性高血圧は内分泌臓器の腫瘍あるいは過形成によりホルモン過剰を生じ,高血圧を呈する疾患群である。特に原発性アルドステロン症(PA),クッシング症候群,褐色細胞腫が代表的である。原因に対する治療により治癒可能な場合が多いこと,標的臓器障害が進行しやすいこと,一部に悪性腫瘍も含まれることから適切な診断が必要で,積極的に専門医(日本高血圧学会,日本内分泌学会)に紹介する。
1)原発性アルドステロン症
アルドステロンの過剰により高血圧,レニン分泌の抑制,低K血症,低Mg血症,代謝性アルカローシスを呈する。従来考えられてきたよりも高頻度で,高血圧患者の約3-10%を占めると報告768),769),770)されているが,より低頻度であるとの報告もある。脳,心血管系,腎などの臓器障害が少なくないこと771),772)から早期診断,治療が重要である。男女比は1:1.5と女性が多い。
(1)診断の手がかり
すべての高血圧で疑う必要があるが,特に未治療例や本疾患の頻度が高い低K血症合併例(血清K3.5mEq/L以下,利尿薬誘発例も含めて),II度以上の高血圧(PAの頻度約10%),治療抵抗性高血圧(約20%),副腎偶発腫瘍合併例(約3%),40歳以下で脳血管障害などの臓器障害合併例では,積極的にスクリーニングを行う(表12-4)773)。最近は約3/4が正常血清Kとの報告774)もあるので,低K血症がなくてもPAを除外できない点に注意する。
表12-4.原発性アルドステロン症を疑い積極的にスクリーニング検査をすべき対象 |
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(2)スクリーニング検査
[1]血漿レニン活性(PRA),血漿アルドステロン濃度(PAC)測定
高血圧患者,特に前述のPAの頻度が高い群では積極的にPRAとPACを同時測定する。測定値は採血時刻,体位,降圧薬により影響されるため,標準的条件(未治療,早朝から午前9時,空腹,約30分の安静臥床後)での採血が望ましい。降圧薬により偽陽性,偽陰性(表12-5)を示すため,未治療または少なくとも2週間休薬後に測定する。血圧管理上休薬が困難な場合には,比較的影響の少ないCa拮抗薬,α遮断薬またはヒドララジンなどに変更後に測定する。スピロノラクトンは影響が大きく,少なくとも2か月以上休薬を要する。また,同一例でも測定値が少なからず変動するため,可能なかぎり反復測定が望ましい775)。PACの単位はng/dLで表示される場合とpg/mLで表示される場合があり,後者では数値が10倍となるので注意を要する。
表12-5.PAC,PRAおよびARRに及ぼす各種降圧薬の影響
*1 ARR:PAC/PRA比,*2 偽陰性の可能性,*3 偽陽性の可能性,
*4 ACE阻害薬,ARBと比較して影響は軽度
表12-5.PAC,PRAおよびARRに及ぼす各種降圧薬の影響
PAC | PRA | ARR*1 | |
ACE阻害薬 ARB | ↓ | ↑↑ | ↓*2 |
β遮断薬 | ↓ | ↓↓ | ↑*3 |
Ca拮抗薬 | →〜↓ | ↑ | ↓*2,4 |
アルドステロン拮抗薬 | ↑ | ↑↑ | ↓*2 |
*4 ACE阻害薬,ARBと比較して影響は軽度
[2]PAC/PRA比(ARR)の評価
PAではARRが増加するためスクリーニングに有用である776)。200から1000(PAC:pg/mL)のカットオフ値が報告されている。スクリーニング目的では200を目安とするが,ARRは低レニンの影響を大きく受けるため,PAC>150pg/mLの条件をつけるのがよいと報告777)されている。
(3)機能確認検査
