(旧版)高血圧治療ガイドライン2009

 
第5章 降圧薬治療


2.各種降圧薬の特徴と主な副作用

主要降圧薬の積極的適応を表5-1に,禁忌および慎重使用を表5-2に示す。

表5-1.主要降圧薬の積極的適応
  Ca拮抗薬 ARB/ACE阻害薬 利尿薬 β遮断薬
左室肥大    
心不全   *1 *1
心房細動(予防)      
頻脈 *2    
狭心症     *3
心筋梗塞後    
蛋白尿      
腎不全   *4  
脳血管障害慢性期  
糖尿病/MetS*5      
高齢者 *6  
  • *1少量から開始し,注意深く漸増する *2非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬 *3冠攣縮性狭心症には注意
  • *4ループ利尿薬 *5メタボリックシンドローム *6ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬


表5-2.主要降圧薬の禁忌もしくは慎重使用例
  禁忌 慎重使用例
Ca拮抗薬 徐脈(非DHP系) 心不全
ARB 妊娠
高K血症
腎動脈狭窄症
ACE阻害薬 妊娠
血管神経性浮腫
高K血症
腎動脈狭窄症
利尿薬
(サイアザイド系)
痛風
低K血症
妊娠
耐糖能異常
β遮断薬 喘息
高度徐脈
耐糖能異常
閉塞性肺疾患
末梢動脈疾患
  • 両側性腎動脈狭窄の場合は禁忌


1)Ca拮抗薬
細胞外Caイオンの流入に関わる膜電位依存性L型Caチャネルを阻害することにより,血管平滑筋を弛緩し,末梢血管抵抗を減じて降圧作用を発揮する。ジヒドロピリジン(DHP)系とベンゾチアゼピン(BTZ)系およびフェニルアルキルアミン(PAA)系薬剤に分類されるが,本邦では前二者が降圧薬として用いられている。主な薬理作用は,[1]冠動脈および末梢血管拡張作用,[2]心収縮力の抑制,[3]刺激伝導系の抑制である。DHP系薬剤は急速・強力降圧型で,心抑制作用は臨床用量域ではほとんどみられない。むしろ,反射性交感神経緊張による頻脈を伴う。非DHP系Ca拮抗薬は,降圧作用はより緩徐で弱く,心抑制作用を伴う。DHP系Ca拮抗薬は,現降圧薬のなかで降圧の有効性が最も高く,かつ臓器血流が保たれるので,臓器障害合併例や高齢者でもよい適応となり,多くの症例で第一選択薬として用いられる。1日1回投与の薬剤が主流で,特にアムロジピンは最も血中半減期が長く,長時間作用型であり,反射性交感神経刺激作用などDHP系薬剤の欠点を改善した薬剤である。糖・脂質・電解質代謝にも悪影響はない。また,左室肥大の退縮や動脈硬化プラークの進展を遅らせる作用も報告されている299),300)。L型以外のNあるいはT型Caチャネル阻害作用や交感神経抑制作用を認める一部のCa拮抗薬は頻脈を起こしにくく,腎疾患を合併する高血圧に対して優れた抗蛋白尿作用を示したと報告されている301),302),303),304)。Ca拮抗薬の副作用としては,動悸,頭痛,ほてり感,浮腫,歯肉増生や便秘などがあげられる。非DHP系Ca拮抗薬は,心抑制のために心不全や高度徐脈例には禁忌であり,潜在性心疾患を有する高齢者やジギタリス,β遮断薬との併用には十分注意する。

2)ARB
本邦ではCa拮抗薬に次いで最もよく使用されている。アンジオテンシンII(AII)タイプ1受容体に特異的に結合し,AIIを介する強力な血管収縮,体液貯留,交感神経活性亢進作用を抑制することによって降圧作用を発揮する。したがって,その降圧度は患者ごとのレニン活性レベルとある程度相関する。一方,組織レベルにおいても,ACEを介さないAII産生(キマーゼ系)に対してAII作用を受容体レベルで完全に阻害する。本剤投与によって血中のAIIレベルは上昇し,AIIの心血管系作用に拮抗するタイプ2受容体を刺激する。またストレッチなど機械的な受容体刺激を阻害する性質もある305)。これらの機序があわさって,単なる降圧以上に,直接臓器障害ひいては疾患発症を抑制する可能性がある217)。単独もしくは利尿薬,Ca拮抗薬と併用され,I度からIII度の高血圧に用いられる。心保護効果として,心肥大を抑制し,心不全の予後を改善する。ARBは虚血性心疾患の抑制効果において,ACE阻害薬より劣る可能性が指摘されていたが287),最近の大規模試験で同等の効果が示された306)。腎においては,輸出細動脈を拡張して糸球体内圧を低下させ,尿蛋白を減少させ,長期的には腎機能の悪化を抑制する。脳循環調節改善作用や抗動脈硬化作用,心房細動発症抑制作用も報告されている221),307)。その他,インスリン感受性改善作用を有し,糖尿病の新規発症を抑制する218)。そのため,心,腎,脳の臓器合併症や糖尿病などを有する症例で第一選択薬として用いられる。利尿薬との併用は,降圧効果の相乗作用のみならず,電解質・糖代謝に対する副作用を相殺できる利点がある。
用量にかかわらず,副作用は低頻度である295)。ただし,妊婦や授乳婦への投与は禁忌で,重症肝障害患者には慎重投与,クレアチニンが2.0mg/dL以上の場合は投与量を減らすなどの配慮が必要である。両側性腎動脈狭窄例または単腎で一側性腎動脈狭窄例では急速な腎機能の低下をきたすことがあるため,原則使用しない。体液量減少や高度のNa欠乏例なども準禁忌である。K保持性利尿薬との併用では高K血症に注意する。

