(旧版)高血圧治療ガイドライン2009

 
第7章 他疾患を合併する高血圧


POINT 7c

【閉塞性睡眠時無呼吸症候群】
  • 睡眠時無呼吸症候群は,肥満とともに増加し,メタボリックシンドロームの高リスク群として,今後,本邦でも増加する二次性高血圧の背景病態と考えられる。
  • 本邦の睡眠時無呼吸症候群の特徴として,小顎症など顔面骨格の特徴による非肥満例も多い。
  • 昼間の眠気を訴える典型的な肥満患者はもとより,夜間尿,夜間呼吸困難,夜間発症の心血管イベントや,治療抵抗性高血圧,特に治療抵抗性早朝高血圧,正常血圧にもかかわらず左室肥大を示す例では,積極的に睡眠時無呼吸症候群を疑う。
  • 睡眠時無呼吸症候群では,夜間低酸素発作時に血圧変動性を伴う“non-dipper・riser型”夜間高血圧を示し,その夜間高血圧は早朝へ持続し,「早朝高血圧」として検出されることが多い。
  • 重症睡眠時無呼吸症候群を合併するI度,II度の高血圧患者では,まず持続性陽圧呼吸療法を行う。
  • 降圧目標レベルは,胸部大動脈や心臓への睡眠時胸腔内陰圧負荷の増大を加味して,特に夜間血圧を含めた,より厳格な降圧療法を行う。




5.睡眠時無呼吸症候群

閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は,夜間睡眠中に吸気時の上気道虚脱による気流停止から,周期的な低酸素血症を繰り返す疾患であるが,こうした病態は,近年,夜間の心臓突然死に加え,虚血性心疾患や心不全などの循環器疾患,および無症候性脳梗塞を含む脳血管疾患のリスクとなることで注目を集めている533),534)。さらに,OSASは高血圧の成因ともなり,二次性高血圧の最も多い要因の一つである533)。OSASは,メタボリックシンドロームの高リスク群535),536),537)として,今後,本邦でも増加する疾患と考えられ,これを適切に診断・治療することは,より効率的な高血圧診療を行ううえでもきわめて大きな意義がある。
OSASは肥満とともに増加するが,本邦のOSASの特徴として,小顎症など顔面骨格の特徴による非肥満例も多い538)。昼間の眠気,集中力の低下,抑うつ状態,いびきなどの症状がある典型的な肥満高血圧の場合はもちろんのこと,高血圧患者では自覚症状がない場合も多く,夜間尿,夜間呼吸困難(窒息感),夜間発症の心血管イベント(心筋梗塞,脳卒中,急性大動脈解離,上室性・心室性不整脈など)の既往や,治療抵抗性高血圧,特に治療抵抗性早朝高血圧,正常血圧にもかかわらず左室肥大などを有する例では,OSASを積極的に疑うことが大切である(表7-3533),539),540),541),542)。OSASの診断と重症度分類は睡眠ポリグラフィーにより,無呼吸・低呼吸指数(apnea-hypopnea index:1時間当たりの無呼吸・低呼吸数)が5-15を軽度,15-30を中等度,30以上を重度OSASとしている。
OSASの高血圧の特徴としては,昼間の血圧も上昇するが,特に夜間に血圧高値を示す夜間高血圧・nondipper型を示すことが多く,その血圧高値は早朝へ持続し,家庭血圧でしばしば「早朝高血圧」として検出される543),544),545)。OSASが高血圧や血圧変動性を増大させる機序は多彩であり,交感神経活性543),546)やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系の活性化547),酸化ストレス548),549)や炎症反応の増加550),レプチン抵抗性551)やインスリン抵抗性552)などが,複合的に関与していると考えられている。さらに,OSASの夜間高血圧・non-dipperの特徴として,無呼吸発作時に著明な夜間血圧のサージを示し,夜間発症の心血管イベントの誘因となる可能性がある553)。最近,動脈硬化が生じていない小児のOSAS患者において,血圧モーニングサージが増強していることも示されており554),OSAS患者では夜間低酸素血症による血管反応性や化学受容体感受性の亢進により,交感神経刺激などによる昇圧反応が亢進し,血圧変動が増大し,心血管リスクの増加につながる可能性がある。
治療に関しては,中等度・重症OSASを合併するI度,II度の高血圧患者では,まず持続性陽圧呼吸(CPAP)療法を行う。これまでの報告では,CPAP療法により大半の患者で降圧効果が得られ555),556),夜間の血圧サージは低下し553),心血管予後も改善することが示されている557),558)。しかし,昼間の眠気の乏しいOSAS患者ではCPAPによる日中血圧の降圧効果が乏しい場合もあり,CPAP治療の継続率も低い559),560)。CPAPを行えないOSAS高血圧患者では,心血管疾患発症リスクが高いままであると考え,降圧目標レベルは,胸部大動脈や心臓への無呼吸発作時の胸腔内陰圧負荷の増大(80mmHgに達することがある)を加味し,特に夜間血圧を含めたより厳格な降圧療法を行うことが望ましい。CPAPを施行できないOSASを伴う高血圧患者に対する降圧薬の種類に関する明確なエビデンスはない。少数例の検討では,Ca拮抗薬,ACE阻害薬,ARB,利尿薬に比較して,β遮断薬は診察室拡張期血圧が有意に低下した。また,β遮断薬では,昼間・覚醒時血圧の低下度に各薬剤と差はないが,夜間収縮期・拡張期血圧は,Ca拮抗薬,ACE阻害薬,ARBよりも有意に低下した(利尿薬との有意差はなし)561)。しかし,β遮断薬を含めて降圧薬の単剤投与では,昼間血圧は低下するものの,夜間睡眠中血圧のコントロールは難しいとする報告もあり562),β遮断薬の有効性に一定の見解は得られていない。臓器障害の抑制の観点からは,OSAS患者,特に肥満の合併例では,RAA系が亢進し,左室肥大の合併が多いことから,RA系阻害薬が有用であると考えられる。心不全を合併するOSAS高血圧患者では,利尿薬投与により,喉頭浮腫が改善し,OSASの改善が期待できる563)。一方,ACE阻害薬で空咳が生じるOSAS患者では,咳により上気道に炎症が生じてOSAS自体を悪化させる可能性も指摘されている564)


表7-3.閉塞性睡眠時無呼吸症候群を疑う所見
症状 昼間の眠気,集中力の低下,抑うつ状態,起床時・朝方の不定愁訴(頭痛,倦怠感),強いいびき,頻回の夜間覚醒や夜間尿,夜間呼吸困難(窒息感)
身体所見 肥満,小顎症
検査所見 治療抵抗性早朝高血圧(夜間高血圧を含む)
左室肥大(特に診察室血圧と家庭血圧が正常例)
夜間発症の心血管イベント(心房細動・心室性不整脈を含む)
メタボリックシンドローム

 

 
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