(旧版)高血圧治療ガイドライン2009

 
第12章 二次性高血圧


概論とスクリーニング

高血圧はその原因により,本態性高血圧と二次性高血圧に分けられる。二次性高血圧は高血圧をきたす原因が明らかなもので,頻度は少なくなく,適切な治療により治癒が期待できる場合がある。したがって,その診断は重要であり,高血圧患者の評価においては,高血圧の原因についても考慮すべきである。
二次性高血圧には多くの種類があり,主要なものを表12-1に示す。腎実質性高血圧は,慢性糸球体腎炎や多発性嚢胞腎などの腎疾患によるもので,腎機能低下を伴う場合が多い。腎血管性高血圧は腎動脈の狭窄によるもので,レニン・アンジオテンシン(RA)系の亢進を伴う。原発性アルドステロン症はアルドステロンの,クッシング症候群はコルチゾールの,褐色細胞腫はカテコールアミンの過剰産生による。甲状腺ホルモンは不足でも過剰でも高血圧の原因となり,副甲状腺機能亢進症は高Ca血症を特徴とする。大動脈縮窄症では,上肢血圧は高いが下肢血圧は低い。睡眠時無呼吸症候群は肥満を伴うことが多く,無呼吸時に血圧は著しく上昇する。脳幹部血管圧迫では,延髄外腹側部の血管による圧迫がみられる。神経性高血圧は脳腫瘍などによる脳圧亢進や脳血管障害時にもみられ,過換気やパニック障害による血圧上昇もこれに含まれる。また,Na貯留や交感神経刺激作用を有する種々の薬剤により高血圧を生じる場合がある。
二次性高血圧の頻度は母集団により異なるが,一般住民を対象とした以前の研究では5%程度との報告が多い710)。しかし,若年の重症高血圧者では,その頻度は50%以上となる711)。二次性高血圧のなかでは腎性高血圧が最も多いとされていたが,最近は原発性アルドステロン症が従来考えられていたより多く,高血圧患者の3-10%程度を占めることが報告されている712),713)。甲状腺機能低下症や睡眠時無呼吸症候群,脳幹部血管圧迫を示す患者も少なくない。したがって,高血圧患者における二次性高血圧の頻度は,約10%あるいはそれ以上であろうと考えられる714)
二次性高血圧のスクリーニングは,詳細な病歴と身体所見,血液や尿検査によるが,若年発症の高血圧や重症高血圧,治療抵抗性高血圧ではその可能性が高くなる。主な二次性高血圧について,示唆する所見と鑑別に必要な検査を表12-1に示す。クッシング症候群や褐色細胞腫などでは特徴的な臨床所見を示すが,症状が明らかでない場合もあり,他の疾患で類似の症状を呈することも多い。二次性高血圧の可能性は,すべての高血圧患者の診療において念頭に置くべきであろう。

表12-1.主な二次性高血圧ー示唆する所見と鑑別に必要な検査
原因疾患 示唆する所見 鑑別に必要な検査
腎実質性高血圧 蛋白尿,血尿,腎機能低下,腎疾患既往 血清免疫学的検査,腎超音波・CT,腎生検
腎血管性高血圧 若年者,急な血圧上昇,腹部血管雑音,低K血症 PRA,PAC,腎血流超音波,レノグラム,血管造影
原発性アルドステロン症 四肢脱力,夜間多尿,低K血症 PRA,PAC,副腎CT,負荷検査,副腎静脈採血
クッシング症候群 中心性肥満,満月様顔貌,皮膚線条,高血糖 コルチゾール,ACTH,腹部CT,頭部MRI
褐色細胞腫 発作性・動揺性高血圧,動悸,頭痛,発汗,神経線維腫 血液・尿カテコールアミンおよびカテコールアミン
代謝産物,腹部超音波・CT,MIBGシンチグラフィー
甲状腺機能低下症 徐脈,浮腫,活動性減少,脂質,CPK,LDH高値 甲状腺ホルモン・自己抗体,甲状腺超音波
甲状腺機能亢進症 頻脈,発汗,体重減少,コレステロール低値 甲状腺ホルモン・自己抗体,甲状腺超音波
副甲状腺機能亢進症 高Ca血症 副甲状腺ホルモン
大動脈縮窄症 血圧上下肢差,血管雑音 胸(腹)部CT,MRI・MRA,血管造影
脳幹部血管圧迫 治療抵抗性高血圧,顔面けいれん,三叉神経痛 頭部(延髄)MRI・MRA
睡眠時無呼吸症候群 いびき,昼間の眠気,肥満 夜間睡眠モニター
薬剤誘発性高血圧 薬物使用歴,治療抵抗性高血圧,低K血症 薬物使用歴の確認

 

 
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