(旧版)高血圧治療ガイドライン2009
第5章 降圧薬治療
POINT 5b |
【コントロール不良および治療抵抗性高血圧】
- 治療抵抗性高血圧においては,肥満,睡眠時無呼吸症候群の合併,原発性アルドステロン症などの二次性高血圧,白衣高血圧・白衣現象,服薬継続の不良,種々の原因による体液量の増加,降圧薬の不適切な選択や他剤服用による降圧効果の減弱などをまず考える。
- 十分な問診,患者との良好なコミュニケーションのうえで,必要な生活習慣の修正および服薬の指導を行う。薬物では利尿薬を含む多剤併用を行う。
- コントロール不良および治療抵抗性高血圧では,臓器障害が存在する可能性が高いこと,高リスク群を多く含むこと,二次性高血圧の可能性があることより,適切な時期に高血圧専門医の意見を求める。
5.コントロール不良および治療抵抗性高血圧の対策
1)定義と頻度
降圧薬の投与を受けても血圧のコントロールが目標値に到達していない患者は多く認められている。このうち,生活習慣の修正を行ったうえで,利尿薬を含む適切な用量の3剤以上の降圧薬を継続投与しても,なお目標血圧まで下がらない場合を,治療抵抗性高血圧ないし難治性高血圧と呼ぶ。2-3剤の降圧薬を服用しているにもかかわらず,持続的にコントロール不良であるが,定義を満足しないものも治療困難325)あるいはコントロール不良高血圧として扱い,対策の対象とすることがより実際的と考えられる。コントロール不良および治療抵抗性高血圧であっても,表5-3にあげるような要因を修正することで,十分な降圧を得られることがある。しかし,このような高血圧は,無症候性臓器障害を有するものが多く326),また,高リスク群に相当する患者を多く含むため,適切な時期に高血圧専門医へコンサルトすることが望ましい。
治療抵抗性高血圧の頻度は対象とする集団により異なる。その頻度は一般診療においては数%程度とされているが,腎臓内科外来や高血圧専門外来では半数以上の場合もある327)。本邦の報告では,J-HOME研究で3剤以上服薬しても,自宅または病院で血圧コントロールが不十分の人は13%(全対象者3400名中434名)と計算される58)。大規模臨床試験(ALLHAT,CONVINCE,LIFE,INSIGHT,VALUE)のような高リスク高血圧患者を多く含む対象群では,目標血圧(140/90mmHg未満)まで降圧が得られなかった患者の割合は約30%から50%と報告されている219),221),328),329),330)。このうち前3つの試験では,約40%の患者が3剤以上の降圧薬を服用していた。本邦で行われたCASE-Jでは,使用薬剤数は1.4-1.5個であるが,目標血圧にコントロールされた割合は約60%331)であり,治療抵抗性高血圧の患者は少なかったものと考えられる。
実地医家を対象とした本邦の断面調査におけるコントロールの状況についてみると,J-HOME研究(平均で1.7剤の降圧薬を服用)では,診察室血圧によるコントロール不良の割合は58%であったが,家庭血圧によるコントロール不良(135/85mmHg以上)は66%であった。ともにコントロールされていた人の割合は19%であった332)。若年者・中年者および糖尿病合併者の降圧目標は,診察室血圧でそれぞれ130/85mmHg未満,130/80mmHg未満であるが,別の断面調査(平均1.4剤服用)では,達成されていた割合はそれぞれ16-19%,11%にすぎなかったことが報告されている333)。
断面調査の成績は一般診療での血圧コントロール状況を示していることが考えられる。成績からは,多くの患者がコントロール不良の状態に置かれていることがわかる。また,家庭血圧測定や24時間自由行動下血圧測定による評価は今後の検討課題である。
表5-3.高血圧治療におけるコントロール不良と治療抵抗性の要因と対策
