(旧版)高血圧治療ガイドライン2009
第8章 高齢者高血圧
3.診断
1)血圧動揺性を考慮した診断
高齢者高血圧では,血圧の動揺性が著しいために診断,治療に際しては日を替えて繰り返し血圧を測定し,常に高いことを確認する必要がある。起立性低血圧の頻度が増すため,立位血圧(起立直後3分以内)の測定が重要で,治療開始前,治療開始後に必ず行う。触診法による血圧測定を併用し,偽性高血圧や聴診間隙を見逃さないようにする。日常臨床において,血圧動揺性,白衣高血圧,早朝高血圧,仮面高血圧(逆白衣高血圧)を判定するには家庭血圧測定や24時間自由行動下血圧測定が有用である。高齢者(平均年齢70歳)を対象とした研究では,仮面高血圧の心血管リスクが高いことが報告されている107)。
2)二次性高血圧の鑑別
二次性高血圧,特に粥状硬化による腎血管性高血圧や,内分泌性高血圧の原発性アルドステロン症に注意が必要である。短期間での顕著な血圧上昇や血圧コントロールの悪化,治療抵抗性高血圧で注意を要する。腹部血管雑音の聴取は腎血管性高血圧を診断する参考になる。ACE阻害薬やARBで急速な腎機能低下がみられた場合は,両側性の腎血管性高血圧を疑う。低K血症傾向を認めた場合は原発性アルドステロン症を疑う。薬剤誘発性高血圧にも注意が必要である。
3)標的臓器障害や合併症の診断
脳,心,腎における標的臓器障害の有無は一般成人の高血圧と同様,治療方針,薬物の選択上重要である。特に高齢者においては,無症候性の臓器障害を複数有することが少なくなく,潜在的な合併症の発見に努める。虚血性心疾患合併の収縮期高血圧患者では,拡張期血圧の低下にも注意するべきであるという報告や578),両側頸動脈狭窄が75%以上認められる症例では,降圧により脳卒中のリスクが増すという報告358)があり,特に注意を要する。合併症の診断と治療の関係では,呼吸器系疾患(特に閉塞性肺疾患)や代謝合併症(糖尿病,脂質異常症,低K血症)などの有無は降圧薬の選択上も重要である。