(旧版)高血圧治療ガイドライン2009
第6章 臓器障害を合併する高血圧
POINT 6c |
【腎疾患】
- 慢性腎臓病(CKD)患者は心血管事故のリスクが高く,早期発見がきわめて重要である。早期発見のため,全高血圧患者で検尿とeGFR(推算GFR)の算出を行う。
- アルブミン尿は腎障害の進展と心血管疾患の発症に密接に関連し,アルブミン尿の減少は心腎同時保護に重要である。
- 降圧療法の3原則は,[1]降圧目標の達成,[2]レニン・アンジオテンシン系の抑制,[3]尿アルブミン,尿蛋白の減少・正常化である。
- 生活習慣では禁煙,食塩制限,適正体重の維持,および腎機能に応じた蛋白制限を行う。運動は腎機能に応じた指導を行う。
- 降圧目標は130/80mmHg未満,尿蛋白が1g/日以上なら125/75mmHg未満とする。
- ACE阻害薬,または,ARBが第一選択薬となり,尿アルブミン排泄量を指標として増量する。血清クレアチニン2.0mg/dL以上では少量から使用し,血清クレアチニン値やK値の上昇に注意する。
- 多くの場合,利尿薬やCa拮抗薬との多剤併用療法が必要となる。利尿薬の使用においては,GFRが30mL/分/1.73m2以上ではサイアザイド系利尿薬,30未満ではループ利尿薬を用いる。
- 透析患者の降圧薬の選択時には,薬物代謝,排泄経路,透析性に注意する。
3.腎疾患
1)腎機能と血圧
高血圧は腎臓に対して機能的あるいは器質的な変化を早期から多少なりとも及ぼしている。一方,腎障害は高血圧の原因にもなりうる。高血圧と腎臓は相互に密接に関連し,高血圧は腎機能障害を悪化させ,腎機能障害が起こると高血圧がさらに増悪するという悪循環を形成する。したがって,原疾患の治療とともに血圧の厳格な管理が重要となる。
腎機能は30歳代から加齢とともに低下し,通常GFRは年間約1mL/分の割合で減少するとされているが,日本の健診受診者のデータから推測される加齢によるGFRの低下はきわめて小さい(0.3mL/分/年程度)と報告されている421)。一方,高血圧を合併する場合は4-8mL/分/年の低下にもなりうる422)。腎不全の発症と血圧値の間にJ型現象は存在せず,末期腎不全の発症は至適血圧で最も少なく,血圧が上昇するにつれて高率となる423),424)。
本邦の慢性透析患者の主な原疾患は糖尿病性腎症,慢性糸球体腎炎および腎硬化症である。慢性透析患者数は増加の一途をたどっているが,その主な原因は糖尿病性腎症と腎硬化症であり,近年,慢性糸球体腎炎による新規透析導入患者は減少し始めている158)。慢性腎臓病(CKD)患者は自覚症状に乏しく,また,進行した腎機能障害から末期腎不全への進展を阻止することは困難である。したがって,腎障害の存在を早期に発見し,治療することが肝要である。
腎機能は30歳代から加齢とともに低下し,通常GFRは年間約1mL/分の割合で減少するとされているが,日本の健診受診者のデータから推測される加齢によるGFRの低下はきわめて小さい(0.3mL/分/年程度)と報告されている421)。一方,高血圧を合併する場合は4-8mL/分/年の低下にもなりうる422)。腎不全の発症と血圧値の間にJ型現象は存在せず,末期腎不全の発症は至適血圧で最も少なく,血圧が上昇するにつれて高率となる423),424)。
本邦の慢性透析患者の主な原疾患は糖尿病性腎症,慢性糸球体腎炎および腎硬化症である。慢性透析患者数は増加の一途をたどっているが,その主な原因は糖尿病性腎症と腎硬化症であり,近年,慢性糸球体腎炎による新規透析導入患者は減少し始めている158)。慢性腎臓病(CKD)患者は自覚症状に乏しく,また,進行した腎機能障害から末期腎不全への進展を阻止することは困難である。したがって,腎障害の存在を早期に発見し,治療することが肝要である。
2)慢性腎臓病(CKD)と心血管疾患
腎機能低下や尿蛋白は末期腎不全のリスクであることはよく知られているが181),425),426),427),最近,これらは心血管疾患の強力なリスクでもあることが明らかにされた15),16),151),152),428),429)。そこで,腎障害の早期発見・早期介入により,腎不全とともに心血管病の発症を阻止することを目的に,CKDの概念が導入された430)。CKDの定義とステージ分類,および日本腎臓学会が策定したイヌリンクリアランスに基づいた日本人のeGFR(推算GFR)の計算式を示す(表6-3)182)。注目すべきは,CKD患者における心血管病の発症や死亡率が末期腎不全発症の数倍から数十倍にもなることである428)。CKDの早期発見のために,すべての高血圧患者でeGFRを算出し,かつ検尿を行うべきである。尿蛋白の定性反応が1+以上であれば,尿クレアチニンとの比で定量的に評価し,また,糖尿病性腎症では尿アルブミン排泄量を尿クレアチニン値との比で評価すべきである。