治療抵抗性高血圧の頻度は対象とする集団により異なる。その頻度は一般診療においては数%程度とされているが,腎臓内科外来や高血圧専門外来では半数以上の場合もある327)。本邦の報告では,J-HOME研究で3剤以上服薬しても,自宅または病院で血圧コントロールが不十分の人は13%(全対象者3400名中434名)と計算される58)。大規模臨床試験(ALLHAT,CONVINCE,LIFE,INSIGHT,VALUE)のような高リスク高血圧患者を多く含む対象群では,目標血圧(140/90mmHg未満)まで降圧が得られなかった患者の割合は約30%から50%と報告されている219),221),328),329),330)。このうち前3つの試験では,約40%の患者が3剤以上の降圧薬を服用していた。本邦で行われたCASE-Jでは,使用薬剤数は1.4-1.5個であるが,目標血圧にコントロールされた割合は約60%331)であり,治療抵抗性高血圧の患者は少なかったものと考えられる。
実地医家を対象とした本邦の断面調査におけるコントロールの状況についてみると,J-HOME研究(平均で1.7剤の降圧薬を服用)では,診察室血圧によるコントロール不良の割合は58%であったが,家庭血圧によるコントロール不良(135/85mmHg以上)は66%であった。ともにコントロールされていた人の割合は19%であった332)。若年者・中年者および糖尿病合併者の降圧目標は,診察室血圧でそれぞれ130/85mmHg未満,130/80mmHg未満であるが,別の断面調査(平均1.4剤服用)では,達成されていた割合はそれぞれ16-19%,11%にすぎなかったことが報告されている333)。
断面調査の成績は一般診療での血圧コントロール状況を示していることが考えられる。成績からは,多くの患者がコントロール不良の状態に置かれていることがわかる。また,家庭血圧測定や24時間自由行動下血圧測定による評価は今後の検討課題である。
表5-3.高血圧治療におけるコントロール不良と治療抵抗性の要因と対策
要因 | 対策 |
血圧測定上の問題 | |
小さすぎるカフ(ゴム嚢)の使用 | カフ幅は上腕周囲の40%,かつ長さは少なくとも上腕周囲を80%取り囲むものを使用 |
偽性高血圧 | 高度な動脈硬化に注意 |
白衣高血圧,白衣現象 | 家庭血圧,自由行動下血圧測定 |
アドヒアランス不良 | 十分な説明により長期服用薬に対する不安を取り除く。副作用がでていれば,他剤に変更繰り返す薬物不適応には精神的要因も考慮,経済的問題も考慮 患者の生活に合わせた服薬スケジュールを考える。医師の熱意を高める |
生活習慣の問題 | |
肥満の進行 | カロリー制限や運動について繰り返し指導 |
過度の飲酒 | エタノール換算で男性20-30mL/日以下,女性10-20mL/日以下にとどめるよう指導 |
睡眠時無呼吸症候群 | CPAPなど(別項参照) |
体液量過多 | |
食塩摂取の過剰 | 減塩の意義と必要性を説明,栄養士と協力して繰り返し指導 |
利尿薬の使い方が適切でない | 3種以上の併用療法では,1剤を利尿薬にする。血清クレアチニン2mg/dL以上の腎機能低下例ではループ利尿薬を選択,利尿薬の作用持続を図る |
腎障害の進行 | 減塩の指導と,上に述べた方針に従い,利尿薬を用いる |
降圧薬と拮抗する,あるいはそれ自体で血圧を上昇させうる薬物の併用や栄養補助食品の使用 | 経口避妊薬,副腎皮質ステロイド,非ステロイド性抗炎症薬(選択的COX-2阻害薬を含む),カンゾウを含む漢方薬,シクロスポリン,エリスロポエチン,抗うつ薬などを併用していれば,その処方医と相談し,可能なかぎり中止あるいは減量する 各薬物による昇圧機序あるいは相互作用に応じた降圧薬を選択 |
作用機序の類似した降圧薬を併用 | 異なる作用機序をもち,かつ相互に代償反応を打ち消しあうような降圧薬を組み合わせる |
二次性高血圧 | 特徴的な症状・所見の有無,スクリーニング検査→12章を参照 |
2)治療抵抗性を示す要因と対策
