(旧版)高血圧治療ガイドライン2009
第7章 他疾患を合併する高血圧
POINT7b |
【メタボリックシンドローム】
- メタボリックシンドロームは,本邦においても心血管疾患発症の重要な要因であり,高血圧治療上,内臓脂肪型肥満是正やインスリン抵抗性改善に対する配慮が必要であり,ARB,ACE阻害薬が推奨される。
- 特定健診・特定保健指導における階層化において,I度以上の高血圧で中等・高リスクでは直ちに受診勧奨とする。I度高血圧で低リスクの場合では,情報提供となるが,その場合には高血圧の診断を伝えると同時に,生活習慣の修正を指導する。
4.メタボリックシンドローム
高血圧,脂質異常症(高トリグリセライド血症,低HDLコレステロール血症),肥満,糖代謝異常の合併は,虚血性心疾患をはじめとする動脈硬化性疾患のリスクを相乗的に増加させることが,多くの疫学研究から明らかにされている。そして,これら危険因子となる疾患の共通の背景因子としてインスリン抵抗性が関与し,multiplerisk factor症候群,インスリン抵抗性症候群,内臓脂肪症候群など多くの名称で呼ばれてきたが,最近は,米国NationalCholesterol Education Program(NCEP)ATP-III(2001年)で提唱されたメタボリックシンドローム531)が一般的な呼称となっている。NCEP-ATPIIIでは,血圧高値(130/85mmHg以上),耐糖能異常(空腹時血糖110mg/dL以上),内臓脂肪型肥満(腹囲で男性102cm以上,女性88cm以上),高トリグリセライド血症(150mg/dL以上),低HDLコレステロール血症(男性40mg/dL未満,女性50mg/dL未満)の5つの危険因子のうち3つ以上を有することを,メタボリックシンドロームの臨床診断基準としている。
本邦における診断基準については,日本高血圧学会を含む関連8学会合同委員会より,2005年4月に提唱されている146)。その基準を表7-1に示す。腹囲基準として国際糖尿病連盟(IDF)では,アジア人の基準値を男性90cm以上,女性80cm以上と提唱している。メタボリックシンドロームを合併した高血圧とは,本邦の基準では,内臓脂肪型肥満を合併した高血圧で,さらに糖代謝異常,脂質代謝異常の少なくとも1つを合併したものとなる。メタボリックシンドロームの標的疾患としては,心血管疾患と糖尿病がある。端野・壮瞥町研究では,前者は1.87倍516),後者は2.17倍532)有意に高くなっている。治療の方針を表7-2に示す。メタボリックシンドロームでも糖尿病の有無で治療方針は変わる。糖尿病のない場合には,140/90mmHg以上で降圧薬治療となるが,130-139/85-89mmHgでは生活習慣の改善のみとなる。降圧目標は130/85mmHg未満となる。糖尿病がある場合には,メタボリックシンドロームでも130/80mmHg以上より降圧薬治療となり,降圧目標は130/80mmHg未満である。治療の原則は,食事・運動療法による内臓脂肪型肥満の是正である。降圧薬を用いる場合には,インスリン抵抗性を改善する降圧薬が望ましい。インスリン抵抗性を改善する薬剤としては,ARB,ACE阻害薬,Ca拮抗薬,α遮断薬があげられる。糖尿病新規発症抑制はインスリン抵抗性改善と関連するが,そのようなエビデンスはARB,ACE阻害薬で証明されている。Ca拮抗薬でも抑制の証明はあるが,VALUE221),CASE-J218)やALLHAT328)に示されるようにARBやACE阻害薬に比べると有意に劣ることより,ARBやACE阻害薬などRA系阻害薬がまず推奨される。ただし,メタボリックシンドローム合併高血圧の心血管疾患発症予防におけるRA系阻害薬の確固としたエビデンスはない328)。