CKDが心血管病のリスクであることは,心不全431),心筋梗塞432),糖尿病433),高血圧434)や高齢者435)ではもちろんのこと,一般住民15),16),151),152),428),429),436)でも明らかにされている。CKDのリスクは高血圧,脂質異常症,糖尿病などの古典的危険因子で補正しても有意であり,CKDそのものが心血管病の発症に関与すると考えられる。その機序として,酸化ストレス,炎症,Ca-P代謝異常などが考えられ,これらは非古典的危険因子と呼ばれている430)。心血管病とCKDには何らかの共通基盤があり,かつ,CKDでは不顕性の心血管病が存在する可能性が高い437)。実際,心疾患の既往がない透析導入患者では,約半数で冠動脈に50%以上の狭窄が認められている438)。
微量アルブミン尿は,糖尿病において顕性腎症や死亡のリスクであることが判明しているが439),440),最近,高血圧患者や一般住民においても心血管病発症の強力な予測因子となることが明らかにされた441),442)。さらに,10mg/gクレアチニン(Cr)程度のアルブミン尿でも,ラクナ梗塞などの心血管合併症の頻度が高く443),かつ,生命予後が不良となることが報告されている148),184),441),444)。病初期に尿中にアルブミンが出現することのない病態(高血圧や糖尿病)では,ごく少量でも尿中にアルブミンが出現することは大きな病的意味をもつ。ESH-ESC 2007ガイドラインでは「微量アルブミン尿という言葉は,存在する病変が軽微であるかのように誤解を与えるので,適切な呼称ではない」と述べられている85)。アルブミン尿は血管内皮機能障害と相関し,かつ,腹部肥満や血圧の食塩感受性との関連が深いが,アルブミン尿と心血管病を関連づける機序の詳細は不明である。
疫学研究でCKD患者が予想以上に多いことが明らかになった。米国ではステージ3以上の患者数は成人人口の8.1%445),本邦でも約10%にのぼると予想されている(いずれも透析患者を除く)。現在日本は急速に高齢化社会へと進む一方,肥満,高血圧,糖尿病などの生活習慣病を有する患者が増加しており,CKDの早期発見・早期の対策および予防が重要である。
表6-3.GFRの推算式,CKDの定義およびCKDのステージ分類
日本人のGFR推算式182)
CKDの定義*
CKDのステージ分類*
透析患者(血液透析,腹膜透析)の場合にはD,移植患者の場合にはTをつける。
*日本腎臓学会編.CKD診療ガイド.東京医学社.2007年から引用
CKDが心血管病のリスクであることは,心不全431),心筋梗塞432),糖尿病433),高血圧434)や高齢者435)ではもちろんのこと,一般住民15),16),151),152),428),429),436)でも明らかにされている。CKDのリスクは高血圧,脂質異常症,糖尿病などの古典的危険因子で補正しても有意であり,CKDそのものが心血管病の発症に関与すると考えられる。その機序として,酸化ストレス,炎症,Ca-P代謝異常などが考えられ,これらは非古典的危険因子と呼ばれている430)。心血管病とCKDには何らかの共通基盤があり,かつ,CKDでは不顕性の心血管病が存在する可能性が高い437)。実際,心疾患の既往がない透析導入患者では,約半数で冠動脈に50%以上の狭窄が認められている438)。
微量アルブミン尿は,糖尿病において顕性腎症や死亡のリスクであることが判明しているが439),440),最近,高血圧患者や一般住民においても心血管病発症の強力な予測因子となることが明らかにされた441),442)。さらに,10mg/gクレアチニン(Cr)程度のアルブミン尿でも,ラクナ梗塞などの心血管合併症の頻度が高く443),かつ,生命予後が不良となることが報告されている148),184),441),444)。病初期に尿中にアルブミンが出現することのない病態(高血圧や糖尿病)では,ごく少量でも尿中にアルブミンが出現することは大きな病的意味をもつ。ESH-ESC 2007ガイドラインでは「微量アルブミン尿という言葉は,存在する病変が軽微であるかのように誤解を与えるので,適切な呼称ではない」と述べられている85)。アルブミン尿は血管内皮機能障害と相関し,かつ,腹部肥満や血圧の食塩感受性との関連が深いが,アルブミン尿と心血管病を関連づける機序の詳細は不明である。