治療抵抗性を示す要因として,正確な血圧値が捉えられていない(白衣高血圧・白衣現象,カフサイズが合っていない,偽性高血圧など),降圧治療が不十分(コンコーダンスの不良,生活習慣の修正ができていない,降圧薬の使用が不十分など),血圧が下がりにくい状態(体液量過多,肥満,睡眠時無呼吸症候群の存在,過度の飲酒,降圧薬の作用を減弱するような薬物や食品をとっているなど)がある。また,二次性高血圧を見逃していることもある。
このうち,過剰の塩分摂取,利尿薬が使用されていないか適正に使用されていない,また腎機能が低下している場合では,体液量過多に起因する治療抵抗性を示すことが多い。このようなコントロール不良の高血圧では,利尿薬の適正な使用により降圧が認められる場合が多い。一方,患者とのコンコーダンスの問題も大きい。患者への薬物服用についての説明が不十分で,患者が降圧治療を十分に受け入れていない場合,また,主治医が薬物の副作用に気づかない場合は,服薬継続の不良に結びつく。高血圧専門外来に10年間継続通院した患者の調査では,血圧コントロール良好の人では,高血圧治療に対する認知度が高く,体重増加が少なく,Ca拮抗薬やARBの処方を受けている人が多かった334)。また,血圧コントロールとその要因に関して調べた調査では,各主治医の治療に対する姿勢が最も大きな要因であった335)。これらの報告より,血圧コントロールの向上のためには,主治医の治療に対する積極性,具体的には患者の高血圧治療に対する認知度を上げる努力,生活習慣修正への励まし,適正な降圧薬の選択が重要である。その際に,患者の経済的問題,心理的問題に対しても配慮が必要である。また,患者の降圧治療への理解促進や薬物調整のための短期入院も考慮すべきである。
十分な血圧コントロールが得られない患者の場合,まず表5-3にあげた各種の要因がないかどうかを検討する。二次性高血圧を示唆する所見がなく,血圧測定や服薬状況に問題がなく,3剤以上の降圧薬で治療しても満足な降圧効果が得られない場合は,減塩と適正体重の達成に向けた生活指導を再度行う。薬物の調整については,もし利尿薬が使用されていなければその使用を開始,また使用されていれば,その用量と種類の調整を試みる(表5-4)325)。サイアザイド系利尿薬は1/2錠からはじめ,最大限2錠までとする。腎機能低下がある場合はループ利尿薬を用いる。ループ利尿薬のうちフロセミドは作用時間が短いため,十分な水・ナトリウム利尿や降圧を得るためには,1日2回(または3回)の投与が必要である。また,より作用時間の長いループ利尿薬(トラセミドなど)を利用することも考慮する。
利尿薬以外では,Ca拮抗薬,ACE阻害薬かARB,β遮断薬かα遮断薬(αβ遮断薬を含む)の3つの範疇から2-3剤を選ぶ。しかし,3剤以上のどの組み合わせが有用であるかについては明確な成績はない。したがって,大部分は理論上あるいは経験または少数例の成績に基づいて推奨されることが多い。少量のアルドステロン拮抗薬(スピロノラクトンであれば12.5-25mg)の追加投与が有効と報告されている317),336)。なお,原則として同じクラスの薬物の重複は避けるが,ACE阻害薬とARBの併用,β遮断薬とα遮断薬もしくは中枢性交感神経抑制薬の併用,また,サイアザイド系利尿薬とアルドステロン拮抗薬との併用は可能である。治療抵抗性高血圧では,降圧薬の持続時間が不十分であると,降圧が十分でない時間帯が生じやすい(早朝高血圧を含む)。すべての時間の血圧を目標のレベルに低下させるため,朝夕の家庭血圧での評価をはじめ24時間自由行動下血圧測定による血圧日内変動の評価を行い,薬物種類の調節のみならず,投薬時間の調節(クロノテラピー)も必要となる(長時間作動性薬物の朝・夕の投与や朝・就寝前の投与)。なお,このような多剤併用や高用量投与の際には,副作用や過度の血圧低下が起こりやすいため,十分な注意が必要であり,適切な時期に高血圧専門医に相談することが望ましい。
なお,4剤以上で目標血圧にコントロールされている例も治療抵抗性高血圧と定義し,治療抵抗性の要因や二次性高血圧について考慮することが患者の利益につながるかもしれないとするステートメント337)が最近提出されている。