スクリーニング検査陽性の場合,アルドステロンのRA系非依存性の自律性分泌を証明する機能確認検査を実施する。カプトプリル負荷試験778)の特異度は若干低いが感度は優れており,簡便なため外来でも実施可能である。フロセミド立位負荷試験はこれまで最も一般的であったが,感度,特異度がやや劣り,身体的負担も少なくない。近年,欧米で汎用される生理食塩水負荷試験779)は感度,特異度に優れるとされるが,検査時間が長く,心・腎機能低下例では適さない(表12-6)。少なくとも1つ以上の検査を実施後,次の病型・局在診断を行う。
表12-6.原発性アルドステロン症ー機能確認検査の概要
表12-6.原発性アルドステロン症ー機能確認検査の概要
方法*1 | 陽性判定基準*2 | 副作用 | |
カプトプリル 負荷試験 | カプトプリル50mg (要粉砕)経口投与 | ARR(60分または90分) ≧200(または≧350)*3 | 血圧低下 |
フロセミド立位 負荷試験 | フロセミド40mg静注・ 2時間立位 | PRAmax ≦1.0(または2.0)ng/mL/h | 起立性低血圧 血清K低下 |
生理食塩水 負荷試験 | 生食2L/4時間 点滴静注 | PAC(4時間) ≧85(≧50-100)pg/mL | 血圧上昇 心・腎機能低下例は実施しない 血清K低下 |
- *1 原則として検査当日朝の降圧薬を休薬し,早朝から午前9時,空腹,約30分の安静臥床後に実施
- *2 感度,特異度は報告により60-90%と異なる
- *3 PAC単位:pg/mLで計算
(4)病型・局在診断
PAの病型にはアルドステロン産生腺腫(APA),両側副腎過形成による特発性アルドステロン症(IHA)があるが,まれにグルココルチコイド反応性アルドステロン症,副腎癌,一側性副腎過形成などがある。副腎CT,副腎シンチグラフィー,副腎静脈サンプリングで総合的に判断する。
(5)治療
一側APAでは腹腔鏡下副腎摘出術が一般的である。術後,血清Kは速やかに正常化するが,血圧は緩徐に低下する。高血圧歴が5年以上,本態性高血圧の合併,腎障害合併,スピロノラクトン不応例では血圧低下が不良であるが,高血圧のコントロールは改善する。手術適応がない例や手術の待機期間中の例には,高血圧と低K血症の厳密な治療を継続する。降圧薬としてアルドステロン拮抗薬が第一選択薬であるが,投与早期にアルドステロン分泌の抑制作用が報告されているCa拮抗薬も併用して,血圧をコントロールする。エプレレノンはスピロノラクトンと比較して,ミネラルコルチコイド受容体への選択性が高く,女性化乳房などの副作用が少ないが,PAでの多数例の使用成績は報告がない。術前のアルドステロン拮抗薬投与は,RA系の賦活などを介して術後の急激な循環動態の変動を少なくし,電解質異常や腎機能低下を予防するとの報告780)がある一方,低アルドステロン症による高K血症,低ナトリウム血症を呈することもあるため,術後は慎重な体液量,電解質管理を要する。
(6)診断の手順と専門医への紹介のタイミング
米国内分泌学会で診療ガイドラインが作成773)され,本邦でも日本内分泌学会が診療手引きをホームページ781)に掲載している。高血圧の日常診療におけるPA診断の手順を図12-2に示した。高血圧患者,特にPAの頻度が高い群では積極的にPRA,PACを測定する。ARR>200(PAC:pg/mL),特にPAC>150pg/mLであれば,カプトプリル負荷試験を実施後,あるいは直接,高血圧・内分泌専門医に紹介する。ARRは変動があるため再検査が望ましい。専門医は少なくとも1つ以上の機能確認検査を実施し,陽性かつ手術適応および患者の手術希望がある場合には,副腎CT,副腎シンチグラフィー,副腎静脈サンプリングによる局在診断を行う(図12-2)。
図12-2.原発性アルドステロン症の診断の手順 |