疫学研究でCKD患者が予想以上に多いことが明らかになった。米国ではステージ3以上の患者数は成人人口の8.1%445),本邦でも約10%にのぼると予想されている(いずれも透析患者を除く)。現在日本は急速に高齢化社会へと進む一方,肥満,高血圧,糖尿病などの生活習慣病を有する患者が増加しており,CKDの早期発見・早期の対策および予防が重要である。
表6-3.GFRの推算式,CKDの定義およびCKDのステージ分類
日本人のGFR推算式182)
- eGFR=194×Cr-1.094×年齢-0.287(女性は×0.739)
CKDの定義*
- [1]尿異常,画像診断,血液,病理で腎障害の存在が明らか 特に蛋白尿の存在が重要
- [2]GFR<60mL/分/1.73m2
- [1],[2]のいずれか,または両方が3か月以上持続する
CKDのステージ分類*
病期ステージ | 重症度の説明 | 進行度による分類 GFR(mL/分/1.73m2) |
高リスク群 | ≧90(CKDのリスクファクターを有する状態で) | |
1 | 腎障害は存在するが,GFRは正常または亢進 | ≧90 |
2 | 腎障害が存在し,GFR軽度低下 | 60-89 |
3 | GFR中等度低下 | 30-59 |
4 | GFR高度低下 | 15-29 |
5 | 腎不全 | <15 |
*日本腎臓学会編.CKD診療ガイド.東京医学社.2007年から引用
3)糖尿病性腎症
糖尿病性腎症は本邦における新規透析導入の原因疾患の第1位で,約40%を占めている。糖尿病性腎症の増加には,糖尿病患者の増加と,その受診率や診療継続率の低さが指摘されており,本邦における糖尿病患者の腎症合併率は約40%とされている446)。病期分類は尿中アルブミン排泄量を基準にされており,CKDのステージ分類とは一致しない。糖尿病患者のなかには正常アルブミン尿でもGFRが60mL/分/1.73m2未満の者もいる。2型糖尿病は高血圧患者で発症しやすいために,肥満や高血圧による腎障害が基盤にある症例も認められる。糖尿病性腎症患者は生命予後が不良で,特に,アルブミン尿が多いほど,そして,腎機能が低下しているほど死亡率が高い。尿中アルブミンとGFRを定期的にモニターする必要がある。
糖尿病性腎症の治療は危険因子の集約的治療にあり,降圧療法もCKDに準ずる。ただし,より積極的な降圧療法が有用である可能性があり,収縮期血圧で120mmHg以下までの降圧により,尿中アルブミン排泄量の減少が得られることが報告されている447),448)。最近,本邦においても集約的治療により,腎症の進展抑制のみならず寛解や退縮が得られること,寛解や退縮は腎不全のみならず心血管病の発症の抑制に密接に関連することが示された449)。また寛解や退縮には十分な降圧とともに,RA系阻害薬の投与が必須であることがSMART450)やINNOVATION451)で示された。特に,100-300mg/gクレアチニンの進行した微量アルブミン尿期では,高用量のARBが有効である451),452)。
糖尿病性腎症の治療は危険因子の集約的治療にあり,降圧療法もCKDに準ずる。ただし,より積極的な降圧療法が有用である可能性があり,収縮期血圧で120mmHg以下までの降圧により,尿中アルブミン排泄量の減少が得られることが報告されている447),448)。最近,本邦においても集約的治療により,腎症の進展抑制のみならず寛解や退縮が得られること,寛解や退縮は腎不全のみならず心血管病の発症の抑制に密接に関連することが示された449)。また寛解や退縮には十分な降圧とともに,RA系阻害薬の投与が必須であることがSMART450)やINNOVATION451)で示された。特に,100-300mg/gクレアチニンの進行した微量アルブミン尿期では,高用量のARBが有効である451),452)。
4)生活習慣の修正
現在,CKD患者の増加の背景には生活習慣の問題がある。肥満と食塩の過剰摂取はともに血圧依存性,および非依存性の機序を介して腎障害を加速する。CKDの治療において,生活習慣の修正は,最も基本的かつ重要な事項であり,適正体重の維持,減塩,禁煙が基本となる。
末期腎不全や蛋白尿の発症に肥満が関与し,減量により尿蛋白が減少すると報告されている453),454),455)。また,喫煙は尿蛋白および腎機能低下に悪影響を及ぼすことが,糖尿病性および非糖尿病性腎症で報告されている456),457)。CKD患者は心血管死の危険が高いことを考えると,適正な体重の維持と禁煙が基本である。
