(旧版)高血圧治療ガイドライン2009

 
第4章 生活習慣の修正


2.野菜,果物,魚,コレステロール,飽和脂肪酸など

欧米でDASH43),212)という野菜,果物,低脂肪乳製品などを中心とした食事摂取(飽和脂肪酸とコレステロールが少なく,カルシウム(Ca),カリウム(K),マグネシウム(Mg),食物繊維が多い)の臨床試験が行われ,有意な降圧効果が示された。CaやMgは硬水を飲んでいる地域の住民で血圧が低いという疫学研究から降圧効果が期待され,小規模の介入試験が行われたが,わずかな降圧しか認めなかった。食品加工の際にNaが添加されKが喪失してしまうことがよく知られており,K不足が食塩過剰摂取とともに先進国における高血圧の原因である可能性が考えられている。K補給の降圧治療としての有用性は,AHAの高血圧の食事療法の報告251)などで取り上げられているが,その作用は決して大きなものではない。しかしながら,降圧効果が弱いものでも組み合わせると降圧が期待できるものと考えられ,野菜,果物の積極的摂取とコレステロールや飽和脂肪酸の摂取制限が,高血圧の食事療法の一つに取り入れられた。日本におけるDASH食の資料として推奨できるものは乏しいが,『食事バランスガイド』256)が参考になる(ただし健常人を対象としたものである)。これでは食品のカウントがDASH食プランに準じた形でなされており,1日野菜が5つから6つ(SV:serving),果物が2つとされている。この単位は細かい計測を要せず,食品摂取量の大まかな目安を知るには有用である。ただし,重篤な腎障害を伴う患者は高K血症をきたすリスクがあるので,野菜,果物の積極的摂取は推奨されない。また,糖分が多い果物の過剰な摂取は,特に肥満者や糖尿病患者などのカロリー制限が必要な患者では勧められない。なお,脂質代謝異常の予防という意味でも,コレステロールや飽和脂肪酸の摂取制限は有用である。DASH食はNa利尿作用257)を有し,メタボリックリスクファクターの軽減作用258)がある可能性が指摘されている。最近,Mg摂取量の多い人ではメタボリックシンドロームの頻度が少ないという疫学研究が示されているので259),DASH食の後者の作用にはMgが重要である可能性がある。
INTERMAP研究の成績によると,w3多価不飽和脂肪酸(魚油に多く含まれる)の摂取量が多い人は血圧が低い傾向にあり260),介入試験のメタ解析で魚油の摂取増加は高血圧患者に降圧効果をもたらすことが示されている261)。有意な降圧効果が得られるためには比較的高用量(3g/日以上)の摂取が必要である。2006年のAHAの勧告250)や2007年のESH-ESCのガイドライン85)でも魚を多く食すべきであるとのコメントがなされており,高血圧患者では魚の積極的摂取が推奨される。参考までに,『食事バランスガイド』256)では1日2つとされている。さらに,本邦のコホート研究(JPHC Study)262)では,魚の摂取が多い人ほど心筋梗塞発症が少ないことが報告されている。なお,魚は水銀汚染の問題があるが250),魚の種類によってその程度は異なる。水銀濃度が高いとされているマグロ,ブリ,カツオなどは,特に小児や妊婦,妊娠可能な女性には勧められない。
なお,抗酸化食品,食物繊維の積極的摂取や炭水化物量の制限の血圧への効果に関しては,ガイドラインで推奨できるほどのエビデンスはない。

 

 
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