(旧版)高血圧治療ガイドライン2009

 
第4章 生活習慣の修正


1.食塩制限

食塩過剰摂取が血圧上昇と関連があることは以前よりINTERSALT研究36)などの観察研究によって指摘されてきた。さらにDASH-Sodium43)をはじめとする多くの欧米の大規模介入試験でも,減塩の降圧効果は証明されている247),248)。これらの大規模臨床試験の成績をみると,6g/日前半まで食塩摂取量を落とさなければ有意な降圧は達成できていない。これを根拠に欧米のガイドラインでは6g/日未満あるいはそれ以下の減塩を推奨している。本ガイドラインでも,欧米のガイドラインに準拠して,減塩目標値を6g/日未満とする247)。食塩6g/日食に関しては日本高血圧学会減塩ワーキンググループのレシピなどを参考にされたい249)
INTERSALT研究36)において平均食塩摂取量と血圧値の関係をみると,約3g/日以上の食塩摂取量では食塩摂取量の低下に伴い緩やかに血圧が低下するが,約3g/日未満では急峻な低下を示す。文明化が進む前の元来の人類の食塩摂取量は0.5-3g/日であったという報告もあり,非常に少ない食塩摂取量がむしろ妥当である可能性が高い。しかし,介入試験で安全性が確認されているのは3.8g/日までである43)ことから,2006年の米国心臓協会(AHA)の勧告250),251)や2007年の欧州高血圧学会-欧州心臓病学会(ESH-ESC)のガイドライン85)では,理想的な食塩摂取量として3.8g/日をあげている。
6g/日未満という厳しい減塩目標に対して,本邦における平均食塩摂取量は依然10g/日を超えており40),より食塩摂取量が少ない欧米に比べてその達成には努力を要する。患者の食塩摂取量は個人差が非常に大きいが,減塩を意識している患者のなかには6g/日未満達成者が約2割存在するので252),厳しい目標値を提示する意義はある。しかし,多くの患者ではこの目標値の達成は困難である。減塩はその程度に応じて降圧が期待できるので(メタ解析の成績では減塩1g/日ごとに収縮期血圧が約1mmHg減少する248)),少しずつ食塩摂取量を減らすべく長期的な指導を行う。減塩は心血管病の長期的リスクを減らすことが,最近TOHPの追跡研究で報告されている253)
現在,包装食品の栄養表示は食塩量でなく,ナトリウム(Na)表示にするように義務づけられている。食事指導は食塩量(g)で行われているので,(Na表示の単位がgの場合)2.5倍して食塩量に換算しなければならないことを指導する必要がある。「天然塩」として売られている食塩も,その成分のほとんどはNaClであり,そのほかのミネラルの含有量はごくわずかであるので,普通の食塩を用いているのと何ら変わりはない。一部の天然塩はその成分がNaで表示されているので,2.5倍して食塩量に換算する必要がある。なお,減塩指導において食塩摂取量の評価は欠かせないが,一般医療施設では随時尿(Na/クレアチニン[Cr]比)での評価が実際的である(表4-2254)。これは年齢,身長,体重から求めた24時間尿Cr排泄量推計値を含む計算式により信頼性向上を図ることが望ましい254)
非常に厳格で理想的な減塩を健全な形で実施するのは現在の社会環境ではきわめて困難であり,政策的公衆衛生的な活動が必要である。また,幼少期の減塩は長期的にみて血圧上昇を抑制する可能性があることが報告されており255),食習慣の確立の意味においても幼児や小児に対する教育・指導が重要である。

表4-2.食塩摂取量評価のガイドライン
評価法 位置づけ 主な適応
24時間蓄尿によるNa排泄量測定
栄養士による秤量あるいは質問調査
信頼性は高く望ましい方法であるが,煩雑である。患者の協力や施設の能力があれば推奨される。 高血圧専門施設
随時尿でのNa,Cr測定とNa/Cr比による推定*1 信頼性はやや劣るが,簡便であり,実際的な評価法として推奨される。 一般医療施設
早朝尿(夜間尿)での計算式を内蔵した電子式食塩センサーによる推定*2 信頼性はやや劣るが,簡便で,患者本人が測定できることから推奨される。 患者本人
  • *1早朝尿(夜間尿)を用いてもよい。24時間尿Cr排泄量推計値を含む以下の計算式を用いれば,信頼性は高まる。
    24時間Na排泄量(mEq/日)=21.98×{(NaS/CrS)×Pr.UCr240.392
    NaS:随時尿Na濃度(mEq/L),CrS:随時尿Cr濃度(mg/L),
    Pr.UCr24:24時間尿Cr排泄量推定値(mg/日)=-2.04×年齢+14.89×体重(kg)+16.14×身長(cm)-2244.45
    さらに,mEq/日は以下の式でg/日に換算する。
    摂取食塩量(g/日)≒尿中Na(mEq/日)×0.0585
    摂取Na量(g/日)≒尿中Na(mEq/日)×0.023
  • *2試験紙や簡単な塩分計による方法は,簡便であるが信頼性は低く,定量的な評価は困難である。
(文献254

 

 
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