(旧版)高血圧治療ガイドライン2009

 
第5章 降圧薬治療


1.降圧薬選択の基本

血圧のレベルが高くなるほど,生活習慣の改善のみでは目標降圧レベルに達することは困難であり,降圧薬による治療が必要となる。降圧薬で血圧を下降させることにより,心血管病の発症を予防できる。この効果は降圧薬の種類によらず,降圧度の大きさに比例することが,大規模臨床試験のメタ解析から示されている286),287)。個々の高血圧患者に対しては,最も降圧効果が高く,合併する種々の病態に適した降圧薬を選択する。

1)第一選択薬
現在数種類の降圧薬が利用可能である。なかでも最初に選択すべき降圧薬は,Ca拮抗薬,ARB,ACE阻害薬,利尿薬,β遮断薬(含αβ遮断薬)の5種類である。いずれの薬剤も,一般の高血圧患者に対して単剤あるいは併用で十分な降圧効果と忍容性があり,豊富な心血管病発症抑制のエビデンスが蓄積されている。これら5種類の降圧薬には,大規模臨床試験の成績などから,それぞれ積極的に適応および不適応となる病態が存在する。これらの病態がある場合は,それに合致した降圧薬を選択する。最近の成績219),220)からは,β遮断薬は合併症のない高齢者や糖脂質代謝異常合併例には必ずしも第一選択薬とならない。合併する病態がない場合は,年齢による血圧上昇機序の違いから,若年者はRA系阻害薬(ARB,ACE阻害薬)もしくはβ遮断薬,高齢者は利尿薬もしくはCa拮抗薬が優先されるという考えもあるが288),289),降圧効果に年齢による差はないとの報告もある290),291),292)。いずれにしろ,単剤療法のみで降圧目標を達成できる頻度は高くない289)

2)降圧薬の使い方
降圧治療の最終目的は,心血管病発症の予防である。降圧薬投与開始後は,降圧目標の達成を絶えず心がけなければならない。しかし,現状は満足できる状況ではなく,さまざまな調査が示しているように,目標達成率は降圧薬服用者の半分程度にとどまっている293)
降圧薬の投与にあたっては,合併症のないI度高血圧(160/100mmHg未満)の場合は,主要降圧薬のなかから1剤を選んで少量から開始する。副作用が出現したり,ほとんど降圧効果が得られない場合は他の降圧薬に変更する。降圧効果が不十分であれば,増量するか,もしくは他の種類の降圧薬を少量併用投与する294)。ただしACE阻害薬やARB以外の降圧薬は,増量した場合,副作用の出現頻度が増加する295)。I度の高血圧であっても,高リスクで降圧目標が低く設定されていたり,積極的適応の降圧薬が存在する場合は,通常用量の単剤や少量の併用療法から開始してもよい。II度以上(160/100mmHg以上)の高血圧の場合は,通常用量の単剤もしくは少量の2剤併用から開始してよい50),85)。降圧効果が不十分であれば,単剤から併用療法にステップアップするか,併用で開始した場合は,各薬剤を少量から通常用量に増量する,もしくは併用の組み合わせを変更する。それでも降圧目標に達しない場合は,3剤を併用する。少量の利尿薬は,副作用の頻度は少なく,他の降圧薬と併用することにより降圧効果が相乗的に増大するために,併用療法において積極的に使用すべきである50)。さらに必要により4剤を併用する。
降圧薬は,長期にわたる服用を容易にするために,1日1回服用の薬剤が望ましい。多くの臨床研究は,診察室以外の血圧にも注目して24時間にわたる血圧管理の重要性を示唆している。現在市販されている降圧薬は,臨床現場で使用されたとき,必ずしも24時間効果が持続しないことが少なくない。家庭血圧測定で得られたトラフの血圧が高値の場合,朝服用している降圧薬を晩服用に変更したり,朝晩の2回に分服,あるいは晩や就寝前に追加投与することを試みてよい296)
降圧速度は,降圧目標には数か月で達成するくらいの緩徐なほうが副作用もなく望ましい。特に,血圧調節機能が減弱している高齢者は,急激な降圧は避けるべきである。ただし,心血管病発症リスクが高い患者においては,治療開始後1-3か月の間の降圧度の差が疾患発症に影響したという成績があり221),数週以内に降圧目標に達することが望ましい。

3)薬物相互作用
降圧薬同士の相互作用には,降圧効果を高めたり,副作用を相殺するなど好ましい組み合わせがある反面,副作用が増強される場合もある297)。特に注意すべきものは,β遮断薬と非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬の併用による心臓抑制増強作用,RA系阻害薬とアルドステロン拮抗薬の高カリウム血症増強作用,中枢性交感神経抑制薬とβ遮断薬の離脱症候群の易発現性などがある。他疾患の治療薬と降圧薬の薬物相互作用では,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)による利尿薬,β遮断薬,ACE阻害薬の降圧効果減弱作用,ヒスタミンH2受容体拮抗薬によるCa拮抗薬,β遮断薬の降圧増強作用,ジゴキシンと非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬併用によるジゴキシンの血中濃度上昇などがある。ARBやACE阻害薬とNSAIDsあるいは利尿薬の併用は,特に高齢者で脱水や塩分摂取制限があると,急性腎不全や過度な降圧をきたすことがある。食品と降圧薬の相互作用では,グレープフルーツあるいはそのジュースを摂取した後にジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(特にフェロジピンやニソルジピン)を服用すると,その血中濃度が上昇することがよく知られている。

4)降圧薬の減量と中止
血圧には季節的変動があり,夏季に血圧が低下する患者では,一時降圧薬の減量あるいは中止を考慮してよい。逆に冬季には血圧が上昇して増量や再投与が必要になることも少なくない。降圧薬治療によって少なくとも1年間以上血圧が正常化した場合であっても,減量もしくは中止すると,通常6か月以内に血圧が高血圧レベルまで再上昇することが多い。休薬(降圧薬の中止)に関する研究結果によると,休薬後の血圧維持率は3-74%と報告によってかなり異なる。休薬後に正常血圧が維持できた患者の特徴は,治療前の血圧がI度高血圧,若年者,正常体重,低塩分摂取,非飲酒者,1剤のみの服用,臓器障害がないなどである298)。したがって,適正な生活習慣の継続および血圧の定期観察を条件に,休薬を試みてもよいが,治療前に臓器障害や合併症のないI度高血圧である場合以外は推奨できない。

 

 
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