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*1 PA高頻度群を対象(できれば全例) *2 ARR:PAC/PRA比 *3 降圧薬:Ca拮抗薬・α遮断薬などに変更後測定 *4 可能なかぎり再検査を推奨 *5 検査当日朝は休薬,早朝から午前9時,空腹,約30分の安静臥床後に実施 *6 高血圧学会,内分泌学会専門医に紹介 *7 カプトプリル負荷・フロセミド立位負荷・生食負荷のうち少なくとも1つを実施 *8 副腎CT・副腎シンチ・副腎静脈サンプリング |
2)その他のミネラルコルチコイド過剰症
先天性副腎皮質過形成のうち,17α水酸化酵素欠損症と11β水酸化酵素欠損症はデオキシコルチコステロンの増加により,高血圧と低K血症をきたす。コルチゾールの補充が治療の原則である。このほか,まれにデオキシコルチコステロン産生腫瘍やコルチコステロン産生腫瘍もある。
3)クッシング症候群
コルチゾールの自律性かつ過剰分泌によりクッシング徴候,高血圧,糖尿病などを呈する。男女比は1:3から1:4と女性に多い。副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)非依存性とACTH依存性に大別され,前者には副腎腺腫による狭義のクッシング症候群,ACTH非依存性大結節性副腎過形成(AIMAH)などが,後者には下垂体ACTH産生腫瘍によるクッシング病,異所性ACTH産生腫瘍がある。
(1)診断の手がかり
コルチゾール過剰による中心性肥満,満月様顔貌,野牛様脂肪沈着,赤色皮膚線条,皮膚の菲薄化,アンドロゲン過剰による多毛,ざ瘡などの男性化症状に注目する。非特異的所見として,高血圧,糖尿病,脂質異常症,骨粗鬆症,尿路結石,爪白癬などがある。心不全などの心血管系合併症が多く予後に影響する782)。一般検査では好酸球減少,低K血症に注意する。また副腎偶発腫瘍の7.5%がクッシング症候群であったと報告783)されており,慎重な鑑別診断を要する。
(2)内分泌学的検査
血中コルチゾール,尿中遊離コルチゾールの増加,デキサメタゾン抑制試験(一晩法)(0.5mg,1mg)でのコルチゾール抑制欠如,コルチゾールの日内変動消失を確認する。そのうえで,血中ACTH,CRH試験からACTH依存性,非依存性を鑑別し,副腎CT,下垂体MRIにより副腎病変,下垂体病変を検索する。
(3)治療
副腎腺腫では腹腔鏡下副腎摘出術,クッシング病では経蝶形骨洞下垂体摘出術,異所性ACTH産生腫瘍では原因病巣の外科的摘出が第一選択治療である。術前や手術不能例では積極的な降圧治療が必要であるが,一般に治療抵抗性である。RA系阻害薬,Ca拮抗薬,利尿薬,α遮断薬などを併用して治療する。
(4)副腎性サブクリニカルクッシング症候群
副腎偶発腫瘍の約50%は非機能性副腎腫瘍とされるが,そのなかに少なからずサブクリニカルクッシング症候群が存在する。厚生労働省の診断基準784)では,[1]副腎偶発腫瘍の存在,[2]クッシング徴候の欠如,[3]血中コルチゾールの基礎値が正常,[4]デキサメタゾン抑制試験(一晩法)でコルチゾールの抑制欠如が必須項目で,これにACTH分泌の抑制などの副項目があれば診断できる。高血圧,肥満,耐糖能異常の合併が多く,経過とともに増悪することが多く,術後に改善を認めることから,可能な例では手術を検討する。腫瘍径が4cm以上や増大傾向のある場合は悪性を考慮して摘出術を行う784)。
(5)専門医への紹介のタイミング
クッシング徴候,難治性の高血圧と糖尿病の合併などからクッシング症候群が疑われた場合,あるいは副腎偶発腫瘍を認めた場合は専門医に紹介する。
4)褐色細胞腫
カテコールアミン過剰による高血圧や耐糖能異常を合併する。あらゆる年齢で経験され,最近は高齢者での報告も少なくない。副腎外性,両側性,多発性,悪性例がそれぞれ約10%を占めることから,10%病とも呼ばれる。内分泌腺に多発性の病変を生じる多発性内分泌腫瘍症の一病変として認めることもあり,家族歴に注意する。カテコールアミン測定と画像検査から診断は容易で,腫瘍摘出により高血圧,カテコールアミンは正常化する。最大の課題は悪性例で,初回手術時に悪性の診断が困難で,遠隔転移で悪性が判明することがある。最近,病因として褐色細胞腫感受性遺伝子,特にコハク酸脱水素酵素サブユニットBおよびD(SDHB,SDHD)の変異との関連が示唆されている785)。