本邦における診断基準については,日本高血圧学会を含む関連8学会合同委員会より,2005年4月に提唱されている146)。その基準を表7-1に示す。腹囲基準として国際糖尿病連盟(IDF)では,アジア人の基準値を男性90cm以上,女性80cm以上と提唱している。メタボリックシンドロームを合併した高血圧とは,本邦の基準では,内臓脂肪型肥満を合併した高血圧で,さらに糖代謝異常,脂質代謝異常の少なくとも1つを合併したものとなる。メタボリックシンドロームの標的疾患としては,心血管疾患と糖尿病がある。端野・壮瞥町研究では,前者は1.87倍516),後者は2.17倍532)有意に高くなっている。治療の方針を表7-2に示す。メタボリックシンドロームでも糖尿病の有無で治療方針は変わる。糖尿病のない場合には,140/90mmHg以上で降圧薬治療となるが,130-139/85-89mmHgでは生活習慣の改善のみとなる。降圧目標は130/85mmHg未満となる。糖尿病がある場合には,メタボリックシンドロームでも130/80mmHg以上より降圧薬治療となり,降圧目標は130/80mmHg未満である。治療の原則は,食事・運動療法による内臓脂肪型肥満の是正である。降圧薬を用いる場合には,インスリン抵抗性を改善する降圧薬が望ましい。インスリン抵抗性を改善する薬剤としては,ARB,ACE阻害薬,Ca拮抗薬,α遮断薬があげられる。糖尿病新規発症抑制はインスリン抵抗性改善と関連するが,そのようなエビデンスはARB,ACE阻害薬で証明されている。Ca拮抗薬でも抑制の証明はあるが,VALUE221),CASE-J218)やALLHAT328)に示されるようにARBやACE阻害薬に比べると有意に劣ることより,ARBやACE阻害薬などRA系阻害薬がまず推奨される。ただし,メタボリックシンドローム合併高血圧の心血管疾患発症予防におけるRA系阻害薬の確固としたエビデンスはない328)。
表7-1.メタボリックシンドロームの診断基準 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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表7-2.メタボリックシンドローム合併高血圧の治療 | ||||
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- *血糖値異常と脂質代謝異常の両者を有する場合は高リスク群のため,生活習慣の修正から開始し,目標血圧に達しない場合に降圧薬治療を考慮する
1)特定健診・特定保健指導における血圧管理
2008年(平成20年)4月より,特定健診・保健指導が実施されている。2007年(平成19年)4月に健診・保健指導実施に対する標準的な健診・保健指導プログラム(確定版)が厚生労働省より提示され,各保険者団体やアウトソーシングによる受け皿となる医療機関で準備してきた。
本健診・保健指導は,メタボリックシンドロームの概念を取り入れて保健指導の対象者を選定し,保健指導によって生活習慣を改善して生活習慣病を予防するとしている。本邦において増加しつつある心血管疾患の一次予防にあたって,内臓脂肪型肥満を中心に,糖代謝異常,血圧高値,脂質代謝異常を是正するという戦略で大きな意義があり,高血圧の予防,治療対策としても大いに期待できるものと考える。日本高血圧学会としては,特定健診・保健指導の実施を円滑に進めるために,できるかぎりの支援・協力をしたいと考えている。
最終案に示されているプログラムのなかで,特に高血圧対策の実施にあたり,より詳細に補完する立場から,高血圧学会の見解を示すものである。
本健診・保健指導は,メタボリックシンドロームの概念を取り入れて保健指導の対象者を選定し,保健指導によって生活習慣を改善して生活習慣病を予防するとしている。本邦において増加しつつある心血管疾患の一次予防にあたって,内臓脂肪型肥満を中心に,糖代謝異常,血圧高値,脂質代謝異常を是正するという戦略で大きな意義があり,高血圧の予防,治療対策としても大いに期待できるものと考える。日本高血圧学会としては,特定健診・保健指導の実施を円滑に進めるために,できるかぎりの支援・協力をしたいと考えている。
最終案に示されているプログラムのなかで,特に高血圧対策の実施にあたり,より詳細に補完する立場から,高血圧学会の見解を示すものである。
(1) 診断基準について
血圧130/85mmHg以上をもって保健指導判定値としているが,この値は正常高値血圧の基準値で,世界的にも同一の基準が用いられている。本邦においても正常高値血圧から心血管疾患リスクも増加するなど疫学的にはエビデンスが得られているところで,この基準値を支持する。