血圧の管理と腎機能障害の進展を抑制するのに食塩制限と蛋白制限が重要である458),459)。CKDを伴う高血圧患者では食塩感受性が亢進していることが多いので,減塩による降圧効果が特に期待できる。減塩によりACE阻害薬やARBの降圧効果および尿蛋白減少作用が増強される。食塩制限は保存期慢性腎不全では6g/日以下とし,難治性の高血圧や浮腫を合併する例では4-5g/日以下を目標とする。蛋白制限により腎不全進展や死亡の相対リスクが減少することが示されている460)。CKDステージ3以上(GFR 60mL/分/1.73m2未満)では0.6-0.8g/kg標準体重/日の蛋白制限を行う459)。
運動制限については腎機能に応じた指導をする。腎不全を伴う症例では腎血流量を低下させるような激しい運動や過労は避けるべきである458)。
末期腎不全や蛋白尿の発症に肥満が関与し,減量により尿蛋白が減少すると報告されている453),454),455)。また,喫煙は尿蛋白および腎機能低下に悪影響を及ぼすことが,糖尿病性および非糖尿病性腎症で報告されている456),457)。CKD患者は心血管死の危険が高いことを考えると,適正な体重の維持と禁煙が基本である。
血圧の管理と腎機能障害の進展を抑制するのに食塩制限と蛋白制限が重要である458),459)。CKDを伴う高血圧患者では食塩感受性が亢進していることが多いので,減塩による降圧効果が特に期待できる。減塩によりACE阻害薬やARBの降圧効果および尿蛋白減少作用が増強される。食塩制限は保存期慢性腎不全では6g/日以下とし,難治性の高血圧や浮腫を合併する例では4-5g/日以下を目標とする。蛋白制限により腎不全進展や死亡の相対リスクが減少することが示されている460)。CKDステージ3以上(GFR 60mL/分/1.73m2未満)では0.6-0.8g/kg標準体重/日の蛋白制限を行う459)。
運動制限については腎機能に応じた指導をする。腎不全を伴う症例では腎血流量を低下させるような激しい運動や過労は避けるべきである458)。
5)降圧薬治療(図6-1)
CKD患者の降圧療法の目的は,血圧を下げることにより,腎機能障害の進展を抑制・阻止し,かつ心血管病の発症や再発を予防することにある。CKD患者における降圧療法の3原則は以下のとおりである。[1]降圧目標の達成,[2]RA系の抑制,[3]尿アルブミン,尿蛋白排泄量を減少させ,できるだけ正常化を図る。
血圧が高ければ高いほど腎機能の低下速度は大きく422),腎機能低下を抑制するためには血圧の管理がきわめて重要である。無作為化比較試験のメタ解析によると,収縮期血圧130mmHg未満で末期腎不全の発症や血清クレアチニン値の倍増が抑制されたとしている13)。したがって,降圧目標を130/80mmHg未満とすべきである。さらに,MDRD研究461)によると,尿蛋白1g/日以上の場合は125/75mmHg未満を目標にすべきである。RA系阻害薬は尿アルブミンや尿蛋白排泄量を減少させ,全身血圧に依存しない腎保護効果があるとされるが,十分な降圧を達成することにより,さらに大きな効果が得られる452),462)。原則として130/80mmHg以上であれば,生活習慣の修正と同時に薬物療法を開始し,血圧値と尿アルブミンまたは尿蛋白排泄量の経過を観察する。
RA系阻害薬の腎保護作用は多くの臨床試験が示すところであり,CKDではACE阻害薬またはARBが第一選択となる。特に,尿蛋白の多い例で有効性に優れており13),463),464),禁忌など特別の場合を除き,ACE阻害薬またはARBを投与すべきである。RA系阻害薬の降圧効果と尿蛋白減少効果に関する用量の間には乖離がみられている465),466)。したがって,血圧とともに尿蛋白または尿アルブミン排泄量を指標にして用量設定をする。また,ACE阻害薬とARBの併用が単独療法に比べて尿蛋白あるいは尿アルブミン排泄量の減少効果に優れていたとのメタ解析もある467),468)。
通常,RA系阻害薬の降圧効果は緩徐であり,投与後に急速に降圧がみられることは少ない。急激な降圧がみられる場合は,脱水,極端な減塩,利尿薬の過剰投与,腎動脈狭窄などの原因が考えられる。急激な降圧を発見するためには家庭血圧の測定が有効である。投与直後から過剰な降圧(収縮期血圧で30mmHg以上)がみられたときには,その原因を考察し専門医への紹介も考慮する。
以前,ACE阻害薬は進行した腎機能低下例には禁忌とされていたが,いまや,その腎保護作用は腎機能低下例で特に顕著であることが明らかにされている463),469)。また,RA系阻害薬は心血管病の発症を抑制するが,その効果は特にCKD患者で大きいことが報告されている434),470)。したがって,心腎同時保護の観点からは,血清クレアチニン値が2.0mg/dL以上の場合であっても,血清クレアチニン値やK値に注意しながら少量から投与し,漸増することが推奨される。