3)ACE阻害薬
強力な昇圧系である血中および組織中のレニン・アンジオテンシン(RA)系の抑制作用および降圧系のカリクレイン・キニン・プロスタグランジン系の増強作用を併せもつ。ARBと同じく,組織アンジオテンシン抑制によって降圧とは独立して臓器障害の改善や進展予防が期待できる。ARBと同様の各種臓器合併症や糖尿病を有する患者に推奨される。ARBと比較したメタ解析では,心筋梗塞の発症抑制効果に優ったが287),両者を直接比較したONTARGET306)では差は認められなかった。単剤での降圧効果はARBとほぼ同等かやや弱い。副作用で最も多いのはブラジキニンの作用増強による空咳で,20-30%に投与1週間から数か月以内に出現するが,中止により速やかに消失する。咳の誘発がACE阻害薬を服用する高齢者の誤嚥性肺炎を防止するとの観察もある308)。まれに血管神経性浮腫による呼吸困難が出現する。腎排泄性であり,腎障害時は少量から投与,肝腎代謝のものが使用しやすい。他の副作用,注意は,ARBと同様である。

4)利尿薬
各種の調査で本邦の高血圧症に対する利尿薬の使用頻度は10%未満と,その低さは際立っている。日本の高食塩摂取量と高血圧治療における減塩の重要性,さらには日本も含めて高血圧の大規模臨床試験で利尿薬が他の降圧薬に比し優るとも劣らない成績309)を示している事実を勘案すると,利尿薬の使用頻度を増やすべきであると考えられる。しかも利尿薬は安価であり,医療経済の観点から優れている。
降圧薬としては,サイアザイド系利尿薬が主に用いられる。遠位尿細管でのNa再吸収を抑制することにより,短期的には循環血液量を減少させるが長期的には末梢血管抵抗を低下させることにより降圧する。利尿薬は低K血症や耐糖能低下,高尿酸血症など代謝への影響があり,このことが利尿薬を忌避する主要な要因である。しかし,少量(1/4〜半錠)を使用することにより,降圧効果の大きな減弱を伴わずにこれらの欠点を最小化することができる295)。特に高齢者,低レニン性高血圧,腎疾患,糖尿病,インスリン抵抗性などの食塩感受性が亢進した病態において,利尿薬の降圧効果が期待できる。他のクラスの降圧薬との併用によって降圧効果が増大するが,糖・脂質代謝に悪影響を与えるためにβ遮断薬との併用は勧められない。血清クレアチニン2.0mg/dL以上では無効であり,使用を避ける。低K血症の予防にはK製剤,K保持性利尿薬などを併用し,K含量の多いかんきつ類などの摂取を指導する。
ループ利尿薬はヘンレ上行脚でのNaClの再吸収を抑制して利尿効果を発揮する。サイアザイド系利尿薬に比し,利尿作用は強いが降圧効果は弱く,持続も短い。腎機能低下例でも有効なので腎機能障害,特にクレアチニン2.0mg/dL以上を呈する高血圧,うっ血性心不全に用いる。