(1)診断の手がかり
頭痛,動悸,発汗,顔面蒼白,体重減少などの症状や発作性高血圧から疑う。高血圧発作は運動,ストレス,排便,飲酒などで誘発される。メトクロプラミド静注による高血圧発作もある。副腎偶発腫瘍として発見されることもある。
(2)内分泌学的検査
血中カテコールアミン,24時間尿中カテコールアミン排泄量,代謝産物メタネフリン,ノルメタネフリンの尿中排泄量などの増加を確認する。誘発試験(グルカゴン,メトクロプラミド)やフェントラミン(レギチーン)試験(血圧降下を指標)は特異性,安全性に問題があり推奨されない。ノルアドレナリン高値の場合,クロニジン試験(中枢α2受容体に作用)が有用である。
(3)画像診断
CTで腫瘍の局在を確認する。ただし,造影剤はクリーゼ誘発の可能性があるため原則禁忌で,やむをえず実施する際には必ずフェントラミン,プロプラノロールを準備する。MRIではT1強調像で低信号,T2強調像で高信号が特徴である。局在が不明あるいは副腎外性の場合,131I-MIBGシンチグラフィー,MRI,CTで全身検索する。MIBGシンチは悪性例での転移巣検出に有用であるが,小病変や機能が弱い例では偽陰性を示すことがあり注意を要する。MIBG陰性例では18F-FDG-PETが有用であるが,本邦では保険適応がない。
(4)治療
腫瘍摘出術が原則である。術前の血圧管理と循環血漿量補正および術中のクリーゼ防止のため,ドキサゾシンなどのα遮断薬を十分に投与する。β遮断薬は頻脈,不整脈治療目的で併用するが,単独投与はα作用が増強されるため禁忌である。病理組織での良性,悪性の鑑別が困難なため,術後も定期的に長期の経過観察が推奨される。褐色細胞腫クリーゼではフェントラミンの静注,点滴を行い,以後はα遮断薬を経口投与する。
(5)専門医への紹介のタイミング
動悸,発作性高血圧から疑う。血中カテコールアミンの高値,随時尿中メタネフリン,ノルメタネフリン(クレアチニン補正)の増加(>300ng/mg・Cr),副腎腫瘍を認めた場合は専門医に紹介する。
5)その他の内分泌性高血圧
(1)先端巨大症
成長ホルモン(GH)産生下垂体腺腫による。約40%に高血圧を認める。四肢末端の肥大などの特徴的な身体所見から疑う。血中GH,IGF-1高値および75gOGTTにおけるGHの抑制欠如,TRH試験での奇異反応,下垂体腫瘍の存在から診断する。治療の原則は経蝶形骨洞下垂体摘出術である。高血圧はCa拮抗薬,RA系阻害薬などで治療する。
(2)バセドウ病
収縮期高血圧と脈圧の増大を認める。動悸,振戦,食欲亢進,体重減少,甲状腺腫,眼球突出などの自他覚所見から疑う。FT3,FT4,TSHおよび甲状腺自己抗体(TSAbまたはTRAb)を測定して診断する。治療は主に抗甲状腺薬投与である。動悸,頻脈および収縮期高血圧のコントロールにβ遮断薬が有効であり,抗甲状腺薬投与前から甲状腺機能の正常化まで用いられる。無痛性甲状腺炎などその他の甲状腺中毒症との鑑別のため専門医への紹介が勧められる786)。
(3)甲状腺機能低下症
橋本病が主な原因である。高血圧を合併することが知られるが,高血圧から診断されることはまれである。倦怠感などの非特異的な症状,甲状腺腫,高コレステロール血症などが発見のきっかけとなる。治療はレボチロキシンナトリウムの補充療法である786)。高血圧はCa拮抗薬,RA系阻害薬などで治療する。
(4)原発性副甲状腺機能亢進症
腺腫あるいは過形成による。約20%に高血圧を認めるが,高血圧から診断されることはまれで,高カルシウム血症,尿路結石などが発見のきっかけとなる。治療は病的副甲状腺の摘除である。