尿蛋白は糸球体や血管の障害の指標となるだけではなく,尿蛋白それ自体が腎機能を悪化させると考えられている。実際,尿蛋白を減少させることは,血圧とは独立した腎機能障害進展抑制効果をもたらすと報告されている425),464),471)。さらに,尿アルブミンの減少が心血管病の減少に強い相関をもつことが示された184),472)。したがって,尿蛋白あるいは尿アルブミン排泄量を可能なかぎり正常に近づけることが,腎機能障害の進行を抑制し,かつ心血管病の発症を抑制するために重要である。尿蛋白あるいは尿アルブミン排泄量の減少のためには,血圧の厳格な管理とともに,ACE阻害薬やARBの投与が必要となり,また,それぞれの薬剤の高用量の使用やACE阻害薬とARBの併用も有用である。
RA系阻害薬は全身血圧を降下させるとともに輸出細動脈を拡張させて糸球体高血圧/糸球体過剰濾過を是正するため,GFRが低下する場合がある。しかし,この低下は腎組織障害の進展を示すものではなく,投与を中止すればGFRが元の値に戻ることからも機能的変化である473)。投与初期に腎機能が軽度低下した例で,むしろそれ以降の腎機能は長期間にわたって保持されるという報告もあるので,血清クレアチニン値の上昇が軽度(30%以下)にとどまる場合は慎重に経過を観察する。腎機能の低下は通常投与後数日で明らかになるので,投与前と投与後2週間(できれば1週間)以内に血清クレアチニン値を測定する。腎機能の悪化がみられたときには,両側腎動脈狭窄などの原因を検索する。また,血清K値が上昇することもあるが,その対策としては,利尿薬の併用,重炭酸ナトリウムの投与などがあげられる。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は腎機能を悪化させ血清Kを上昇させるので投与は避ける。また,一部を除きACE阻害薬は腎排泄性なので,腎機能低下例では用量調節が必要である。一方,ARBは胆汁排泄性であるため用量の調節の必要性は少ない。
CKD患者では降圧目標を達成するために多剤併用療法が必要となる422)。CKDでは血圧の食塩感受性が亢進しており,体液量の過剰が高血圧の重症化に関与している。また,RA系阻害薬の降圧効果や尿蛋白減少効果は体液量に依存する。したがって,体液量の管理がきわめて重要となる。減塩指導により十分な体液量の管理が達成されない場合は,利尿薬を併用することにより,RA系阻害薬の降圧効果と尿蛋白減少効果の増強が期待できる。RA系阻害薬の腎保護効果を立証した臨床試験でも,大多数の患者で利尿薬が併用されていた。米国腎臓財団(NKF)のガイドラインでは第二選択薬として利尿薬が位置づけられている474)。GFRが30mL/分/1.73m2以上なら,少量のサイアザイド系利尿薬,それ未満ならループ利尿薬を用いる。強力な利尿薬治療では低K血症などの電解質異常や脱水に注意する。最近,アルドステロン拮抗薬が尿蛋白を減少させると報告されているが475),476),高K血症の危険性があるため,腎機能障害患者に投与する場合はその適応も含め,きわめて慎重に行うべきである。
長時間作用型Ca拮抗薬の腎保護効果に関しては十分なエビデンスがない。Ca拮抗薬の有用性は病態にかかわらない強力な降圧効果にある。腎機能障害患者ではしばしばII度またはIII度の高血圧を呈し,降圧目標の達成のためにはCa拮抗薬を含めた多剤併用療法が必要となることも多い。実際,ARBとCa拮抗薬の併用は,ARBの増量と比較して降圧および尿アルブミン減少効果に優れていると報告されている318)。一方,REIN-2477)ではACE阻害薬にCa拮抗薬を上乗せしてさらなる降圧を行っても,末期腎不全の発症は抑制されることはなかった。各Ca拮抗薬は多様な特徴を有しており,一部の臨床試験ではCa拮抗薬はACE阻害薬と同等の尿蛋白減少効果を有すると報告されている478),479),480)。また,RA系阻害薬に併用したときの尿蛋白減少効果にもCa拮抗薬間に違いがみられたと報告されている301),481)。多剤併用により十分な降圧が達成できない場合には,CKD患者でも二次性高血圧等を考慮する必要があり,専門医に相談することが推奨される。
血圧が高ければ高いほど腎機能の低下速度は大きく422),腎機能低下を抑制するためには血圧の管理がきわめて重要である。無作為化比較試験のメタ解析によると,収縮期血圧130mmHg未満で末期腎不全の発症や血清クレアチニン値の倍増が抑制されたとしている13)。したがって,降圧目標を130/80mmHg未満とすべきである。さらに,MDRD研究461)によると,尿蛋白1g/日以上の場合は125/75mmHg未満を目標にすべきである。RA系阻害薬は尿アルブミンや尿蛋白排泄量を減少させ,全身血圧に依存しない腎保護効果があるとされるが,十分な降圧を達成することにより,さらに大きな効果が得られる452),462)。原則として130/80mmHg以上であれば,生活習慣の修正と同時に薬物療法を開始し,血圧値と尿アルブミンまたは尿蛋白排泄量の経過を観察する。
