(旧版)高血圧治療ガイドライン2009

 
第8章 高齢者高血圧


1.高齢者高血圧の特徴

日本は,65歳以上の高齢者人口が全体の約21%と超高齢社会を迎え,75歳以上の人口も約10%である。高血圧は加齢とともに増加し,本邦の国民健康・栄養調査(平成18年;2006年)によれば,60歳代の61%,70歳以上の72%が高血圧に罹患している40)
加齢とともに収縮期血圧は上昇し,拡張期血圧はむしろ低下傾向にある。このため脈圧の開大が著しくなる。高齢者における収縮期血圧の上昇および脈圧の開大は,心血管病のリスクとして重要である。脈圧の開大は,動脈硬化の進展に伴う大動脈壁の伸展性低下によるWindkessel(ふいご)機能の低下によるものである。60歳以上の高齢者を対象として検討した久山町研究によれば,収縮期血圧140mmHg以上,拡張期血圧80mmHg以上で心血管病の累積罹患率が有意に高くなっている9)
高齢者高血圧の血行動態的特徴は,動脈硬化と血管の弾性低下,圧受容器反射能の低下,左室壁肥大と拡張能低下,体液量調節障害などがあげられる。これらの結果,主要臓器血流量や予備能が低下する。さらに標的臓器の血流自動調節能(autoregulation)が障害され,血圧下限値(lower limit)が高血圧側にシフトする。そのため,短時間かつ急激に降圧した場合,これら臓器の血流障害をもたらす可能性があるので緩徐な降圧が必要となる。過度な降圧による腎前性の腎機能悪化や副作用の発現も同様に注意を要する。しかしながら,後述するように降圧による長期のイベント抑制や臓器障害進展抑制の効果は明らかであり,高齢者においても積極的な降圧が求められる。
代謝面での特徴としては,電解質ホメオスタシスの易破綻性(特に低Na血症や低K血症の易発現性),加齢に伴うインスリン抵抗性の増大ならびに耐糖能障害の増加が重要である。
高齢者高血圧の血圧値に関する特徴は,[1]収縮期血圧の増加と脈圧の開大,[2]血圧の動揺性,[3]起立性低血圧や食後血圧降下例の増加,[4]血圧日内変動で夜間非降圧型non-dipperの増加,[5]早朝の昇圧(morning surge)例の増加,[6]白衣高血圧の増加,[7]聴診間隙(コロトコフ音の欠失)のみられる症例の存在,[8]偽性高血圧の存在(直接法と解離して,マンシェット法ではみかけ上高く測定される。ただし本邦での検討では頻度は低い)などがある。これらの背景には加齢に伴う神経系(圧受容器反射の障害,β受容体機能の低下など)および体液性血圧調節機構(レニン・アンジオテンシン系の低下,カリクレイン・キニン系,プロスタグランジン系,腎ドパミン系の低下)など昇圧系,降圧系,両系の障害が関与している。

 

 
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