(2) 血圧測定法
血圧の測定法であるが,ガイドラインに示す,安定した2回の血圧(差が5mmHg以内)の平均をとるという方法は,健診においては必ずしも容易でないことは理解できる。国民健康栄養調査・循環器疾患基礎調査で用い,今回のプログラムでも用いている2回の血圧測定で平均をとることに同意したい。なお,家庭血圧計は上腕カフ・オシロメトリック法を用いる。
(3) 家庭血圧値の応用
プログラムにも記載されているが,血圧は変動が大きいものであり,健診時にも白衣高血圧の効果は出る可能性がある。本来の血圧値を把握するためにも,家庭血圧の値を参考にすることが望ましい。そこで,アンケートをとる際に,あるいは血圧を測定する際に,家庭血圧を測っているかどうかの確認とその際の血圧値を記録に残すことを提案したい。JSH2004では,家庭血圧値は135/85mmHg以上で高血圧とされ,125/80mmHg未満が正常血圧とされている。したがって,日本高血圧学会が勧めている方法に準拠して測定された家庭血圧が125/80mmHg未満の場合,健診時の血圧が130/85mmHg以上であっても白衣効果とみなし,血圧高値とは判定しないという判断基準とする。その後の健診や保健指導を行う場合には,測定血圧値に加えて家庭血圧値も参考にして判断することとなる。
一方で,健診時血圧が130/85mmHg未満であっても,家庭血圧が125/80mmHg以上の場合は,血圧高値と判断し,血圧基準は満たしているものとする。特に家庭血圧135/85mmHg以上の場合は,仮面高血圧であり,高血圧と同等の心血管疾患高リスクな状態と判断して,高血圧対策を開始すべきである。
一方で,健診時血圧が130/85mmHg未満であっても,家庭血圧が125/80mmHg以上の場合は,血圧高値と判断し,血圧基準は満たしているものとする。特に家庭血圧135/85mmHg以上の場合は,仮面高血圧であり,高血圧と同等の心血管疾患高リスクな状態と判断して,高血圧対策を開始すべきである。
(4) 受診勧奨について
本プログラムでは,140/90mmHg以上の高血圧を受診勧奨判定値としている。この値は高血圧の基準値であり,保険診療を考慮しても矛盾はない。一方で,本邦の高血圧治療ガイドライン(JSH2009)では,140-159/90-99mmHgのI度高血圧の場合,糖尿病や腎障害の合併症がない場合には,直ちに薬物療法を勧めているわけではない。JSH2009では,表2-8に示すように心血管リスクの層別化を行っており,リスクは表2-7に示す。そして,リスク別の高血圧治療の方針を図3-1に示す。低リスクのI度高血圧では,3か月の生活習慣改善(食塩制限,肥満是正と運動療法)を行い,その後血圧が140/90mmHg未満にならない場合に薬物療法に入るとしている。
JSH2009の立場での受診勧奨を含めた血圧管理の方針を図7-2にまとめる。160/100mmHg以上のII度高血圧以上では,直ちに受診勧奨すべきである。140-159/90-99mmHgのI度高血圧では,糖尿病,腎障害などがある高リスクでは,直ちに受診勧奨すべきである。心血管リスクの立場からは,心血管疾患の危険因子が1つ以上ある中等リスク以上(メタボリックシンドロームに合致する場合を含む)では,血圧が140/90mmHg以上ということもあり,受診勧奨とする。当然であるが,この判断にあたり,家庭血圧も参考にして,125/80mmHg未満であれば白衣高血圧であり,高血圧と判断する必要はない。
一方,140-159/90-99mmHgで危険因子ゼロの低リスク対象については,JSH2009ガイドラインによれば原則として受診勧奨となる。しかしながら,前述のように,低リスクのI度高血圧の場合,直ちに降圧薬療法に入らず,生活習慣の改善から治療を開始することになっている。このように危険因子ゼロの低リスクI度高血圧患者では,直ちに受診勧奨する必要はなく,本来の選定対象と異なってはいるが,むしろ特定保健指導のプログラムに沿って,生活習慣の修正と血圧のチェックを行うことが望ましい。ただし現状では肥満がないため選定対象とはならず情報提供となるが,情報提供にあたっては,高血圧であることを伝えるとともに,減塩,食事療法,運動療法の生活習慣改善を提示し,家庭血圧や職場血圧を参考にして,少なくとも3か月ごとに血圧測定し,家庭血圧で135/85mmHg以上の場合には診療機関を受診するように勧める。それ以下の場合には,生活習慣改善を継続しつつ翌年の健診を受けることとなる。