RA系阻害薬の腎保護作用は多くの臨床試験が示すところであり,CKDではACE阻害薬またはARBが第一選択となる。特に,尿蛋白の多い例で有効性に優れており13),463),464),禁忌など特別の場合を除き,ACE阻害薬またはARBを投与すべきである。RA系阻害薬の降圧効果と尿蛋白減少効果に関する用量の間には乖離がみられている465),466)。したがって,血圧とともに尿蛋白または尿アルブミン排泄量を指標にして用量設定をする。また,ACE阻害薬とARBの併用が単独療法に比べて尿蛋白あるいは尿アルブミン排泄量の減少効果に優れていたとのメタ解析もある467),468)。
通常,RA系阻害薬の降圧効果は緩徐であり,投与後に急速に降圧がみられることは少ない。急激な降圧がみられる場合は,脱水,極端な減塩,利尿薬の過剰投与,腎動脈狭窄などの原因が考えられる。急激な降圧を発見するためには家庭血圧の測定が有効である。投与直後から過剰な降圧(収縮期血圧で30mmHg以上)がみられたときには,その原因を考察し専門医への紹介も考慮する。
以前,ACE阻害薬は進行した腎機能低下例には禁忌とされていたが,いまや,その腎保護作用は腎機能低下例で特に顕著であることが明らかにされている463),469)。また,RA系阻害薬は心血管病の発症を抑制するが,その効果は特にCKD患者で大きいことが報告されている434),470)。したがって,心腎同時保護の観点からは,血清クレアチニン値が2.0mg/dL以上の場合であっても,血清クレアチニン値やK値に注意しながら少量から投与し,漸増することが推奨される。
尿蛋白は糸球体や血管の障害の指標となるだけではなく,尿蛋白それ自体が腎機能を悪化させると考えられている。実際,尿蛋白を減少させることは,血圧とは独立した腎機能障害進展抑制効果をもたらすと報告されている425),464),471)。さらに,尿アルブミンの減少が心血管病の減少に強い相関をもつことが示された184),472)。したがって,尿蛋白あるいは尿アルブミン排泄量を可能なかぎり正常に近づけることが,腎機能障害の進行を抑制し,かつ心血管病の発症を抑制するために重要である。尿蛋白あるいは尿アルブミン排泄量の減少のためには,血圧の厳格な管理とともに,ACE阻害薬やARBの投与が必要となり,また,それぞれの薬剤の高用量の使用やACE阻害薬とARBの併用も有用である。
RA系阻害薬は全身血圧を降下させるとともに輸出細動脈を拡張させて糸球体高血圧/糸球体過剰濾過を是正するため,GFRが低下する場合がある。しかし,この低下は腎組織障害の進展を示すものではなく,投与を中止すればGFRが元の値に戻ることからも機能的変化である473)。投与初期に腎機能が軽度低下した例で,むしろそれ以降の腎機能は長期間にわたって保持されるという報告もあるので,血清クレアチニン値の上昇が軽度(30%以下)にとどまる場合は慎重に経過を観察する。腎機能の低下は通常投与後数日で明らかになるので,投与前と投与後2週間(できれば1週間)以内に血清クレアチニン値を測定する。腎機能の悪化がみられたときには,両側腎動脈狭窄などの原因を検索する。また,血清K値が上昇することもあるが,その対策としては,利尿薬の併用,重炭酸ナトリウムの投与などがあげられる。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は腎機能を悪化させ血清Kを上昇させるので投与は避ける。また,一部を除きACE阻害薬は腎排泄性なので,腎機能低下例では用量調節が必要である。一方,ARBは胆汁排泄性であるため用量の調節の必要性は少ない。
CKD患者では降圧目標を達成するために多剤併用療法が必要となる422)。CKDでは血圧の食塩感受性が亢進しており,体液量の過剰が高血圧の重症化に関与している。また,RA系阻害薬の降圧効果や尿蛋白減少効果は体液量に依存する。したがって,体液量の管理がきわめて重要となる。減塩指導により十分な体液量の管理が達成されない場合は,利尿薬を併用することにより,RA系阻害薬の降圧効果と尿蛋白減少効果の増強が期待できる。RA系阻害薬の腎保護効果を立証した臨床試験でも,大多数の患者で利尿薬が併用されていた。米国腎臓財団(NKF)のガイドラインでは第二選択薬として利尿薬が位置づけられている474)。GFRが30mL/分/1.73m2以上なら,少量のサイアザイド系利尿薬,それ未満ならループ利尿薬を用いる。強力な利尿薬治療では低K血症などの電解質異常や脱水に注意する。最近,アルドステロン拮抗薬が尿蛋白を減少させると報告されているが475),476),高K血症の危険性があるため,腎機能障害患者に投与する場合はその適応も含め,きわめて慎重に行うべきである。
