(旧版)高血圧治療ガイドライン2009

 
第6章 臓器障害を合併する高血圧


POINT 6d

【血管疾患】
  • 急性大動脈解離は,迅速な降圧と鎮痛を必要とし,収縮期血圧を120mmHg未満にコントロールする。
  • 慢性期大動脈解離および大動脈瘤では,厳格な降圧療法と禁煙を指導し,再解離や大動脈径の変化を注意深く観察する。
  • 動脈硬化性末梢動脈閉塞症では,計画的な運動プログラムの実践が望まれる。また,厳格な降圧を含めた危険因子の除去により心血管イベントの予防が期待できる。




4.血管疾患
1)大動脈瘤
(1)大動脈解離

急性大動脈解離は高血圧緊急症の一つであり,迅速な降圧と鎮痛および絶対安静を必要とする。速やかな降圧作用のあるCa拮抗薬(ニカルジピン,ジルチアゼム),ニトログリセリン,ニトロプルシドとβ遮断薬を組み合わせて持続注入し,収縮期血圧を100-120mmHgに維持することが望ましいが,降圧目標値およびβ遮断薬の併用効果について明確なエビデンスはない500)。ジルチアゼムとβ遮断薬を併用する際には,徐脈に注意する必要がある。解離の部位や形態,分枝動脈の狭窄・閉塞による末梢循環障害の有無について経時的に綿密な観察を行い,必要に応じて手術を考慮する。
慢性期大動脈解離においては,降圧目標値および降圧薬の選択について,確立されたエビデンスは少ないものの,再解離および破裂の予防を目的として引き続き厳格な血圧のコントロールが望まれる。

(2)大動脈瘤
大動脈瘤はその多くが無症状であるため,健診や診察時に偶然発見されることが多い。しかしながらいったん破裂するとその死亡率はきわめて高く,たとえ切迫破裂で来院しても不安定な血行動態のためにその救命率は低い501)。したがって,大動脈瘤の診断後は,瘤径の拡大傾向を見逃さずに適切なタイミングで外科手術を考慮することが望ましい502)
胸部大動脈瘤に対する厳格な降圧治療は重要であり,収縮期血圧を105-120mmHgに維持することが望まれるが,降圧目標値についての確立されたエビデンスはない。降圧薬の選択については,マルファン症候群患者に対するβ遮断薬の投与が瘤径拡大の抑制に有効であったとする無作為化比較試験の報告がある503)。一方,小児のマルファン症候群患者18例において,ARBが瘤径の拡大抑制に有効であるとするコホート研究が最近報告された504)。マルファン症候群患者を対象にした,β遮断薬とARBの無作為化比較試験が現在,進行中である505)
一方,腹部大動脈瘤に対する厳格な降圧療法およびβ遮断薬の効果についての確立されたエビデンスはない。腹部大動脈瘤と診断されて入院した患者では,入院前よりACE阻害薬を内服していた患者の方が,入院時における瘤の破裂頻度が有意に低いことが最近の大規模な症例対照研究において報告された506)。動脈硬化が腹部大動脈瘤の成因に深く関与していることは疑いない。瘤の拡大や破裂を予防するための内科的治療法は大規模無作為化比較試験において確立されてはいないものの,禁煙の重要性は報告されている507)

2)動脈硬化性末梢動脈閉塞症
動脈硬化性血管病変による末梢循環障害は,その重症度に応じてFontaineI度(無症状,しびれ,冷感),II度(間欠性跛行),III度(安静時疼痛),IV度(壊疽・虚血性潰瘍)に分類される。治療の目的は,虚血症状の改善と高率に合併する脳・心血管イベントの予防である。監視下における計画的な運動プログラムの実践は,下肢虚血症状の改善に有効であることが報告されている508)。厳格な降圧は下肢虚血症状の改善に対して無効な場合が多く,禁煙をはじめとする危険因子の除去とともに,脳・心血管イベントの発症を予防するうえにおいて重要である509)。したがって,積極的な適応や禁忌もしくは慎重使用となる病態,合併症の有無に応じて適切な降圧薬を選択する(「第5章 降圧薬治療」 参照)。症状を伴った動脈硬化性末梢動脈閉塞症患者に対するACE阻害薬の投与は,脳・心血管イベントを約25%抑制したことが大規模無作為化比較試験において報告されている353)。またβ遮断薬はこれまで下肢虚血症状を増悪させるとされてきたが,間欠性跛行を示す患者での無作為試験で,安全に使用できることが示された510)。合併頻度の高い心不全や虚血性心疾患の病態を考慮しながらの使用は可能である。重症例では経皮経管的血管形成術,外科的血管再建術や血管再生医療が選択可能な場合もあるため,専門医に紹介することが望ましい。

 

 
ページトップへ

ガイドライン解説

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す

診療ガイドライン検索

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す