いずれにしても,最終的には,健診の結果を判定する医師の総合的判断によることになるが,日本高血圧学会より提言されている図7-2に示す血圧管理の方針を参考にして,受診勧奨するか情報提供にするかを判定することになる。
一方,特定保健指導の対象とならない人についても,市町村が実施する健康増進事業において対応することが可能であり,特定保健指導に低リスクI度高血圧患者が認められるようになるまでは,市町村が行う高血圧に関する個別健康教育などにより,必要な指導の実施を勧める。その際,3か月で140/90mmHg未満にならない対象においては,受診を勧奨する。
JSH2009の立場での受診勧奨を含めた血圧管理の方針を図7-2にまとめる。160/100mmHg以上のII度高血圧以上では,直ちに受診勧奨すべきである。140-159/90-99mmHgのI度高血圧では,糖尿病,腎障害などがある高リスクでは,直ちに受診勧奨すべきである。心血管リスクの立場からは,心血管疾患の危険因子が1つ以上ある中等リスク以上(メタボリックシンドロームに合致する場合を含む)では,血圧が140/90mmHg以上ということもあり,受診勧奨とする。当然であるが,この判断にあたり,家庭血圧も参考にして,125/80mmHg未満であれば白衣高血圧であり,高血圧と判断する必要はない。
一方,140-159/90-99mmHgで危険因子ゼロの低リスク対象については,JSH2009ガイドラインによれば原則として受診勧奨となる。しかしながら,前述のように,低リスクのI度高血圧の場合,直ちに降圧薬療法に入らず,生活習慣の改善から治療を開始することになっている。このように危険因子ゼロの低リスクI度高血圧患者では,直ちに受診勧奨する必要はなく,本来の選定対象と異なってはいるが,むしろ特定保健指導のプログラムに沿って,生活習慣の修正と血圧のチェックを行うことが望ましい。ただし現状では肥満がないため選定対象とはならず情報提供となるが,情報提供にあたっては,高血圧であることを伝えるとともに,減塩,食事療法,運動療法の生活習慣改善を提示し,家庭血圧や職場血圧を参考にして,少なくとも3か月ごとに血圧測定し,家庭血圧で135/85mmHg以上の場合には診療機関を受診するように勧める。それ以下の場合には,生活習慣改善を継続しつつ翌年の健診を受けることとなる。
いずれにしても,最終的には,健診の結果を判定する医師の総合的判断によることになるが,日本高血圧学会より提言されている図7-2に示す血圧管理の方針を参考にして,受診勧奨するか情報提供にするかを判定することになる。
一方,特定保健指導の対象とならない人についても,市町村が実施する健康増進事業において対応することが可能であり,特定保健指導に低リスクI度高血圧患者が認められるようになるまでは,市町村が行う高血圧に関する個別健康教育などにより,必要な指導の実施を勧める。その際,3か月で140/90mmHg未満にならない対象においては,受診を勧奨する。
表2-7.高血圧管理計画のためのリスク層別化に用いる予後影響因子 | ||||||||||||||||||||
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表2-8.(診察室)血圧に基づいた脳心血管リスク層別化 |
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図3-1.初診時の高血圧管理計画 |
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*正常高値血圧の高リスク群では生活習慣の修正から開始し,目標血圧に達しない場合に降圧薬治療を考慮する |
図7-2.特定健診・特定保健指導における血圧管理 |
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