長時間作用型Ca拮抗薬の腎保護効果に関しては十分なエビデンスがない。Ca拮抗薬の有用性は病態にかかわらない強力な降圧効果にある。腎機能障害患者ではしばしばII度またはIII度の高血圧を呈し,降圧目標の達成のためにはCa拮抗薬を含めた多剤併用療法が必要となることも多い。実際,ARBとCa拮抗薬の併用は,ARBの増量と比較して降圧および尿アルブミン減少効果に優れていると報告されている318)。一方,REIN-2477)ではACE阻害薬にCa拮抗薬を上乗せしてさらなる降圧を行っても,末期腎不全の発症は抑制されることはなかった。各Ca拮抗薬は多様な特徴を有しており,一部の臨床試験ではCa拮抗薬はACE阻害薬と同等の尿蛋白減少効果を有すると報告されている478),479),480)。また,RA系阻害薬に併用したときの尿蛋白減少効果にもCa拮抗薬間に違いがみられたと報告されている301),481)。多剤併用により十分な降圧が達成できない場合には,CKD患者でも二次性高血圧等を考慮する必要があり,専門医に相談することが推奨される。
図6-1.慢性腎臓病(CKD)を合併する高血圧の治療計画 |
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6)透析患者
血液透析患者では血圧と生命予後との関係にU字型現象がみられ,収縮期血圧が120-160mmHgで死亡率は最も低い482),483),484),485)。血圧と生命予後との関連は透析歴あるいは追跡により影響され,早期では血圧の低値,追跡が長期になると血圧の高値が予後の不良に相関する483)。透析患者は生命予後が悪く,その予後には血圧以外の多くの危険因子が関与する。したがって血圧値単独と予後との関連は明確になりにくいと考えられる。また,透析前後で血圧が変化するので,どの血圧を用いて評価するかなど,透析患者の血圧管理についてはいまだ十分なエビデンスが得られていない。
最近,24時間自由行動下血圧測定(ABPM)や家庭血圧の有用性が示唆されている485),486)。1日3回測定した家庭血圧の1週間の平均値は透析前,または透析後の血圧と比較して生命予後をよく反映し,血圧管理目標として収縮期血圧で125-145mmHgが適切であると報告されている485)。
脈圧の増大は透析患者の生命予後不良と相関し,同じ収縮期血圧であれば拡張期血圧が低いほど,同じ拡張期血圧であれば収縮期血圧が高いほど予後は不良となる487)。また,2回測定した家庭血圧における脈圧の1週間の平均値で70mmHgを超えると全死亡が有意に高くなると報告されている486)。さらに,透析中の血圧低下や透析直後の起立性低血圧も全死亡の独立した危険因子であると報告されている488)。
最近,脈波伝播速度(PWV),増幅係数(AI)や足首・上腕血圧比(ABI)などが血管障害の指標として用いられている。透析患者においても,これらの値や,その変化が生命予後と関連することが示されている489),490)。また,透析患者は心肥大を高率に合併し,心筋重量の変化も生命予後に相関する491)。透析患者の生命予後には血圧以外の危険因子の関与が大きいために,ただ単に血圧値のみではなく,さまざまな指標を考慮した降圧療法が必要とされるが,今後の研究課題である。
治療方針としては,まず体液量依存性の血圧上昇をコントロールすべきである。ドライウェイト(体液量管理の際に必要となる目標体重)を適切に設定し,透析後より次の透析前までの体重増加をドライウェイトの5%以下になるように指導する。
多くの透析患者では尿排泄はほとんどなく,利尿薬は無効である。しかし,透析導入後も1日数百mLの排尿を認める場合があり,この際にはフロセミドなどのループ利尿薬を用いる。利尿薬の使用は残腎機能を維持し,体重管理などを容易にする可能性が示唆されている492)。比較的大量投与を必要とする場合が多いので,聴覚障害などの副作用に注意する。
ドライウェイトを適切に設定しても高血圧が持続する場合には降圧薬治療が必要となる。降圧作用機序だけでなく,薬物代謝,排泄経路,透析性,持続時間なども考慮する。また,透析中に著明な低血圧のある場合には透析日の朝の服用を控えるなどの工夫が必要である。心血管事故を抑制する薬剤に関しては一定の見解は得られておらず,Ca拮抗薬493),β遮断薬494),ACE阻害薬の有効性489),495),496)が報告されている。最近は,心肥大の退縮やPWVの改善にARBが有効であることが報告されている496),497),498)。また,腹膜透析患者においてARBが残腎機能の保持に有用であるとする報告もある499)。