5)β遮断薬(含αβ遮断薬)
心拍出量の低下,レニン産生の抑制,中枢での交感神経抑制作用などによって降圧する。初期には末梢血管抵抗は上昇するが長期的には元に戻る。交感神経活性の亢進が認められる若年者の高血圧や労作性狭心症,心筋梗塞後,頻脈合併例,甲状腺機能亢進症などを含む高心拍出型症例,高レニン性高血圧,大動脈解離などに適応がある。収縮能が低下した心不全の予後を改善する目的で使用する場合は,循環器専門医のもとで行うのがよい。一方,最近のメタ解析では,β遮断薬は心疾患発症抑制に関しては他の降圧薬と同等だが,高齢者の脳卒中発症予防効果に劣るとの成績がある310)。また複合危険因子を有する高リスク高血圧患者を対象にした大規模臨床試験(ASCOT-BPLA)では,Ca拮抗薬とACE阻害薬の併用に比し,β遮断薬と利尿薬の併用が心血管病発症抑制において劣っていた220)。β遮断薬は,単独または利尿薬との併用によって糖・脂質代謝に悪影響を及ぼす311)。したがって高齢者や糖尿病,耐糖能異常などの病態を合併する場合は,第一選択薬とはならない。しかし,血管拡張性のa遮断作用を併せもつαβ遮断薬,特にカルベジロールはRA系阻害薬との併用で特異的に代謝性副作用を示さなかったとの報告があり,長期の予後をみる臨床試験が必要である312)
β遮断薬は,気管支喘息などの閉塞性肺疾患,徐脈,II度以上の房室ブロック,レイノー症状,褐色細胞腫に対しては禁忌ないし慎重投与となる。攣縮性狭心症例に用いる場合はCa拮抗薬と併用する。突然中止すると離脱症候群として,狭心症あるいは高血圧発作が生ずることがあるので,徐々に減量して中止する313)。ベラパミルやジルチアゼムとの併用は,徐脈や心不全をきたしやすいので注意する。
以下に述べる降圧薬は,降圧効果自体が限定的であるばかりでなく,心血管予後の改善を証明した臨床試験がない。したがって,それぞれの薬剤に適応となる病態にかぎって,主要降圧薬に併用する薬剤として位置づけられる。

6)α遮断薬
交感神経末端の平滑筋側α1受容体を選択的に遮断する。交感神経末端側の抑制系α2受容体は阻害せず,特に長時間作用型では頻脈が少ない。前立腺肥大症に伴う排尿障害に特に適応がある。褐色細胞腫の手術前の血圧のコントロールに使用され,早朝の高血圧に対して眠前投与などの投与法が用いられている。総コレステロールとトリグリセライド低下,HDLコレステロール上昇など脂質代謝に対し好影響を有する。初回投与現象(first dose phenomenon)として起立性低血圧によるめまい,動悸,失神がある。したがって少量よりはじめ漸増する。

7)その他の交感神経抑制薬―中枢性および末梢性交感神経抑制薬
中枢性交感神経抑制薬:血管運動中枢のα2受容体を刺激することによって交感神経活動を抑制し,降圧する。眠気,口渇,倦怠感,レイノー様症状,陰萎など副作用が多く,通常他剤を用いることができない場合に使用される。腎機能障害時にも使用可能である。早朝の高血圧にも眠前投与されるが,眠前投与により副作用が軽減される。メチルドパは妊娠高血圧に使用される。クロニジンを突然中止すると離脱症状が出現することがある。単独ではNaおよび水分貯留がみられ,利尿薬の併用が有用である。
末梢性交感神経抑制薬:交感神経末梢に貯蔵されているノルエピネフリンを枯渇させる。降圧効果は強いが副作用が多いので使用される頻度は少ない。レセルピンの重要な副作用は抑うつ症状とパーキンソン症候群さらに胃酸過多による胃潰瘍である。

8)古典的な血管拡張薬
直接に血管平滑筋に作用して血管を拡張させる。ヒドララジンは速効性があるので高血圧緊急症にも用いることが可能である。副作用としては狭心症を誘発することがある。そのほか頭痛,動悸,頻脈,浮腫がみられるほか,劇症肝炎の報告もあり肝障害者への投与は禁忌である。連用で全身性エリテマトーデス様の症状が発現することがある。

9)アルドステロン拮抗薬,K保持性利尿薬
遠位尿細管および接合集合管に作用してKの喪失なくNa排泄を促進する。トリアムテレンはアルドステロンと関係なく,アミロライド感受性の上皮型Naチャネルを抑制して同様な効果を示す。サイアザイド系利尿薬とよく併用される。アルドステロン拮抗薬は低レニン性高血圧に特に効果が期待できる314)。またアルドステロンは心血管系に障害作用を及ぼすため,アルドステロン拮抗薬は臓器保護効果がある。心不全や心筋梗塞後に投与し予後を改善したとの臨床試験結果がある315),316)。スピロノラクトンは勃起不全,女性化乳房,月経痛などの副作用があるが,選択的アルドステロン拮抗薬(エプレレノン)は副作用が少ない。RA系阻害薬との併用や腎障害例では高K血症を生ずることがある。治療抵抗性高血圧に対する追加薬としても有用との報告がある317)

 

 
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