(旧版)高血圧治療ガイドライン2009

 
第3章 治療の基本方針


2.初診時の高血圧管理計画

初診時に血圧が高くても,通常は日を変えて再度,数回血圧を測定する。その間に,家庭血圧の測定を指導し,白衣高血圧,白衣現象,仮面高血圧の有無,臓器障害,高血圧以外の合併する心血管病の危険因子の有無,程度を検索して,血圧値を含めた患者の全体としての心血管疾患発症リスクを評価する。
生活習慣の修正はすべての患者に徹底されなくてはならない。特に,高リスク群や近年急増している糖尿病,慢性腎臓病(CKD),ひいては心血管病発症の重大な危険因子とされるメタボリックシンドロームを伴う場合には,厳格かつ継続的な生活習慣の修正の徹底が求められる。2008年4月より開始された特定健診・特定保健指導においてはメタボリックシンドロームの予防,支援,管理が中心課題になっている(「第7章 他疾患を合併する高血圧」 参照)。また,家庭血圧計やABPM(2008年4月より健康保険の適応)による血圧測定値と診察室血圧値との乖離が大きい場合は,診察室血圧より家庭血圧やABPM値を重視して治療方針を決定することが妥当と考えられる。患者の全体としての心血管疾患発症リスクを評価した後,その評価内容,治療方針,診察室血圧および家庭血圧の降圧目標値を患者に具体的に説明し,周知させる。
初診時の血圧が140-159/90-99mmHgのI度で,かつ,他に危険因子,臓器障害や心血管病を認めない低リスク患者の場合は,生活習慣の修正を行い一定期間(3か月以内)に血圧を再度測定する。再検した血圧値のレベルによりリスクの層別を行い,図3-1に準拠して治療計画を決定する。近年の多くの観察研究は,正常高値血圧(130-139/85-89mmHg)22),141),142),143)はもとより正常血圧(130/85mmHg未満)9),11),129)でさえも至適血圧(120/80mmHg未満)に比べ,心血管病発症のリスクが増大することを示しており,降圧薬治療を開始する収縮期血圧の閾値は低くなってきた。したがって,低リスク患者であっても,生活習慣の修正の指導のみで140/90mmHg未満に血圧が下がらない場合には,一定期間(3か月以内)後に降圧薬治療を開始する。一方,初診時の血圧がI度であっても,血圧以外の心血管病の危険因子数,糖尿病やCKDを含めた臓器障害や確立された心血管病の有無により中等リスクあるいは高リスクと評価された場合には,図3-1に従いそれぞれのリスクに準拠した治療計画を策定,実施する。
初診時の血圧が160-179/100-109mmHgのII度で,家庭血圧の測定により白衣高血圧や白衣現象の存在が除外され,他の危険因子を加味したリスク評価で中等リスクの場合には,一定期間(1か月以内)の生活習慣の修正の指導後に降圧薬治療を開始する。血圧がII度であってもリスク評価で高リスクに該当する場合には,直ちに降圧薬治療を開始する(図3-1)。初診時の血圧が180/110mmHg以上のIII度では高リスクと評価され,直ちに(数日以内に)降圧薬治療を開始する。
糖尿病,CKD,脳血管障害,心疾患などの臓器障害や他疾患を合併する患者については,たとえ血圧が140/90mmHg未満であっても高リスクと評価される(表2-8)。強力な生活習慣の修正の指導(「第4章 生活習慣の修正」参照)とともに,目標血圧に達しない場合には,それぞれの病態に適合した降圧薬による厳格な降圧治療を考慮する(「第5章 降圧薬治療」「第6章 臓器障害を合併する高血圧」および「第7章 他疾患を合併する高血圧」 を参照)。
メタボリックシンドロームを伴う患者で,血圧値が正常高値(130-139/85-89mmHg)で,かつ空腹時血糖値が110-125mg/dLと糖尿病に至らず,加えて臓器障害を合併しない場合の降圧治療の有用性に関する大規模試験によるエビデンスはない。そのためESH-ESC 2007ガイドラインでは,このようなメタボリックシンドローム患者のリスク評価を超高リスクに次ぐ高リスクとしながら,その治療においては厳重な生活習慣の修正の指導にとどめ,降圧薬による積極的な治療は現時点では推奨できないとしている85)。本ガイドラインでも,このようなメタボリックシンドロームを伴う患者の治療として,まず,厳重な生活習慣の修正の指導を勧告することとした(「第7章 他疾患を合併する高血圧」 参照)。

図3-1.初診時の高血圧管理計画
図3-1.初診時の高血圧管理計画
正常高値血圧の高リスク群では生活習慣の修正から開始し,目標血圧に達しない場合に降圧薬治療を考慮する


表2-8.(診察室)血圧に基づいた脳心血管リスク層別化
表2-8.(診察室)血圧に基づいた脳心血管リスク層別化
  • *リスク第二層のメタボリックシンドロームは予防的な観点から以下のように定義する。正常高値以上の血圧レベルと腹部肥満(男性85cm以上,女性90cm以上)に加え,血糖値異常(空腹時血糖110-125mg/dL,かつ/または糖尿病に至らない耐糖能異常),あるいは脂質代謝異常のどちらかを有するもの。両者を有する場合はリスク第三層とする。他の危険因子がなく腹部肥満と脂質代謝異常があれば血圧レベル以外の危険因子は2個であり,メタボリックシンドロームとあわせて危険因子3個とは数えない

 

 
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