(旧版)高血圧治療ガイドライン2009
第9章 女性の高血圧
POINT 9 |
【更年期高血圧】
- 経口避妊薬やホルモン補充療法により血圧の上昇をみることがあり,注意が必要である。
- 閉経期を含む女性の高血圧は病態生理および治療法が男性とは異なる可能性がある。
2.更年期女性に関連した高血圧
更年期女性では心血管系にもさまざまな変化が生じてくる635)。このなかで,脂質異常症はよく知られており,心血管系に大きな影響を与える因子となっている636)。一方,高血圧に関しては,閉経に伴い血圧が上昇するという説と,あまり変わりがないとする説があり,現時点でも明確な結論がでていない637)。しかし確実にいえることは,女性では35歳ころまでは血圧が正常あるいは低血圧とされていても,更年期を境として血圧が急に上昇あるいは高血圧と診断されることは,けっしてまれではない638),639)。またこれらに加えて,更年期女性ではいわゆる白衣高血圧の存在も忘れてはならない。さらにこの時期にはさまざまな変化(たとえば,体重の増加,エストロゲンをはじめとするホルモンの変化など)が生じるために,血圧も上昇しやすくなる可能性がある638),640)。また精神面での不安定さも加わり,しばしば血圧値が上下し,降圧薬治療も十分に行いにくいことが多い。このような更年期の血圧治療に対して,ホルモン補充療法や向精神薬あるいは漢方薬による治療などが行われているが,十分な成績を示すまでには至っていない641),642)。エストロゲンは更年期障害の治療薬として用いられ,大量使用では副作用として血圧上昇や血栓塞栓症をきたすとされてきた643)。エストロゲンの血圧上昇機序としては,アンジオテンシノーゲン産生量の増加に基づくアンジオテンシンII産生亢進が想定されているが,詳細は明らかではない644)。閉経期女性ではホルモン補充療法は血圧に影響しないと考えてよいが,高血圧の素因を有しているような場合には血圧が上昇することもあるので645),数か月に1回の血圧測定を行い経過を観察する必要がある646)。WHI(Women's Health Initiative)報告では閉経後女性においてエストロゲンは心血管イベントを増加させたことから643),最近では少量の慎重使用が推奨され,高血圧をきたすことはまれであると考えられる647)。本邦でのホルモン補充療法において,エストロゲンに併用する黄体ホルモンとして用いられているのは酢酸メドロキシプロゲステロンであり,血圧への影響は少ないと考えられている。
ここで注目すべきはレニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬に対する反応が,男女で異なっている点である。すなわち男性のほうが女性よりもRA系阻害薬による降圧がしやすい可能性がある648)。この明確な理由は不明であるが,女性の場合,更年期になってエストロゲンとプロゲステロンとのバランスが崩れ,水分貯留が起こりやすくなり,いわゆる食塩依存性高血圧に近い形の高血圧症となっている可能性があげられる649)。このことから,利尿薬が第一選択薬となる可能性もあるが,現時点では,更年期女性ではどのような降圧薬が適しているのか,あるいはどのような降圧目標にすべきなのかは今後の検討課題である650)。さらに最近では男性と同様に更年期女性でも,肥満が心血管系および代謝系異常とともに子宮体癌や乳癌などのエストロゲン依存性腫瘍発生の高リスクとされている651)。またさらに,妊娠高血圧症候群の既往が更年期女性の高血圧や腎症の発症に強く関連していることが明らかにされつつある652),653),654)。
ここで注目すべきはレニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬に対する反応が,男女で異なっている点である。すなわち男性のほうが女性よりもRA系阻害薬による降圧がしやすい可能性がある648)。この明確な理由は不明であるが,女性の場合,更年期になってエストロゲンとプロゲステロンとのバランスが崩れ,水分貯留が起こりやすくなり,いわゆる食塩依存性高血圧に近い形の高血圧症となっている可能性があげられる649)。このことから,利尿薬が第一選択薬となる可能性もあるが,現時点では,更年期女性ではどのような降圧薬が適しているのか,あるいはどのような降圧目標にすべきなのかは今後の検討課題である650)。さらに最近では男性と同様に更年期女性でも,肥満が心血管系および代謝系異常とともに子宮体癌や乳癌などのエストロゲン依存性腫瘍発生の高リスクとされている651)。またさらに,妊娠高血圧症候群の既往が更年期女性の高血圧や腎症の発症に強く関連していることが明らかにされつつある652),653),654)。