(旧版)高血圧治療ガイドライン2009

 
第11章 特殊条件下高血圧の治療


POINT 11c

【外科手術前後の血圧管理】
  • 高血圧患者の周術期合併症の発症予防には,褐色細胞腫など二次性高血圧の鑑別と高血圧性臓器障害・合併症の評価を行うことが重要である。
  • 手術当日朝の内服も含めて,周術期を通じた経口または経静脈的降圧薬の継続的使用により,血圧のコントロールを図る。
  • 虚血性心疾患のリスクの高い者にはβ遮断薬が有用である。
  • ニフェジピンカプセルの内容物の投与は降圧の程度,速度を調節できないので行わない。
  • 疼痛・不安や興奮などの除去も血圧上昇を抑えるうえで重要である。




4.外科手術前後の血圧管理
1)術前の高血圧の評価
外科手術予定者は,高血圧に関する適切な評価や治療方針を検討するよい機会である。未治療高血圧者については二次性高血圧の鑑別を行うとともに,脳・心・腎・血管・眼底など高血圧性臓器障害と合併症の評価を行い,周術期のリスクを認識することが重要である。特に脳血管障害,頸動脈狭窄,左室肥大,冠血流予備能低下,虚血性心疾患,腎機能障害など周術期の血圧低下によって虚血性合併症が生じやすい病態の有無について評価が必要である。虚血性合併症の危険性を有する場合は,周術期の過度の血圧変動を避けるため術前より安定した血圧管理を行う必要がある。
褐色細胞腫が疑われる症例では,手術を延期して検索を進め,診断が確定すれば目的の手術の前に腫瘍摘出術を行う。腎血管性高血圧,原発性アルドステロン症,クッシング症候群などは術前に血圧がI度高血圧レベルまでにコントロールされていれば問題は少ないが,待機的手術であれば治癒可能な二次性高血圧の治療を先に行うべきである。
I度およびII度の高血圧は周術期の心血管合併症の独立した危険因子とはならないが,待機的手術で血圧が180/110mmHg以上であれば血圧のコントロールを優先すべきである707)。III度高血圧または高リスク患者に対して内視鏡下手術や侵襲的検査などを行う場合もリスクとメリットを個別に判断して施行の可否を決定する。

2)周術期の降圧薬の使用
降圧薬は手術当日まで服用させるのが原則で,術後もできるだけ早く再開する。特にβ遮断薬を使用している場合は,心拍数増加や血圧上昇のリスクがあるので,投与を中断しないよう注意が必要である。β遮断薬は周術期のストレス,交感神経活動亢進状態に対して防御的に働き,虚血性心合併症や心房細動発症のリスクを減らす707)。したがって,虚血性心疾患を有する患者でβ遮断薬を使用していない場合は新たに開始したほうがよい。術中は必要に応じてプロプラノロールを経静脈的に用いる。利尿薬は術後の脱水,低K血症の可能性を認識し,対処できれば中止する必要はない。ACE阻害薬やARBを投与中の場合,周術期の体液量の減少に伴い,血圧低下や腎機能低下を惹起する可能性があり,術前の投与中止を勧める報告もある707)。特に高齢者などリスクの高い例では,投与継続の可否について個別に検討する必要がある。
緊急手術および術中の血圧上昇に対しては,経静脈的にCa拮抗薬(ニカルジピン,ジルチアゼム),ニトログリセリン,ニトロプルシドなどを持続注入することによって降圧と維持を図る。術後は循環動態が不安定であるため,できるだけ早期に降圧療法を再開し,経口投与ができない場合は経静脈的投与を行う。また術後の疼痛や不安,興奮など血圧を上昇させる要因に対しても適切な対処が必要である。ニフェジピンカプセルの内容物の投与は降圧の程度,速度を調節できないので行ってはならない。

3)歯科手術と血圧管理
歯科治療中にも脳卒中など心血管病の発症リスクがあることより,歯科治療に際しても,高血圧の有無と血圧管理状況について事前に評価する必要がある。血圧が180/110mmHg以上であれば,緊急処置以外は内科医への紹介を優先する708)。降圧薬を服用中の患者では,歯科治療当日も服用を忘れないように指導する。歯科治療中,疼痛や不安を伴う処置や時間を要する歯科手技などで血圧上昇が大きいことが報告されている709)。アドレナリン(エピネフリン)を含む局所麻酔薬により,わずかではあるが血圧は上昇するので,その使用量に配慮しつつ,疼痛管理に必要な麻酔は確実に行うよう心がける708),709)。強い不安を訴える患者には精神安定薬の処方も考慮する。

 

 
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