このうち,過剰の塩分摂取,利尿薬が使用されていないか適正に使用されていない,また腎機能が低下している場合では,体液量過多に起因する治療抵抗性を示すことが多い。このようなコントロール不良の高血圧では,利尿薬の適正な使用により降圧が認められる場合が多い。一方,患者とのコンコーダンスの問題も大きい。患者への薬物服用についての説明が不十分で,患者が降圧治療を十分に受け入れていない場合,また,主治医が薬物の副作用に気づかない場合は,服薬継続の不良に結びつく。高血圧専門外来に10年間継続通院した患者の調査では,血圧コントロール良好の人では,高血圧治療に対する認知度が高く,体重増加が少なく,Ca拮抗薬やARBの処方を受けている人が多かった334)。また,血圧コントロールとその要因に関して調べた調査では,各主治医の治療に対する姿勢が最も大きな要因であった335)。これらの報告より,血圧コントロールの向上のためには,主治医の治療に対する積極性,具体的には患者の高血圧治療に対する認知度を上げる努力,生活習慣修正への励まし,適正な降圧薬の選択が重要である。その際に,患者の経済的問題,心理的問題に対しても配慮が必要である。また,患者の降圧治療への理解促進や薬物調整のための短期入院も考慮すべきである。
十分な血圧コントロールが得られない患者の場合,まず表5-3にあげた各種の要因がないかどうかを検討する。二次性高血圧を示唆する所見がなく,血圧測定や服薬状況に問題がなく,3剤以上の降圧薬で治療しても満足な降圧効果が得られない場合は,減塩と適正体重の達成に向けた生活指導を再度行う。薬物の調整については,もし利尿薬が使用されていなければその使用を開始,また使用されていれば,その用量と種類の調整を試みる(表5-4)325)。サイアザイド系利尿薬は1/2錠からはじめ,最大限2錠までとする。腎機能低下がある場合はループ利尿薬を用いる。ループ利尿薬のうちフロセミドは作用時間が短いため,十分な水・ナトリウム利尿や降圧を得るためには,1日2回(または3回)の投与が必要である。また,より作用時間の長いループ利尿薬(トラセミドなど)を利用することも考慮する。
利尿薬以外では,Ca拮抗薬,ACE阻害薬かARB,β遮断薬かα遮断薬(αβ遮断薬を含む)の3つの範疇から2-3剤を選ぶ。しかし,3剤以上のどの組み合わせが有用であるかについては明確な成績はない。したがって,大部分は理論上あるいは経験または少数例の成績に基づいて推奨されることが多い。少量のアルドステロン拮抗薬(スピロノラクトンであれば12.5-25mg)の追加投与が有効と報告されている317),336)。なお,原則として同じクラスの薬物の重複は避けるが,ACE阻害薬とARBの併用,β遮断薬とα遮断薬もしくは中枢性交感神経抑制薬の併用,また,サイアザイド系利尿薬とアルドステロン拮抗薬との併用は可能である。治療抵抗性高血圧では,降圧薬の持続時間が不十分であると,降圧が十分でない時間帯が生じやすい(早朝高血圧を含む)。すべての時間の血圧を目標のレベルに低下させるため,朝夕の家庭血圧での評価をはじめ24時間自由行動下血圧測定による血圧日内変動の評価を行い,薬物種類の調節のみならず,投薬時間の調節(クロノテラピー)も必要となる(長時間作動性薬物の朝・夕の投与や朝・就寝前の投与)。なお,このような多剤併用や高用量投与の際には,副作用や過度の血圧低下が起こりやすいため,十分な注意が必要であり,適切な時期に高血圧専門医に相談することが望ましい。
なお,4剤以上で目標血圧にコントロールされている例も治療抵抗性高血圧と定義し,治療抵抗性の要因や二次性高血圧について考慮することが患者の利益につながるかもしれないとするステートメント337)が最近提出されている。
表5-4.利尿薬を含む3剤で目標血圧に達しない場合の対応 |
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(文献325より改変引用) |