透析による血圧の変動を少なくするために透析性がない薬剤を選択する。Ca拮抗薬とARBは透析性が低く,透析時の血圧変動が少ない。ACE阻害薬は透析性のあるものが多いが,一部は透析性のないものもある。ACE阻害薬は陰性荷電の透析膜を用いるとアナフィラキシー様ショック症状をひき起こすことがある。該当するのはポリアクリロニトリル膜のダイアライザーやデキストラン硫酸セルロースを用いた吸着器で,これらとACE阻害薬との併用は禁忌である。ACE阻害薬とARBは腎性貧血を増悪させ,エリスロポエチンの必要量が多くなるという報告がある。α遮断薬は透析性もなく使いやすいが,副作用としての起立性低血圧が透析施行の障害となる可能性がある。β遮断薬の多くは脂溶性で透析性がない。β遮断薬は心機能を抑制するので,体液量の変動する透析患者では心不全の発症にも注意し,また,血清Kの上昇にも注意すべきである。
最近,24時間自由行動下血圧測定(ABPM)や家庭血圧の有用性が示唆されている485),486)。1日3回測定した家庭血圧の1週間の平均値は透析前,または透析後の血圧と比較して生命予後をよく反映し,血圧管理目標として収縮期血圧で125-145mmHgが適切であると報告されている485)。
脈圧の増大は透析患者の生命予後不良と相関し,同じ収縮期血圧であれば拡張期血圧が低いほど,同じ拡張期血圧であれば収縮期血圧が高いほど予後は不良となる487)。また,2回測定した家庭血圧における脈圧の1週間の平均値で70mmHgを超えると全死亡が有意に高くなると報告されている486)。さらに,透析中の血圧低下や透析直後の起立性低血圧も全死亡の独立した危険因子であると報告されている488)。
最近,脈波伝播速度(PWV),増幅係数(AI)や足首・上腕血圧比(ABI)などが血管障害の指標として用いられている。透析患者においても,これらの値や,その変化が生命予後と関連することが示されている489),490)。また,透析患者は心肥大を高率に合併し,心筋重量の変化も生命予後に相関する491)。透析患者の生命予後には血圧以外の危険因子の関与が大きいために,ただ単に血圧値のみではなく,さまざまな指標を考慮した降圧療法が必要とされるが,今後の研究課題である。
治療方針としては,まず体液量依存性の血圧上昇をコントロールすべきである。ドライウェイト(体液量管理の際に必要となる目標体重)を適切に設定し,透析後より次の透析前までの体重増加をドライウェイトの5%以下になるように指導する。
多くの透析患者では尿排泄はほとんどなく,利尿薬は無効である。しかし,透析導入後も1日数百mLの排尿を認める場合があり,この際にはフロセミドなどのループ利尿薬を用いる。利尿薬の使用は残腎機能を維持し,体重管理などを容易にする可能性が示唆されている492)。比較的大量投与を必要とする場合が多いので,聴覚障害などの副作用に注意する。
ドライウェイトを適切に設定しても高血圧が持続する場合には降圧薬治療が必要となる。降圧作用機序だけでなく,薬物代謝,排泄経路,透析性,持続時間なども考慮する。また,透析中に著明な低血圧のある場合には透析日の朝の服用を控えるなどの工夫が必要である。心血管事故を抑制する薬剤に関しては一定の見解は得られておらず,Ca拮抗薬493),β遮断薬494),ACE阻害薬の有効性489),495),496)が報告されている。最近は,心肥大の退縮やPWVの改善にARBが有効であることが報告されている496),497),498)。また,腹膜透析患者においてARBが残腎機能の保持に有用であるとする報告もある499)。
透析による血圧の変動を少なくするために透析性がない薬剤を選択する。Ca拮抗薬とARBは透析性が低く,透析時の血圧変動が少ない。ACE阻害薬は透析性のあるものが多いが,一部は透析性のないものもある。ACE阻害薬は陰性荷電の透析膜を用いるとアナフィラキシー様ショック症状をひき起こすことがある。該当するのはポリアクリロニトリル膜のダイアライザーやデキストラン硫酸セルロースを用いた吸着器で,これらとACE阻害薬との併用は禁忌である。ACE阻害薬とARBは腎性貧血を増悪させ,エリスロポエチンの必要量が多くなるという報告がある。α遮断薬は透析性もなく使いやすいが,副作用としての起立性低血圧が透析施行の障害となる可能性がある。β遮断薬の多くは脂溶性で透析性がない。β遮断薬は心機能を抑制するので,体液量の変動する透析患者では心不全の発症にも注意し,また,血清Kの上昇にも注意すべきである。